中国が近年、軍事力の大幅増強を続けていることは、すでに周知の事実です。なかでも核兵器を量、質ともに強化していることは、非核を標榜する日本にとって、とくに気がかりな動きです。

アメリカも中国の軍拡に懸念を表明しています。
このところ米中関係でもこの中国の軍事力増強が影を広げ、アメリカ側は抗議を強めるようになりました。
そのへんの実態は私も改めて、日経BPのインターネットコラムなどで報告しています。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/i/45/

アメリカの国防総省は毎年、「中国の軍事力」という報告書を議会に送り、そのなかで中国の陸、海、空の三軍から戦略核戦力、さらには宇宙兵器まで、広範かつ詳細にその軍拡の実態を報告しています。今年はこの5月25日に発表されました。そのなかでは核兵器や弾道ミサイルの増強、潜水艦や宇宙兵器の開発などがとくに顕著な動きだとされています。

私はたまたま同じ日に、中国の核戦力の大増強を伝えるアメリカ陸軍大学の戦略研究所の報告書について、産経新聞で報道しました。

中国の核兵器の増強について、私はいつもふしぎに思うことがあります。それは日本の反核運動活動家たちがなぜこの隣国の危険な核兵器増強に反対を表明しないのか、という点です。

日本の反核運動家のみなさん、どうか中国の核兵器増強に反対してください。
広島市の秋葉忠利市長も毎年の広島での原爆投下記念日の厳粛な挨拶で、中国の核の危険にもぜひとも抗議してください。

というお願いをこめながら、以下に中国の核戦力増強についての記事を紹介します。産経新聞5月26日付掲載です。


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ワシントン=古森義久]

米国陸軍大学の戦略研究所は24日までに「中国の核戦力」と題する研究報告を公表した。同報告は中国軍が最近、核兵器に関する戦略を大幅に変え、①日本を射程内にとらえる弾道ミサイルに核と通常の両方の弾頭を混在させるようになった ②米海軍の機動部隊に核と通常両方の弾頭装備の弾道ミサイルを使う新作戦を立て始めた ③年来の「核先制不使用」の方針を変える兆しをみせてきたーことなどを指摘し、米軍側への新たな対応を提案した。

   

 同報告は同戦略研究所の元所長で現在は米国議会の超党派政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員を務める中国軍研究の権威ラリー・ウォーツェル氏により作成された。同研究所の支援で書かれた同報告は42ページから成り、「中国の核戦力=行動・訓練・ドクトリン・指揮・管制・作戦計画」と題されている。

 同報告は中国人民解放軍国防大学の最新の戦略教典「戦役理論学習指南」など一連の文書に米国当局の情報などを加えた資料を基礎としている。


 同報告はまず中国が米国の軍事能力とアジアでの安保政策のために米国を最大の潜在脅威とみなし、戦略ミサイル部隊の「第2砲兵」を中心に米軍との核戦争をも想定し、ことに最近、核と通常の戦力の相互関係を主に弾道ミサイルの機能にしぼって再考し始めたーと分析している。

 同報告は中国が最近、年来の「核先制不使用」(軍事衝突でも核兵器は先には使わないという言明)の方針を変え始めたと述べ、その理由として米軍が通常兵器の性能を高め、非核の第一撃で中国側の核戦力を破壊し尽くす能力を高めたため、中国側では自国の核が報復力を失い、抑止効果を発揮できないという見方を強めてきた、ことをあげた。

 
 同報告はさらに中国軍が米海軍の空母を中心とする機動部隊に対し核、非核両方の弾頭を装備した弾道ミサイルで攻撃をかけるという新戦術を実行する能力をほぼ保持するにいたった、と伝えている。

中国軍は弾道ミサイルによる米機動部隊の制圧、あるいは撃滅の能力開発を長年の目標とし、そのためには弾道ミサイル用の個別誘導複数目標弾頭(МIRV)技術をも開発中だという。

 
 同報告はまた中国の核戦略の危険な側面として「核弾頭と非核の通常弾頭とを同じクラスの弾道ミサイルに装備し、たがいに近くに配備して混在させる傾向がさらに強くなった」点を指摘した。

その危険性とは米側が中国側から発射されたミサイルが核か非核か判定できない確率が高まり、事故のような核戦争を起す可能性が強まることだという。

米軍の場合、核弾頭装備のミサイルと非核弾頭装備のミサイルとはクラスをあえて別個にしている。

 
 同報告は中国軍が核と非核の弾頭を混在させている比率が最も高いのは中距離ミサイルのDF(東風)21=別称CSS5=だと述べ、射程1800キロの同ミサイルはとくに日本の要衝や沖縄の米軍基地に照準を合わせて配備されているとしている。

中国軍の保有するDF21は合計50基以上だとされるが、同報告は「中国軍はこの機動性のある中距離ミサイルを日本や沖縄の米軍基地への脅威として現在よりも多く必要としており、日米側はその増強に注意し、対応策を考えねばならない」という警告を発した。