日本柔道界の指導者、山下泰裕氏がワシントンを訪れます。


  山下泰裕(やました・やすひろ)

柔道家+国際柔道連盟教育・コーチング理事+日露賢人会議議員1957年、熊本県生まれ。東海大学大学院卒業。全日本選手権9連覇、ロサンゼルスオリンピック無差別級金メダルほか、タイトル多数。
 
このワシントン訪問はアメリカの柔道界の要望や在留邦人の関心を受ける形で在米日本大使の加藤良三氏が動き、外務省のプロジェクトとして実現します。
山下氏はワシントンでは2月21日に到着してすぐ、日本広報文化センターで一般向けの講演と柔道の実技の披露、22日には地元のアメリカの小学校を複数、訪れ、日本商工会議所の昼食会で講演をします。

そして柔道という観点からのメインのイベントとして23日にほぼ1日を費やして、「ジョージタウン大学・ワシントン柔道クラブ」で柔道の実技講習会を開きます。この講習会へのアメリカ側の熱い反応をみると、山下氏の世界柔道界での人気のほどがうかがわれます。講習会はジョージタウン大学の大きな体育館を会場としますが、防火規則などの関連で参加を一応、100人に限りました。また資格も黒帯、茶帯以上と制限しています。それでもなお応募が全米の各地から殺到し、あっというまに定員に達してしまいました。その応募の顔ぶれがまた実に多彩、広範で、ウィスコンシン州などという遠隔地からもやってくるというのです。さあ、熱気に満ちたイベントとなることでしょう。

ここで痛感させられるのも、山下氏の個人の魅力はまた別として、日本が主導する柔道へのアメリカ側のきわめて強い関心です。日本側からみれば、日本で生まれ育った柔道の対外発信、そして国際的な普遍性ということになります。

以下は日本大使館の一部である「日本広報文化センター」での山下泰裕講演会の案内です。

Japan Information & Culture Center, Embassy of Japan Presents:

Rei!

Respect and Discipline on the Judo Mat

Lecture by Yasuhiro Yamashita,

Gold Medalist 1984 Olympics

Thursday February 21, 6:30pm

In the JICC Auditorium

The JICC is proud to present a lecture by legendary judo-ka Yasuhiro Yamashita. Winning all of his matches outright by ippon, Mr. Yamashita earned the gold medal in the judo men’s open division at the 1984 Summer Olympics in Los Angeles. He also has won four gold medals at the Judo World Championships.  After retiring from competitive judo with a record of 203 consecutive wins, Yamashita, an 8th degree black belt, is now engaged in training young judo-ka worldwide. He has been utilizing judo to promote cross-cultural interaction throughout Asia, the Middle East, Russia and North America.

 In conjunction with visits to schools and universities in the DC area, Mr. Yamashita, who is internationally renowned as one of the strongest judo-ka in history, will give a lecture at the JICC about rei or respect, which is the most fundamental element of judo. Following the lecture there will be a demonstration by two of his students who have competed in all-Japan judo championships.

This event is free and open to the public.  Reservations are required.

Please RSVP to jiccrsvpwinter08@embjapan.org

Seating is limited and granted on a first come, first served basis

Japan Information and Culture Center, Embassy of Japan3 Lafayette Center1155 21PstP St NWWashington DC 20036202-238-6949www.us.emb-japan.go.jp/jicc



なお山下氏と柔道の国際性については同氏が5年ほど前にワシントンを訪れた際にも、いろいろ話を聞いて、コラム記事を書きました。以下に紹介します。   


【緯度経度】伝統と国際協調柔道の模索 ワシントン・古森義久
2003年08月10日 産経新聞 東京朝刊 国際面


 ワシントンを七月末に訪れた柔道の覇者の山下泰裕氏から世界の柔道への抱負やジレンマを聞く機会を得た。山下氏の思索が日本の固有の価値観や文化を異世界にどう調和させ、発展させるか、という点で世界での日本の国のあり方そのものの模索とそっくりなのがおもしろかった。

