日本国内の大方の関心が中国にからむ諸問題に向けられている間に、北朝鮮による日本人拉致問題をめぐっての日米間の重要な動きがワシントンでありました。

なおこれに関連するテーマについて私は他のインターネット・サイトでも報告をしています。そのサイトのアドレスは以下のとおりです。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/74/

4月28日から5月3日まで、拉致問題の「家族会」の増元照明氏、「救う会」の島田洋一氏、恵谷治氏らが「合同訪米団」を結成してワシントンを訪問しました。公式な主目的は米側の人権団体が組織した「北朝鮮人権週間」の行事に参加することとされていましたが、現実にはアメリカの政府や議会に対し、改めて拉致問題の解決への協力を要請し、ブッシュ政権が核問題での不完全な「合意」を理由に北朝鮮を「テロ支援国家」指定から解除してしまうことがないよう訴えることがより大きな目的でした。

この合同訪米団には一歩、遅れて民主党の松原仁衆議院議員、自民党の中川昭一衆議院議員が加わりました。同様の訪米団は昨年11月にも平沼赳夫議員を団長として、ワシントンを訪れています。そのときとくらべて国会議員の参加はずっと少なかった
のですが、今回も非常に大きな成果をあげたといえます。

今回の訪米団は米国政府のクリストファー・ヒル国務次官補はじめ国家安全保障会議のデニス・ワイルダーアジア上級部長、デービッド・シドニー国防次官補代理らと会談する一方、議会では共和党のサム・ブランバッグ上院議員、イリアナ・ロスレーティネン下院議員ら多数の関係者と面会しました。

この一連の会談では日本側は拉致問題解決への協力の要請とともに、北朝鮮の核兵器開発問題での安易な妥協への反対を繰り返し、表明しました。ブッシュ政権がもし北朝鮮の核兵器に関する不十分な「申告」をそのまま受け入れ、引き替えに北朝鮮を「テロ支援国家」リストから外した場合、日本の北朝鮮への経済制裁を骨抜きにし、拉致問題の解決を阻む、という主張を再三にわたり伝えました。

日本側関係者の報告によると、この一連の会談では松原仁議員の発言が鋭く米側に迫り、大きな効果があったそうです。やはり国会議員の代表としての発言という部分が重みを発揮したのでしょうが、松原氏自身の的を射た遠慮のない意思表明の迫力も大きかったようです。日本の政治家の間でもアメリカに対して、堂々と自己を主張する人材が増えてきた、ということでしょうか。

その松原議員が先頭に立ってのヒル国務次官補との会談の内容を以下に紹介します。

Picture of Christopher R. Hill










ヒル国務次官補と拉致被害者家族会など合同訪米団面会/詳報
 
2008.5.3 18:34

 複数の出席者が明らかにした2日の拉致被害者「家族会」などの合同訪米団と、ヒル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)との面会の主なやりとり。(ワシントン 有元隆志)

【核問題】

  松原仁拉致議連事務局長代理(民主党) あえて核問題から聞きたい。

 ヒル氏 今日は核をやるのか、拉致をやるのか。

 松原氏 核についてまず聞きたい。北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除するハードルがどんどん下がってきているのではないか。核についても完全かつ正確な申告をしないと指定を解除しないという話になっているが、完全な申告の中身もどんどんハードルが下がっているのではないか。たとえば北朝鮮の核爆弾を製造した施設の場所がどこにあるか。当然、完全な申告の重要な部分のはずだが、情報をとれているのか。

 ヒル氏 核問題には核拡散、ウラン濃縮プルトニウムの3点がある。

拡散ではシリアの問題で北朝鮮側と突っ込んだ議論をしてきた。彼らはシリアとの現在進行形の核計画はないといっている。米情報機関もそのようにみている。ただ、過去に北朝鮮とシリアが、共同で核開発をしていたのは間違いない。現在、合同核計画がないのはイスラエル軍による空爆のおかげだ。

 ウラン濃縮による核計画については、過去はやっていたが、いまはやっていないということなのかと何度も聞いている。北朝鮮が140トンのアルミ管を外国から手に入れたことは間違いない。これは核開発にしか使えない性質のものだ。遠心分離機にしか使えない。よいニュースとしては現在遠心分離機には使われていないことを確認している。悪いニュースはミサイル部品として使われていることだ。

 プルトニウムによる核計画に関しては、米国の5人のチームが寧辺にある施設の無能力化の作業を続けている。プルトニウムの保有量は30キロから50キロの間のどこかだろう。すでに核爆弾になっているものもあるだろう。問題はプルトニウムがテロ集団に簡単に渡せるような状態にあることだ。

 自分たちの第一の仕事は、北朝鮮がどのくらいのプルトニウムを抽出したのか検証することである。どこにあるのかも検証する必要がある。

 申告内容のハードルを下げていると批判する人が米国にいることは自分も承知しているが公正でない。例えば、米外交官を現場に送り、アルミニウム管の状態をみた。そういうこともやっている

松原氏 いい加減な合意をするなら、米国は日本よりも北朝鮮を重視しているとみざるをえない。

 ヒル氏 北朝鮮との関係は米国にとって重要でない。日本との関係とは比べものにならない。米朝で決めているといわれるがあくまで決めるのは6カ国協議である。斎木昭隆外務省アジア大洋州局長ともコンスタントに連絡をとり、いろいろ話をしている。

 松原氏 再度聞くが、核爆弾製造施設の場所を北朝鮮側から情報としてとっているのか

 ヒル氏 いや。それが問題点だ。

【拉致事件】
  増元照明・家族会事務局長 拉致問題を抜きにして、棚上げにして、テロ支援国家指定を解除するのは、圧力を通じ拉致問題を解決しようとしている日本の努力を無にするようなものだ。日本政府から6カ国協議では核問題とともに人権問題も話し合うことになっていると聞いているが、米朝間では核問題しか話されていない。それをもって指定解除することは非常に困る。ヒル氏は北朝鮮が「拉致被害者は死亡した」といっていることを信じて、拉致を棚上げし、核問題を優先しようとしているように思われる。

 ヒル氏 被害者が生きているか自分はわからない。期待値を上げたくない。みなさんが喜ぶことを言わないことにしている。圧力が下がっているといわれるが、米国は多くの圧力をかけている。例えば、日本が北朝鮮の船舶を入港させない制裁を行ったが、そういうことは米国は以前からやっている。

 松原氏 われわれは拉致を現在進行形のテロとみている。テロ支援国家指定を外すのはまったくおかしい。あなたはどういう認識か。

 ヒル氏 私は政策をつくる立場でないし、拉致がテロであるか定義したりする立場にはない。

 北朝鮮の人々は自分が経験したことのないような人たちだ。バルカン半島で戦争している人たちとの交渉にかかわったことがあるが、北朝鮮はそういう人たちとも全然違う。

 松原氏 北朝鮮が誠実に対応するかどうかだ。

 ヒル氏 北朝鮮が誠実であるはずがない。必ずそれは検証しなければならない。

 しばしば東京にいくが、米国大使館のすぐそばにイラン航空の代理店がある。われわれはイランを敵国ととらえており、イランでは米外交官、国民が捕らえられた。なかには私の古くからの友人もいて、最終的に開放されたが、当時の苦痛がいまでも残っている。あなたたちはどう思っているのか。

 松原氏 それは理解できる。

 ヒル氏 北朝鮮には常に圧力をかけている。これ以上の情報はあるのか。

 増元氏 民間団体が認定している36人の拉致された可能性が高い人がいる。拉致と認定された2人の子供もいる。