アメリカ下院に出された慰安婦問題での日本糾弾の決議案は6月26日に下院外交委員会で採決されることになりました。現状ではまず確実に可決されるでしょう。その後、下院本会議に回されるわけですが、そこでの展開はまだよくはわかりません。

実は同種の慰安婦決議案は昨年9月にも下院外交委員会(当時の名称は国際関係委員会)で採択されています。だから今回の採択もそれ自体はとくに新しいことではありません。昨年は委員会から本会議に回された決議案は本会議では審理されず、廃案となりました。今回はどうなるか、まだ不透明です。

さて決議案の内容ですが、周知のように慰安婦は「性的奴隷」と評されています。英語だとsex slaves です。
しかしアメリカ人の歴史学者アール・キンモンス博士は「日本の慰安婦を奴隷と描写することは不適切」と断言して、その理由を明確にあげています。

キンモンス氏は日本の近現代史を専門とし、ウィスコンシン大学で博士号を取得し、コーネル大学やシェフィールド大学(イギリス)で教えてきたベテラン歴史学者です。

そのキンモンス氏が最近のアメリカのインターネット論壇
NBR JAPAN FORUMに書いた一文で、日本の第二次大戦中の慰安婦を奴隷と同じ扱いをするのは不適切、不正確だと主張しています。なぜなら慰安婦は奴隷の要件にあてはまらない特徴が多々あるからだ、というわけです。この場合の奴隷は大西洋をまたいでイギリスとアメリカの間で取引され、主としてアメリカ国内に存在した奴隷を指す、としています。

キンモンス氏は慰安婦が奴隷ではない、奴隷とは異なる特徴として以下の10点を列挙しています。

(1)not permanent----終身ではない。つまり奴隷は終身であるのに、慰安婦は終身ではない、ということです。

(2)not heritable....相続性がない。つまり奴隷はその持ち主の子孫にまで相続されたが、慰安婦はそんなことはない、ということです。

(3)not race based....人種に基づかない。つまり奴隷は黒人という特定の人種の区分に基づいていたが、慰安婦はそんなことはない、ということです。

(4)no religious backing for the system...制度を支える宗教的土台がない。つまり奴隷制度はキリスト教の教えの延長で正当化された部分があったけれども、慰安婦にはその種の宗教的なからみはまったくない、ということです。

(5)no asset value....資産価値がない。つまり奴隷は持ち主の財産、資産として扱われたが、慰安婦はそんなことはなかった、ということです。

(6)no market based trading....市場取引がない。つまり奴隷は市場で取引されたが、慰安婦はそんなことはなかった、ということです。

(7) no civil legal or institutional structure to return and/or penalize those who left....離脱した人間を懲罰、あるいは帰還させるための法的、制度的な仕組みがない。つまり奴隷制度では逃亡した人間を捕まえ、戻し、罰する法的、制度的な仕組みが存在したが、慰安婦にはそんなことはなかった、ということです。

(8)wages promised, and at least in the early stages,actually paid....賃金を約束され、少なくとも当初の段階では実際にそれが払われていた。つまり奴隷は賃金が約束されず、払われることもなかったのに対し、慰安婦は支払いを受けていた、ということです。

(9)gender specific....特定の性別。つまり奴隷には男女の区別はなかったが、慰安婦は女性だけだった、ということです。

(10)social mobility....社会的可動性。つまり奴隷は奴隷以外にはなれなかったのに対し、慰安婦は条件や勤務ぶり次第で慰安所の経営者などにもなれた、ということです。

以上のような相違をあげたキンモンス氏は「だから慰安婦を奴隷と呼ぶことは不適切だ」と述べています。

この点だけをみても決議案の内容のずさんさがわかるというものです。