中国の胡錦濤国家主席の来訪が日本をにぎあわせています。
アメリカ側の反応はきわめて控えめです。
大手新聞各紙でも胡主席訪日のついての記事はなかのほうの小さな扱いばかりです。見出しは「中国の指導者、訪日で親善を求める」(ニューヨーク・タイムズ)という感じです。
どの記事も、胡主席が北京五輪を控えて、中国の対外イメージをよく保たねばならず、そのためにはまず日本との友好を誇示したいのだ、という感じの解説をつけています。しかしその実態となると、以下のような記述がウォールストリート・ジャーナルの記事に出ていました。

「胡氏と福田首相が両国間の懸案をなに一つ、解決はしなかった。とくに日中両国はともにガス田を開発しようとしている東シナ海の海域に関し対立している。(が、なんの対立の解消もなかった) 福田首相は『大幅な前進が可能かも知れない』と述べてはいたが、5月7日の首脳会談の唯一の公式合意は東シナ海を『平和と協力と友好の海』にするという記述だけだった」

さて福田、胡両首脳が調印した日中共同声明の内容をそこで使われた単語の登場頻度から分析すると、以下のようになるようです。
この解析は東京で胡訪日を綿密に取材している私の知己の敏腕記者(産経新聞記者ではありません)が自分の使用後に示してくれたものです。

共同声明に出てくる用語とその登場回数です。

その前に出てこない重要な言葉を先にあげておきましょう。

民主主義:0
人権:0
自由:0

さあ出てくる言葉です。

協力:19回
平和:16
互恵:9
友好:8
発展:7
安定:6
理解:5
信頼:4
未来:3
歴史:1
長期:1
将来:1


ちなみに前回の1998年の日中共同声明では「友好」が12回、しかしその一方、「歴史」については特別扱いで一段落をさき、ながながと日本側に叱責を述べていました。

まあ、全体として「歴史」が減って、「協力」が増えたということでしょうか。

しかし日本にとって現実に脅威を受け、国民の生活や生命さえ脅かされる中国の軍拡、尖閣への領有権主張、ガス田問題、毒ギョーザ、中国での年来の反日の教育や展示などは、実際にはなにも触れられていません。まあ親中の福田首相への期待には最初から限度があるのでしょう。

でもこの胡主席訪日に対し日本側が草の根レベルで示した反対や抗議、不快感は、福田首相らの対応とはコントラストを描き、日中関係の真実を期せずして照らし出したといえましょう。その意味では主席の訪日は価値があったのかもしれません。

胡主席は中国側からみて重要とみなす各界要人と次々に会いましたが、下はそのプロセスでの創価学会の池田大作氏との会談の写真です。



会談を前に創価学会の池田大作名誉会長(左)と握手する、中国の胡錦濤国家主席=8日午後5時41分、東京都千代田区のホテルニューオータニ(代表撮影)


しかし胡主席の日本側との会談でほぼ唯一の清涼剤となったのは、安倍晋三前首相の発言でした。胡氏と歴代首相経験者たちとの朝食会で、安倍氏は多くの日本国民が気にしているのに、福田首相はオクビにも出さない主張をきちんと述べたのです。
この主張の冒頭は中国が小泉首相の会談を拒み続けたことへの強烈な批判です。

朝食会での安倍晋三前首相の発言要旨は次の通りです。

 戦略的互恵関係の構築に向け、相互訪問を途絶えさせない関係をつくっていくことが重要だ。国が違えば利益がぶつかることがあるが、お互いの安定的関係が両国に利益をもたらすのが戦略的互恵関係だ。問題があるからこそ、首脳が会わなければならない。

 私が小学生のころに日本で東京五輪があった。そのときの高揚感、世界に認められたという達成感は日本に対する誇りにつながった。中国も今、そういうムードにあるのだろう。その中で、チベットの人権問題について憂慮している。ダライ・ラマ側との対話再開は評価するが、同時に、五輪開催によってチベットの人権状況がよくなったという結果を生み出さなければならない。そうなることを強く望んでいる。

 これはチベットではなくウイグルの件だが、日本の東大に留学していたトフティ・テュニヤズさんが、研究のため中国に一時帰国した際に逮捕され、11年が経過している。彼の奥さん、家族は日本にいる。無事釈放され、日本に帰ってくることを希望する。