アメリカ政府の国務省がこのところ多方面から激しい非難を浴びています。
国務省の言動には奇妙、奇異、堕落と呼べるようなケースが多いからです。

最も顕著なのはチベット民族を弾圧している中国政府に対し「人権状況は改善された」という判定を下したことです。国務省はチベットでの流血の大弾圧が始まる直前に、中国を「人権侵害国」の年次リストから外してしまいました。中国政府の最近の人権政策を前向きに評価したということです。年次リストから外すことは賞賛と皮肉られても仕方ないでしょう。
その直後にまさに大規模な「人権侵害」事件が起きて、全世界が中国当局を激しく糾弾されるようになった経緯は周知のとおりです。

ワシントンでも、このため国務省は多方面から激しい批判を浴びるようになりました。
コンドリーザ・ライス長官(下の写真)も非難の的となっています。
これほどの人権弾圧を断行する中国政府をなぜ「人権状況改善」とみなすことができるのか、という批判です。大手新聞の論説もこぞって、この国務省の判断ミスを非難しました。議会でも共和、民主の党派の別なく、議員たちからの国務省非難が次々に表明されています。ライス長官ら国務省幹部はこのミスを認めて、謝罪しています。

Secretary of State Condoleezza Rice

アメリカ議会の国務省批判の代表例は以下に紹介する下院外交委員会の有力メンバーの声明です。

[ワシントン=古森義久]

米国議会下院外交委員会の共和党筆頭メンバーのイリーナ・ロスレイティネン議員は18日、中国のチベットでの住民や僧侶の弾圧を非難するとともに、米国務省が2008年度の世界人権報告書の「人権侵害国」の指定リストから中国を外したことを批判した。

 同議員は中国政府がチベット住民の基本的人権弾圧していると抗議する声明を出し、「中国当局がこの種の弾圧を続ければ、北京オリンピックの開催に悪影響が出る」と警告した。

 同議員はさらに米国務省が世界人権状況の年次報告書2008年版を11日に発表した際、「世界でも最も組織的な人権侵害国」としてこれまで北朝鮮やミャンマー、中国など合計10カ国を指定したのに対し、今年は中国を排したことを指摘し、

「この排除は間違いだった」と非難した。国務省は中国の最近の労働者への待遇改善などを理由に指定を外す措置をとっていた。しかしその直後に中国政府によるチベットでの大規模な弾圧が起きており、国務省は期せずして、判断のミスを証する形となっていた。

 ロスレイティネン議員はこの声明で「米国民は中国当局の法輪功への弾圧やチベット民族、ウイグル民族への人権の抑圧などに対し深刻な懸念を抱いている」とも述べた。

  
以上が記事の引用です。

この3月21日にもライス長官はまたまた謝罪の意を表明していました。
国務省の一部職員がいま大統領選挙に名乗りをあげるヒラリー・クリントン、バラク・オバマ、ジョン・マケインの3候補のパスポート申請書類を違法に読んでいた、というのです。
国務省当局はすぐにこの「ミス」を認めて、その職員たちを処分しました。各候補の申請書類に記された個人情報はプライベートの情報として内密にされねばなりません。ところがそれをその書類を管理する国務省の職員たちがこっそりみていたことは、動機は不明にせよ、犯罪行為に近い行動です。 
考えられる動機としては、もちろん選挙戦での争いの材料になるネガティブな事実が旅券申請書に書かれているかどうかを探そうとしたことでしょう。

ライス国務長官は3月11日付のワシントン・ポスト社説でも正面から非難されました。
見出しは「ライス女史の後退」、そして副見出しには「かつてエジプトの改革を主唱した国務長官がいまやアメリカの援助につけた人権保護上の制約を放棄した」と書かれていました。
エジプトにも人権侵害があり、アメリカ政府は2003年にエジプトに与える軍事援助のうち1億3000万ドル分をエジプト政府が反政府系のジャーナリストを不当に逮捕したとして凍結させました。
抗議の意図です。
ところがエジプト政府がこの種の言論弾圧をやめていないのに、アメリカ国務省は従来の「凍結」部分を解除してしまったというのです。
ワシントン・ポストはその解除の措置をライス長官への公開質問状のような形で非難しました。

さらに日本にとって重要なのは国務省がライス長官、クリス・ヒル次官補(下の写真)の主導で北朝鮮に対する宥和政策を進めていることです。
国務省首脳は北朝鮮が核兵器放棄の問題で「申告」をすれば、すぐにでも北朝鮮を「テロ支援国家」のリストから外すと言明しています。かつてのブッシュ政権の首脳は「北朝鮮の日本国民拉致事件が解決されない限り、テロ支援国家の指定を解除しない」と何度も言明していたのです。それが豹変してしまったのです。
このことも前述のロスレイティネン議員やジョン・ボルトン前国連大使が非難を続けています。

こうしたアメリカ国務省のこのところの言動や判断はアメリカ国内でも愚弄の的に近くなっています。つい、「国務省、ご乱心?」と、問いたくなるような現状です。

Picture of Christopher R. Hill