アメリカの政治への関心が高まっているようです。そのなかでも新しい民主党多数の議会の動向は日本側にとってもとくに気になるところです。
前回のコメントでは新議会の対日姿勢について報告しました。では中国に対する姿勢はどうでしょうか。
ここにアメリカ新議会の対中姿勢、対中認識に関して興味ある語録があります。女性で初めて下院議長となったナンシー・ペロシ女史の中国に対する種々のコメントです。
私はこのテーマについてこれまで産経新聞本紙その他で報道してきましたが、改めて詳細を以下に紹介します。

一月はじめに幕を開けたアメリカの第百十会期新議会では年来、中国を激しく糾弾し、「反中」とさえみなされてきた民主党議員たちが大きな役割を演じることになった。この事実は日本のマスコミではほとんど報じられていない。

その筆頭は下院議長となったナンシー・ペロシ議員である。

中国糾弾ということではペロシ議員のこれまでの言動は下院全体でも突出してきた。サンフランシスコを選挙区とするペロシ議員はそもそも自由や人権の擁護を信条とする超リベラル派であるうえに、選挙区内には全米でも最大規模のチャイナ・タウンを抱えている。この中国街には台湾系や香港系も含めて中国共産党の独裁態勢を批判する中華系住民が多い。

「胡錦濤は中国住民とチベット住民の自由、民主主義、宗教上の表現を残酷に粉砕した政権のリーダーである。そんな指導者が米国民の税金による赤い絨毯や二十一発の礼砲での大歓迎をブッシュ大統領から受けるのだ」

「この胡政権はイランや北朝鮮を含む国際的安全保障を脅かす諸国に軍事技術を提供するのだ。しかも台湾に軍事攻撃の脅しをかけ、政治や宗教の信条を表明する中国民を拷問にかけ、ダライラマの肖像画を持参するチベット住民を逮捕するのだ」

以上はペロシ議員がつい二〇〇六年四月、ロサンゼルス・タイムズに寄稿した一文の記述である。胡錦濤国家主席がワシントンを訪れ、ブッシュ大統領と会談する直前に、当時、民主党の下院院内総務だったペロシ議員は中国をこのように激しく非難し、ブッシュ政権の対中政策をも「苛酷な独裁政権に寛容すぎる」として糾弾したのだった。

一九八七年に下院に初当選したベロシ議員は八九年の天安門事件以後、中国糾弾を鮮明にするようになった。中国共産党による民主派弾圧を厳しく批判して、中国民主活動家たちが天安門広場に作った「自由の女神」のレプリカを自分の議員事務所に堂々と飾って、中国当局への抗議の意思を表明した。

九一年九月に中国を訪問したペロシ議員は天安門広場で中国の民主化を呼びかける政治スローガンを記した横断幕を掲げて、警官に阻止された。中国当局は同議員の言動を「反中の茶番」と断じて、公式に非難した。ペロシ議員は以来、中国政府首脳を指して「北京の殺戮者たち」という表現までを使うようになった。

ペロシ議員はさらに九二年に時の先代ブッシュ大統領が中国の当時の李鵬首相と会談した際には「米国大統領がなぜ殺戮者と握手するのか」と糾弾した。同議員は自分と同じ民主党のクリントン大統領に対してさえ、九七年十月の江沢民国家主席(当時)をホワイトハウスに招いての国賓ディナーに抗議して、「国無しディナー」を催し、「ブッシュ大統領は独裁者を甘やかせたが、クリントン大統領は独裁者の宣伝に努めた」と批判した。

ペロシ議員はそのうえに中国非難を単に人権の領域に留めず、中国の世界貿易機関(WTO)加盟や北京オリンピック開催にも強い反対を表明し、議会での投票でもその反対を体現してきた。要するに米国議会全体でももっとも過激な反中派と目されてきたのだ。

ペロシ議員は前述の昨年四月の寄稿論文では、中国による大量破壊兵器のパキスタンや北朝鮮への拡散、人民元レートの操作、貿易の不公正慣行などを非難し、ブッシュ政権の対中政策を「宥和的すぎる」と断じていた。ブッシュ政権が対中政策のキーワードの一つとする「ステークホルダー(利害保有者)」という用語をも「単なる楽観的な考え」と一蹴したほどだった。

こうした厳しい対中言辞の実績を持つペロシ議員が下院議長になるという見通しは中国側にも懸念を生んだ。北京の中国側の米国専門家たちやワシントンの中国大使館の館員らはペロシ議員が年来の反中姿勢を新議会での議事運営に反映させるという展望への警告をしきりに表明するようにもなった。

ただしペロシ議員は昨年十一月の中間選挙で民主党が進出し、下院議長に選ばれることが確実となってからは、中国を糾弾する言葉をとくに発していない。しかし同議員の補佐官は米国大手紙記者に対し「ペロシ議員は議長になっても中国の人権や自由への弾圧に対する見解は変えはしないだろう。だから下院本会議での審議法案の選択では議長として中国に対して強硬な法案を優先させるかもしれない」と語っている。

 

 ただしペロシ議員は中国非難をブッシュ政権への攻撃にも使ってきた。議会での多数党だった共和党を攻撃する手段に中国を使うという側面があったのだ。その野党側議員たちが議会での多数政党となると、立場はかなり異なってくる。ただ攻撃のための攻撃として、中国批判を展開することは難しくなるだろう。だからこれまでの激烈な中国非難の言辞も、レトリック過剰を差し引いて、受けとめる必要もあるようだ。

 だがなおそれでも、中国に対して年来、これほどの厳しい批判を浴びせてきた民主党有力議員が下院の議長という要職に就いたのである。民主党多数の新議会が中国にことさら甘くなったり、中国に踊らされるようなことにはならず、むしろ人権や経済という領域では中国をこれまで以上に強く、激しく、批判していく見通しが強いといえるのだ。