民主党代表の小沢一郎氏がアメリカが切望している日本の自衛隊のインド洋での給油活動継続に反対しています。この継続を可能にするテロ特別措置法の延長に反対しているのです。アメリカ側ではこの反対が日米同盟の緊密化からの離反、あるいは国際的な対テロ掃討活動からの離脱として、小沢氏への批判を高めています。
日本のインド洋での活動はアメリカ、イギリス、ドイツなど多数の諸国がアフガニスタンで進めるアルカーイダ、タリバンの掃討作戦、つまり国際テロ勢力への戦いを支えています。だから日本がインド洋で給油活動を続けることには、イギリスの外相もつい最近、読売新聞への寄稿で高い評価と感謝とを表明していました。

小沢氏の最近の言動に関してはとくに、トーマス・シーファー駐日アメリカ大使との会談をすべてマスコミにさらしたことが「外交儀礼違反」として米側識者の反発を生んでいます。
それも、これも、小沢氏はこのところ反米志向をことさら誇示しているといえましょう。小沢氏の過去の政治言動をよく知る人間にとっては、驚嘆させられる現象です。というのは小沢氏といえば、1980年代から90年代はじめにかけて、とくに自民党幹事長時代、対米協調の親米で知られていたからです。具体的にはアメリカが求める日本の市場開放や規制撤廃に、きわめて積極的に協力し、野中広務氏らからは「売国」というレッテルを貼られたほどでした。

小沢氏は湾岸戦争前後にも自衛隊の海外派遣を積極的に推進しました。アメリカの要請に応じた形でした。日米同盟、そして国際安全保障への積極貢献ということでした。その小沢氏がいまやアフガニスタンでの国際的な対テロ闘争作戦への協力を拒むのです。

この小沢氏の反米の言動は国内でのアピールを狙い、安倍政権をさらに揺さぶるパフォーマンスなのか、それとも、真の変節なのか。
このへんはアメリカ側でも議論の対象となっています。
その点について2日前に書いた記事を以下に紹介します。


【緯度経度】ワシントン・古森義久 小沢氏「反米」への変節
2007年08月25日 産経新聞 東京朝刊 国際面

 小沢一郎氏はオオカミの皮をかぶったヒツジなのか-。

 テロ対策特別措置法の延長に反対する民主党の小沢代表の態度をめぐり、米国の日本専門家たちの間では辛辣(しんらつ)で活発な議論が続いている。「全米アジア研究部会」(NBR)という民間研究機関の日本関連論壇サイトで米側関係者たちが実名を出しての熱い論議を展開しているのだ。

 「小沢氏は結局、日本が安全保障上では国際的になにもしないという年来の態度を『国連優先』という響きのよいスローガンで隠しているだけだ。国連が現実には安保面できわめて無力なことはあまりに明白ではないか」

 だから小沢氏はオオカミを装ったヒツジだ、と説くのはもう30年来、日米関係を報道してきたベテラン・ジャーナリストである。

 「小沢氏は民主党内になお存在する日本が防衛問題で行動をとることにはすべて反対という旧社会党勢力を離反させないためにテロ特措法に反対するのだ。湾岸戦争当時、小沢氏ほど自衛隊海外派遣など安保面での対米協力を強く主唱した日本の政治家はいない」

これまた数十年間、日本研究を重ねてきた学者の言である。

 このふたりの論者はさらに小沢氏がとにかく自民党政権を揺さぶり、自分たちが政権を取るという目的のためには、たとえ自分自身の年来の主張を変えてでも、反米や反国際協力の姿勢をとるようだ、という疑念を表明する点でも共通していた。

 国防総省元日本部長のジム・アワー氏の批判はより辛辣である。

 「小沢氏は北朝鮮のミサイル脅威や台湾海峡の有事、あるいは中国の野心的な軍拡という事態に対し国連が日本の安全を守ってくれるとでもいうのか。テロ特措法による日本の自衛隊のインド洋での給油活動は日米同盟への貴重な寄与だけでなく、アフガニスタンで国際テロ勢力と戦う多数の諸国による国際安保努力への死活的に重要な協力なのだ。その停止は日米同盟と国際安保活動の両方からの離反ともみなされ、日本自体の安全保障にも大きな損失となる」

 確かに米国政界でもアフガンでの治安維持活動への支持は広範である。イラクでの米軍の活動に反対する民主党側の大統領候補バラク・オバマ上院議員や慰安婦問題で日本を批判したトム・ラントス下院議員も、日本のインド洋での後方支援を国際テロ撲滅やアジア安定への枢要な貢献だと礼賛した。

 共和党側でも大統領選に立つルドルフ・ジュリアーニ前ニューヨーク市長は、日米同盟を通じての日本の安保協力強化の意義を強調し、もしアフガンでの作戦が失敗すれば、同国は再びテロリストの楽園になるだろうと警告した。慰安婦決議の日米関係への悪影響に配慮して下院外交委員会が超党派で採択した対日同盟感謝決議も、日本のインド洋での活動への高い評価を特記していた。

 だから小沢氏の反対には米国側の超党派の反発が起きることは確実である。

 しかもアフガンでのテロ撲滅作戦にはきわめて広範な国際参加がある。程度に差こそあれ、北大西洋条約機構(NATO)を主体に合計三十数カ国が関与する。私自身もカブールを訪れ、ルーマニアやイタリアという諸国の将兵が治安維持に加わっているのを目撃して、この活動の国際性を実感させられた。しかもその活動は国連安保理決議1386で認められているというのが一般の解釈である。

 アワー氏はさらに小沢氏がトーマス・シーファー駐日米大使との会談をすべて報道陣にさらしたことを「外交儀礼に反する米国への非礼」と批判し、小沢氏が政権奪取という目前の政治的動機によって基本政策までを変えてしまうようにみえる点を非難した。

 この2点は相互に無関係とは思えない。いまの日本で米国大使をあえて粗雑にあしらい、「反米」を演出することは一面、児戯めいていても、国内の一部にはアピールするのだろう。

 小沢氏といえば、1990年代はじめ、日米経済摩擦にからむ日本市場の開放でも、湾岸戦争がらみの自衛隊海外派遣でも、日米関係重視という立場から米国の望みや悩みに最も理解を示す政治リーダーとして日米双方で知られていた。野中広務氏あたりからは「売国」に近いレッテルを張られたほどだった。そんな対米関係重視派がいまや反米パフォーマンスを売りにする。日本の政治とはそんなものなのか。