朝日新聞が民主党の小沢一郎代表とのインタビューを11月16日付朝刊に掲載しました。朝日新聞はいまの小沢氏にとって、一番のお好みメディア、ということでしょうか。

さてその記事での小沢氏の発言はいろいろありますが、私が日ごろ報道対象としてみているアメリカとか日米関係に限って論評したいと思います。

小沢氏は日本がインド洋での対テロ国際活動への参加を止めることに関連して、朝日新聞側の「日米関係を心配する向きがある」という質問に答え、次のように述べたそうです。

「何の心配もない。ブッシュ大統領なんて米国民に支持されていないんだから、何で気兼ねするんだ。いま米国内でもブッシュ大統領の政策は批判の的だ」

以上が小沢氏の言です。
この言葉は非常に粗雑なアメリカ認識を示しています。誤認でもあります。
二重の意味で間違っている、ともいえます。

まず第一は、日本が参加していたインド洋での国際安保活動、そしてそれと一体となったアフガニスタンでの対テロ闘争はアメリカ国内で超党派の支持を得ている、ということです。

小沢氏はあくまで日本の自衛隊がインド洋から撤退することの日米関係への影響を問われて、答えています。そのインド洋に関するブッシュ大統領の政策は米国民の大多数、とくに国政の場では民主党も含めて、コンセンサスに近い支持があるのです。民主党のバラク・オバマ上院議員やトム・ラントス下院議員がいまのブッシュ政策の承認を大前提に日本の参加に謝意を表明していました。

ブッシュ大統領のイラクなどその他の課題に対する政策がいろいろ批判されていることは周知の事実です。しかしアフガニスタンの対テロ闘争とそれを支えるインド洋での欧州各国などと組んでの海上活動は大方の支持を得ているのです。

現に小沢一郎氏が主導した自衛隊のインド洋撤退はアメリカ側の共和党、民主党の両方の識者から非難されています。小沢氏を名指しで批判する人も珍しくありません。その一例が朝日新聞に出たマイケル・グリーン、カート・キャンベルの両氏による超党派の小沢批判論文でした。

第二には、外国の元首、しかも民主的な選挙で選ばれた元首に、かりにも日本の首相になりうる野党の代表が「国民に支持されていないんだから、気兼ねするな」と、ののしりに近い言葉をぶつける非礼です。

ブッシュ大統領を支持する米国民は多数、存在します。世論調査の支持率が下がっても、30%であれば、立派な支持でしょう。しかもその種の支持、不支持はあくまでアメリカ内部の身内の問題であって、外国から非難され、攻撃された場合の自国の大統領への態度となると、アメリカ国民は伝統的にがっちり団結して、支持します。

だいたい小沢氏の言葉の表現は他の主権国家の元首を評するのに、ふさわしいでしょうか。これを他の国におきかえてみましょう。
 
 「胡錦涛主席なんて中国国民に支持されていないんだから、何で気兼ねするんだ」
 「盧武鉉大統領なんて韓国国民に支持されていないんだから、何で気兼ねするんだ」

日本の政治家がこんな言葉を述べるでしょうか。
もし自民党側の有力政治家がこんな発言をすれば、野党の民主党は朝日新聞あたりと組んで、大問題とし、辞任を求めるでしょうね。ところが相手がアメリカだと、ブッシュ大統領だと、なんでもあり、総合格闘技の世界に一気に突入だから不思議です。

今回の小沢発言の標的は日本と同盟関係を結び、価値観を共有するはずのアメリカです。
普通の人間個人の場合でも、相互依存の関係にある相手なら、正常の思考では、競合や敵対の関係にある相手よりも丁重に接するでしょう。しかもアメリカの大統領は最も透明な民主的手続きで選ばれています。元首としての正当性を証する公的人物のはずです。

アメリカの一般国民からすれば、外国から飛んでくる、自国の元首の正当性を否定するような言は、アメリカという国家そのものへの誹謗につながりかねません。

アメリカの野党の民主党ナンシー・ペロシ下院議長が次のように述べるでしょうか。もし述べたらどうでしょうか。

 「福田首相なんて日本国民に支持されていないんだから、何で気兼ねするんだ」

こんなことを言われて、よい気持ちのする日本人はいますかね。いるかも知れませんね。でも不快に思う人が多数でしょう。

日本でも、他のどの国でも、公的な政治指導者が外国の指導者をけなすということは、きわめて異例です。慎重な配慮を要するのが普通であり、常識だということでしょう。
中国を対象とした場合を想定すれば、よくわかるはずです。国家と国家の間には少なくとも政治指導者の間での一定の礼節があるはずです。

小沢氏はひょっとして、いまの日本の一部の風潮に便乗して、アメリカの悪口なら、とくにブッシュ大統領の悪口なら、何を言っても構わない、という気持ちがあるのでしょうか。でないとすれば、こんな粗雑で乱暴な物言いは、なにが原因なのでしょうか。

まあアメリカの悪口ならなにを言っても平気だというのは、いま始まった風潮ではないでしょうが。