アメリカ国防総省が3月4日、2008年度の「中国の軍事力」報告書を発表しました。
ちょうどこの日は大統領選の予備選がテキサス、オハイオなどの重要な州で催され、ヒラリー・クリントンとバラク・オバマの対決があったため、日本のマスコミでは、この「中国の軍事力」報告の内容はあまり大きくは報じられなかったようです。
 しかし日本にとって、その報告が伝える中国の大軍拡の意味は深刻です。 

 まずその報告書についての産経新聞の3月5日付朝刊の記事を紹介します。

米国防総省報告 「中国パワー台頭」 権益狙う軍増強に懸念

 

 【ワシントン=古森義久】米国防総省は3日、2008年度の「中国の軍事力」報告書を発表した。同報告書は中国が不透明な体制で軍事力を大幅に増強し、台湾制圧の能力を短・中距離ミサイルの1000基以上の配備で高めるほか、海軍力の強化で尖閣諸島の領有や東シナ海の権益をめぐる紛争への対処能力を高めている実態を伝えている。中国は米国本土に届く長距離核ミサイルの強化や航空母艦の開発にも着手しているという。

 毎年、米国議会に提出される同報告書は、中国が近年、一貫して軍事力の大幅な増強を進め、2007年の公表国防費は前年より19・47%増の約500億ドルだが、実際の軍事費は年間1400億ドルにも達すると述べた。

 中国の軍備拡張の目的について同報告書は「自国防衛の消耗戦から遠隔の地での領有権や資源の獲得を争う戦いを遂行する能力の保持を目指す」とし、東アジア地域からグローバルな規模へと向かう「台頭する軍事パワー」と特徴づけ、「東アジアの軍事バランスを変え、アジア太平洋を越える意味を有する戦略的能力を向上させている」と評した。

 同報告書はまた、中国の軍事態勢が秘密にされ、その増強や背後にある戦略の実情が不透明のままだとし、こうした実態が国際社会での中国への懸念を強めていると述べた。

 同報告書は中国の軍事力の目的として台湾攻略や米国との競合、その他の国家主権の発揚をあげ、日本との尖閣諸島の領有権紛争や東シナ海でのガス田開発をめぐる排他的経済水域(EEZ)の権益争いの軍事的解決をもその主目的の一つとして指摘した。

 同報告書は中国のこうした目的の下での具体的な軍備増強行動として(1)福建省地域で短・中距離の弾道ミサイルCSS6やCSS7の配備増強を続け、その数は合計1000基を超えた(毎年合計100基の割で増えてきた)(2)米国本土に届く大陸間弾道核ミサイルのDF31などの質を向上させ、数を増やしている(3)航空母艦の自国での建造に着手しつつある(4)昨年1月の自国の宇宙衛星破壊実験で成功したように、宇宙への軍事がらみの進出に積極的になってきた(5)「宋」や「元」などの新鋭潜水艦の開発から建造に力を注ぎ、海軍力増強のペースを高め始めた(6)空軍でも長距離の爆撃や攻撃の能力を高める-などという諸点を報告した。





 ちょうどこの報告書発表にタイミングと同じくして、中国当局は2008年度の国防予算を発表しました。日本円にして総額6兆600億円相当、前年度から17.6%の増加となっています。ついに中国は20年連続で国防費を前年よりも2ケタの比率の増加してきたことになります。しかも周知のように、実際の中国の軍事費はこの公表分の国防の3倍以上なのです。 
さあ、中国はいったいなぜこんな軍拡を続けるのか。アメリカ国防総省のデービッド・シドニー国防副次官補(東アジア担当)が報告書発表と同時に記者ブリーフィングをして
この疑問に答えようと努めました。その要点をいくつかあげましょう。

▽中国は経済や政治での膨張するパワーであるだけでなく、軍事パワーとしても台頭する存在であり、その軍拡による新しい軍事能力の取得は単に東アジア地域だけでなく、グローバルに意味を有する。

▽中国の軍拡の特徴はその不透明性、不可解さである。その目的や意図が不明なために、米国も近隣諸国も懸念を高めることとなる。

▽世界各国の政府も国民も中国のこれだけ大規模な軍事力の増強について、その目的をまったく知らないままに懸念を深めることになるため、こんごもその中国の軍拡の内容をきちんと把握していくことが肝要となる。


以下の写真はアメリカ側の調査研究機関が得た中国海軍の新鋭偵察機です。電子偵察やエレクトロニクスをフルに使っての相手の通信の傍受や妨害をすることも可能です。

 


 中国のこうした軍拡はアメリカがこれほど懸念するのですから、すぐ隣に位置する日本としてはさらに重大な影響を受けるでしょう。
 では日本政府はどう反応したのか。
 町村信孝官房長官は中国政府発表の国防予算の増加について、3月4日、「非常に不透明だ」「とても理解できない」などと述べました。「五輪や万国博覧会を開き、平和的に発展していこうというなら、もっとそのへんを明らかにしてもらいたい」との論評しました。
 しかし福田康夫首相からは明確な声は聞こえてきません。
 中国のこの大軍拡こそ、日本の指導者や政府は正面から政策的、制度的に取り組むべき重大課題でしょう。しかしとにかく中国の嫌がることはしない、言わないという感じの福田首相に中国に対する断固たる態度を期待するのは無理のようです。
 なんとも心配な現状です。