 東海大学教授の山下氏はこの九月から国際柔道連盟の理事となることが決まった。教育・コーチング担当理事として柔道の国際的な普及に責任を持つ。この新任務に備えるため同氏は米国で一カ月、英語研修と国際交流に専念することにしたという。東海大学での後輩でニューヨーク在住のユーゴ出身スポーツコーチ、ラドミール・コバセビッチ氏宅を拠点としたが、加藤良三駐米大使やワシントン柔道クラブの招きで首都を初めて訪れた。

 加藤大使は日米交流の観点から全米柔道選手権で活躍したベン・キャンベル上院議員、東京在勤時代に柔術や柔道の特訓を受けたトーマス・フォーリー元駐日大使、静岡在住時代に各種の武道を学んだマイケル・グリーン国家安全保障会議日本・朝鮮部長などを招き、山下氏を囲む集いを開いた。

 山下氏は堅実な英語でキャンベル議員らと柔道に限らず、教育、体育、自己鍛錬から各国の価値観、日米関係にいたるまで語りあったという。

 山下氏は連邦議会や国防総省にも招かれた。国防総省ではペンタゴンの機能のあらましを見学した後、9・11テロ(米中枢同時テロ)の旅客機突入場所に作られたチャペルを訪れたり、ベテラン宇宙飛行士のケビン・チルトン空軍少将と懇談した。9・11テロについては山下氏はハイジャックされた旅客機内でテロリストに立ち向かった乗客のジェレミー・グリック氏が米国の柔道家だったことに特別の関心を抱いたという。その旅客機は中枢破壊テロには失敗して、墜落した。

 山下氏の三日間の首都滞在の最後はワシントン柔道クラブでの指導だった。同氏はここでもすべて英語で二時間半、百人ほどの米国柔道家たちに技を説明し、稽古(けいこ)への心構えを語った。引退して十八年とはいえ、滑るように動き、流れるように投げる練達は満場を魅了した。日本人がみせる日本の技量をこれだけ多数の米国人がこれだけ熱心に学ぼうとする光景はみた記憶がなかった。

 山下氏がいまこうした国際体験を改めて重ねるのも、九月からの新任務で諸外国代表との厳しいやりとりが予測されるからだという。

 世界の柔道も基本的にはまだまだ日本スタンダードである。多様な技の内容も種類も日本で長年発展してきたままが範だし、用語も技の名はもちろん、「始め」「待て」まで日本語が共通語なのだ。試合で相手に丁寧に礼をするという精神も日本基準といえるだろう。

 だがそれでも日本基準へのチャレンジは絶えない。古くは試合でのポイント制やカラー柔道衣の導入も日本本来の方式の変革を外国から求められた結果だった。なにしろ全世界百八十カ国に広まった競技だから考え方も多様をきわめるのだ。

 山下氏によると、最近では柔道をより広めるために用語を英語にするとか、テレビ放映を多くするために、礼を薄めて選手が喜怒をあらわにすることを許す、という案が外国から出されている。日本の伝統だけを固持していると、国際的な魅力を失い、五輪からも、テレビからも、やがては背を向けられる危険がある。かといって外国の求めるとおりに変えてしまえば、柔道のなかの日本までが失われる。山下氏のジレンマはこんな点にあるというのだ。

 日本の国のあり方も外部からの制度やアイデアをあまりに広範に採用すれば、古きよき日本が失われる。かといって日本独自の慣行ばかりを固守すれば、諸外国との国際協調を失う。とくに経済ではグローバル・スタンダードの拒否は効率の低下につながってしまう。どこに調和点を求めるかは山下氏の模索と同じだろう。

 ただし柔道が日本から世界に出ていっての対応を問われるのに対し、日本の国のあり方は世界から入ってきた事物への対応を問われるという違いはある。

 山下氏自身はこの模索への当面の指針として、柔道の礼節、つまり教育的価値と、あくまで一本勝ちを至上とする実技規範とを守ることだけは譲れない、と考えているという。

 「柔道を真に国際的な競技として確立するには日本の伝統部分をもある程度、変えねばならないのは自明だと思います。しかしこの二点だけは変えてはならない、というのが私の少なくともいまの確信です」

 山下氏は意外な柔軟性をにじませて語るのだった。 ((終わり)

この写真は山下氏とロシアのプーチン大統領との柔道交流の光景です。