イラクの治安の回復が顕著になってきました。

えっ? と思う方も多いでしょう。
イラクといえば、あまりに多くの人たちの頭に「内戦」「泥沼」「殺戮」「破壊」そして「アメリカの挫折」というような言葉がインプットされてきたからです。

しかしイラクではここ数ヶ月、テロ攻撃が減り、宗派間の戦闘も、米軍やイラク国軍への攻撃も、減ったことは、どうにも否定のできない事実となってきたようです。

この事実は日本の大手マスコミではほとんど報道されていません。産経新聞には出ていますが、あと日本経済新聞が
同趣旨の傾向を伝える記事を一回、載せただけぐらいで、私のみる限り、残りは皆無です。

アメリカでもブッシュ政権のイラク政策に激しく反対してきた主要メディアは新聞もテレビも、このイラク情勢好転の動きを長い間、無視、あるいは軽視してきました。この態度はブッシュ政権を支持する勢力からは「リベラル・メディアのまたまたの偏向」と批判されてきました。

しかしイラクの治安回復がどうにも無視できない状況になって、ここ数日、あいついでそうした大手メディアも情勢好転を認める報道や論評を載せるようになってきました。ブッシュ政権のイラク政策には当初からすべて反対してきたニューヨーク・タイムズがイラクの治安の回復を大々的に報じたのです。ワシントン・ポストも社説でイラク情勢の軍事面の好転を認めました。

もちろんいまのイラク情勢の改善がどこまで続くのかは疑問です。また血なまぐさいテロ攻撃や戦闘が激しくなるかもしれません。でもまだその兆候はありません。

もしイラクの治安がこのままさらに回復し、その状態が定着し、民主化が進んだらどうでしょうか。ブッシュ政権に反対して、「イラク戦略は破滅」と断じていた勢力にとっては、政治的な悪夢となりかねません。万が一にもイラクの民主化が民族や宗派の和解とともに、成功してしまったら、困る人たちは日本にも多いでしょう。

しかし客観的にみて、イラクが安定した民主主義国家となることは中東情勢にとっても、国際社会にとっても、さらには日本にとってさえ、より好ましいことは明白です。
こんな想像をついしてしまうほど、イラク情勢のいまの変化は大きいといえます。

このイラク情勢の好転がアメリカではどのように受け止められているかを報告します。産経新聞11月23日朝刊に掲載された私の記事を基とします。

同時にイラク現地の写真を紹介します。
下は首都バグダッド市内で長い期間、閉鎖されていたカトリック教会が再開されるに際し、教会の屋根に十字架を再びつける作業の写真です。

この教会はアルカーイダらの攻撃の標的となり、2004年に閉鎖されました。イラク人の信徒たちも、大多数がその地域から避難してしまったそうです。しかし最近の治安の回復でその多くがまたもどってきたわけです。

この写真を撮影したのはアメリカ人のフリー・ジャーナリストのマイケル・ヨン記者です。







さて、イラク情勢の好転に対するワシントンでの反応について報告します。


イラクでのテロ攻撃がなお減り続け、米軍の増派による治安回復の効果がアメリカ国内でも認められるようになるにつれ、ブッシュ政権の政策に反対する民主党側の非難の議論にも複雑な変化がみられるようになりました。

  

イラク駐留の米軍司令部は18日の発表で①イラク全体での米軍、イラク政府軍へのテロ・軍事攻撃の総数は今年2月から55%減り、2005年夏以来の最少数となった②イラク民間人の死傷者は今年6月以来、全国で60%、首都バグダッドで75%減った③米軍の死者は今年6月の101人から10月には39人に減った―ことなどを明らかにしました。

イラクでのアルカーイダなどのテロ組織による自動車爆弾、道路爆弾、地雷、迫撃砲、ロケット砲、小火器での攻撃などの総計は10月には昨年2月以来の最低を記録し、11月に入ってもさらに減少が続いているとのことです。

