中国研究の権威、中嶋嶺雄先生との共著です。
副題的な記述は以下のようになっています。
「暴走する中国、封じ込めるアメリカ」
「2007年から世界情勢の大転換が始まる!! そのとき日本はどうすべきか」
「台湾問題、北京五輪、共産党大会、上海万博、北朝鮮をめぐる攻防、緊張感増す米中の水面下の駆け引き」

この『米中新戦争』(ビジネス社刊)のまえがきを以下に紹介します。

「まえがき」

 

 中国は依然、私たちの前に大きくそびえている。明と暗、光と影を複雑に錯綜させたその巨大な姿は私たちに期待や希望を抱かせる一方、懸念や反発さえも感じさせる。日本にとって、日本国民にとって、中国とは一体、なんなのだろう。いやこの世界にとって中国とはなにか。

 この書はそんな中国が内に外にみせるダイナミックなうねりを二〇〇六年末という時点に立って、もう一度、多角的に考察し、論証しようという試みである。中国研究の泰斗の中嶋嶺雄氏との対談という形で、中国と日本、中国とアメリカ、そして中国内部の動向などに光をあて、それぞれの側面の意味を論じた。

中嶋氏との同種の共著『2008年 中国の真実』(ビジネス社、二〇〇二年)、『中国暴発』(同、二〇〇五年)に続く中国解析の作業であり、ここ二年ほどの新しい動きをクローズアップした。

 

しかし中国について考えるには、いまが好機だろう。二〇〇六年十一月末の現在、日本と中国との関係は、当面の切迫する摩擦がひとまず薄れ、いくらかのゆとりをもって全体をみまわせるようになったからだ。

 安倍晋三新首相は二〇〇六年十月、中国を訪問し、胡錦濤国家主席と会談した。それまでの五年余の小泉純一郎政権時代には、中国側がいわゆる「靖国問題」を理由にボイコットしていた日中首脳会談の再開だった。中国側は日本の現首相も、次期首相も靖国参拝の中止を事前に言明しない限り、首脳会談に応じないと断言していた。ところが安倍新首相はそんな言明はしていないのに、中国側が首脳会談に応じたのだ。いわゆる「靖国問題」は中国側が対日戦略の武器として人工的に打ち出した産物であることを実証したような態度だった。

 だからいまなら靖国をめぐる火花に惑わされず、中国を考えることができる。もちろん「靖国問題」は消えていない。中国当局が電灯をつけるようにスウィッチを入れさえすれば、またすぐ表面に出てくるのだ。しかも日中両国間には尖閣諸島の領有権や東シナ海のガス田開発など年来の衝突案件がある。アメリカとの同盟強化策として日本が最近とってきた一連の安全保障措置も中国の反発をかっている。こうした日中間の実質的な諸課題を靖国の炎が当面、静まったこの機に、じっくりと考えることができるのである。

 

 アメリカでも十一月上旬の中間選挙での議会民主党の前進で、ブッシュ政権の外交政策も改めて再考の試練にさらされるようになった。もちろんイラク政策の構築、再構築が最優先されるだろうが、中国をどうみて、どう対処するかも、共和、民主両党の長期の重要課題となっている。アメリカの視点から中国を考えるには、これまた好機だといえよう。

 中国は単に日本に対し、その存在をますます巨大にするだけでなく、超大国アメリカにとっても、さらにはグローバルにもパワー拡大を明確にしている。中国政府が十一月に北京にアフリカ諸国首脳を招いて対アフリカ外交の大キャンペーンを盛大に打ち上げたことなど、そのほんの一例である。

 中国はアメリカの至近地域である中南米でも活発な進出を続けている。中東や中央アジアでも影響力の拡大が目立つ。まさにグローバルな台頭なのである。その結果、アメリカ主導の既成の国際秩序へのチャレンジともなって、アメリカ側には米中新冷戦の始まりだとする認識を広めるにいたった。

 中国のグローバルな拡大には自国の軍拡や接近する相手の諸国への軍事援助を伴う。同時にアメリカがもっとも忌避する非民主主義的な独裁国家への親密な接近も目立つ。こうした軍事志向と反米傾向がにじむ動きはアメリカ側の一部に「中国とはいつかは冷戦だけでなく、熱い戦争までが避けられない危険さえある」という懸念を生むにいたった。

 他方、中国はアメリカにとっても、日本にとっても貴重な協力の相手ともなる。北朝鮮の核兵器開発の阻止の努力でも、国際テロ勢力の活動を防ぎ、滅ぼそうという試みでも、中国の協力が欠かせないともみえる場面がよく生まれるようになった。経済をみても中国は日米両国などには価値あるパートナーである。

 中国自身も既存の国際社会へのよき協力者、よき参加者としての言動をふんだんにふりまく。アメリカ側が「ステークホルダー」(利害保有者)と呼ぶ役割であり、期待である。中国みずからが真にそうした目標を求めている部分もあるだろう。

 だがそう断じるにはいまの中国にはあまりに不整合、不透明の領域が広い。中国内部の社会や政治の揺れる実情をみても、経済の高度成長のひずみの実態をみても、中国自体がまだまだどこへいくのかわからない不確定要因、不安定要因であることも否定できないのである。

 この書ではそうしたあるがままの中国を日本やアメリカ、そして国際社会という多様な視点から率直に論じ、伝えたつもりである。

 本書の実際の本づくりに際しては中国に詳しいジャーナリストの加藤鉱氏とビジネス社の編集者の武井章乃氏の貴重なご助力を得たことに深い感謝を表明したい。

 二〇〇六年十一月    

            古森義久