 現地を視察して帰った米陸軍のロバート・スケールス少将は11月21日のウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で、イラク駐留のデービッド・ペトレイアス司令官が今年冒頭から増派米軍3万を主体にアルカーイダの本部組織をバグダッド郊外のバクバ地区に誘導し、撃滅作戦を展開して、7月までには掃討に成功した、と報告しました。

スケール少将はさらに「純軍事的にはイラクでの戦闘は分岐点を越えた」として平定がほぼ成功したと述べ、政治的な成功を可能にする土壌が生まれてきた、とも書いています。

ブッシュ政権は情勢好転にはきわめて慎重な姿勢をとり、「成功」とか「勝利」という言葉の使用を差し控えていますが、同政権のイラク政策に一貫して反対し、イラクでの軍事情勢の悪化を常に大々的に報道してきたニューヨーク・タイムズは11月20日付一面トップで写真数枚つきの「バグダッドが治安の改善とともに息を吹き返す」という見出しの長文記事を掲載しました。

この記事はバグダッドのルポが主体でした。そして、、テロ攻撃が激しい時期、避難していた市民のうち約2万人がこの2カ月ほどのうちに帰還し、市内の商店や学校の再開数も増え、結婚式まで頻繁に催されるようになった、と報じました。

ニューヨーク・タイムズの同記事は首都の治安については「今年2月には44件も起きた自動車爆弾テロがいまはゼロに近く、市内で発見される死体も1日35体から5体ほどに減った」と伝えました。
 
反ブッシュ陣営もイラクの少なくとも軍事情勢は改善されたことを認めるようになったといえます。

ブッシュ政権には同様に批判的なワシントン・ポストも18日の社説で「米軍のイラク増派が純軍事的な意味では注目すべき成功だという証拠は圧倒的となった」と認めました。

この社説は、今年1月にくらべると、イラクの治安は米軍やイラク人の死者数、自殺爆弾攻撃の回数など、どの基準でみても「莫大な改善」だとして、とくにバグダッドについて「マーケットの再開、夜間外出禁止令の緩和、膨大な数の避難民の逆流」などを強調しました。

 
しかし同社説は「増派の真の目的はイラクの民族和解に基づく連邦国家の円滑な出発という政治目標」のはずだとして、その政治面での好転はまだまだみられない、と警告していました。

 
ブッシュ政権を非難する民主党側もこれまではイラクの血なまぐさいテロや戦闘の状況を指摘して、政策や戦略の失敗を強調してきましたが、最近では議論の重点を微妙に変えるようになりました。イラク情勢が明らかによくなってしまったからです。

民主党の反戦派の代表ジョン・マーサ下院議員は20日、イラクの軍事情勢好転に対して「イラクの経済、雇用、社会の破綻、そして政治的和解の不在をみれば、軍事情勢の改善はイラク民主化の成功を意味しない」と言明しました。批判の重点をイラクの軍事情勢から政治情勢へと変えたということです。

なお私はこのイラク情勢の好転については別の場所でも書いています。そのリンクは下記のとおりです。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/61/

 

 
なおイラク情勢のこうした変化はアメリカ側でも大手メディアよりは、フリーのジャーナリストなどによって現地から詳しく報じられています。

その代表の一人が前述のマイケル・ヨン記者です。元米軍のスペシャル・フォース所属の軍人で、いまはフリーのジャーナリストのヨン記者は米軍部隊と緊密にかかわりながら、報道活動を続けています。

ヨン記者は最近、イラクの首都バグダッド市内で再開されたカトリック教会の再開の模様を取材しました。なぜその教会が閉鎖され、信者たちがどうしたのか、そして3年後のいまなぜ再開にいたったのか、などを説明し、イラク人の信者のために催された礼拝の儀式の様子も写真に撮りました。

ヨン記者のウェブサイトは以下の通りです。
迫真のルポや写真が満載されています。

http://www.michaelyon-online.com/

ヨン記者はこの教会再開に関する一連の写真は各国の報道機関などで自由に使ってもよいと言明しています。イラクに関する珍しい朗報なので、できるだけ広い範囲の人たちに知ってもらいたいということでしょう。下は教会の内部の風景です。