加藤良三駐米大使の離任パーティーは5月13日にワシントンの日本大使公邸で催されました。大盛況でした。日系米人の著名な上院議員ダニエル・イノウエ氏が乾杯の音頭をとったのが印象的でした。

イノウエ議員といえば、アメリカの国政の場では日系人の枠をはるかに越えた超大物です。この日系米人政治家は同じ日系米人のマイク・ホンダ下院議員が推した日本非難の慰安婦決議案には終始一貫、激しい反対を表明し続けました。その陰には加藤大使の活動もあったようです。
ちなみにイノウエ議員は本日5月24日、83歳で結婚式をあげました。相手は日系米人博物館長のアイリーン・ヒラノさんです。イノウエ氏は長年の妻を失い、最近は独身でした。
下は上院で活躍するイノウエ議員の写真です。
















さて、その日系米人に関して、以下のようなエッセイを書きました。
日系米人には珍しいマフィアの大幹部がいて、その人の人生を追ったドキュメンタリー
映画ができるという話です。

【あめりかノート】ワシントン駐在編集特別委員 古森義久
2008年05月24日 産経新聞 東京朝刊 1面

 ■ある日系マフィアの軌跡

 6年半の勤務を終えて近く帰国する加藤良三駐米大使の5月中旬の離任パーティーではダニエル・イノウエ上院議員が乾杯の音頭をとった。惜別の辞を述べた数人のなかにはノーマン・ミネタ元下院議員がいた。

 イノウエ氏は第二次大戦で米軍兵士として負傷し、勲章を得た長老政治家、ミネタ氏はブッシュ政権で運輸長官を務めた。ともに日系二世である。送別側での2人の存在は加藤大使が日系米人リーダーたちとの親交を深めた実績を物語っていた。

 日系米人の米国社会での成功はめざましい。だが個人としては控えめで、地味な人たちという定評がある。ビル・ホソカワ氏の著書「二世-このおとなしいアメリカ人」のタイトルが総括するように、社会では自己を律し、法を守り、家庭には範を示し、静かに生きる人たち、というイメージである。

 だが本当にそうなのか。

 そこで思い出すのは本格マフィアの大幹部だった日系二世ケン・エトー氏の型破りな生き方である。

 関西学院の体操教師を辞めて米国に移住した衛藤衛氏の長男としてカリフォルニアに生まれた彼は第二次大戦後すぐシカゴのマフィアに加わり、バクチの才で組織内をのしあがった。私生活も奔放で派手をきわめ、歌手やダンサーとの結婚と離婚を4回も重ねた。1980年代にはシカゴ北地区のビンセント・ソラノ一家のギャンブルを仕切る大幹部「トーキョー・ジョー」として押しも押されもせぬ地位を築いていた。

 トーキョー・ジョーの名は1983年、全米にひびき渡った。2月の厳寒の夜、シカゴ郊外の駐車場の車内でマフィアのヒットマン2人に至近距離から22口径ピストル3発をも後頭部に向け撃たれたのに、助かってしまったからだった。

 ジョーはその前年、トバク開帳容疑で検挙され、有罪宣告を受けていた。マフィアのドンはジョーが捜査当局との司法取引に応じ、免責と引き換えに、最高幹部たちの犯罪を暴露するのでは、と疑った。そして口封じを図った。ジョーには暴露のつもりはまるでなかったのに、だった。

 ジョーは忠誠を尽くそうとした上層部が自分を消そうとするならば、と暴露証言に踏み切った。シカゴのマフィアの最高幹部たちはその結果、根こそぎ検挙された。ジョーは連邦捜査局(FBI)の保護を受け、身分を変えて地下にもぐった。17年間も身を隠し続けた。

 私はトーキョー・ジョーの軌跡を当時、所属していた毎日新聞に「遥かなニッポン」というノンフィクション連載で詳しく書いた。日本の血を継ぐ日系人でも米国社会では「日本」からいかに遠くへいってしまうか、という意味をこめていた。

 それから20年余り、ジョーの生き方を描くドキュメンタリー映画「Tokyo Joe」がいまほぼ完成した。小栗謙一監督が5年以上もかけて制作したこの作品は英語のナレーションに日本語の字幕をつけ、今年11月には公開の予定だという。

 小栗監督は映画の主眼として「個人としての主体性や自分の存在価値をあくなく求めたケン・エトーというふしぎな人物の『個』を解き明かしたいと思った」と語る。自己を律し、法を守り、突出を避けて生きるとされる日系米人のステレオタイプ(定型化)とはおよそ反対の人物像である。

 米国社会はステレオタイプでは決して集約できない変幻の場だなと改めて感じた。(こもり・よしひさ) 

完成間近!
映画 Tokyo Joe


20世紀後半、マフィア社会でシカゴ五大ファミリーの幹部にのし上がった
ただ一人の日本人、ケン・エトー。その天才的な戦略と、冷酷非情さで
“ゴッド・ファーザー”たちからも恐れられたドンの華々しい栄光の裏には、
語られることの無い多くの物語が隠されていた。
彼を追い続けた元女性FBI捜査官、エレイン・スミスが浮き彫りにする
エトーの素顔とは…。初めて語られる伝説の日系マフィア『TOKYO JOE』の
真実を追う奇跡のドキュメンタリー。

監督:小栗謙一
原作:エレイン・スミス
音楽:ハズマ・モディーン http://www.hazmatmodine.com/

Title Tokyo Joe

Spellbinding documentary about real life Chicago gangland leader, Ken Eto, who rose through the ranks of one of the five major Chicago mob families in the latter half of the 20th century. The only person of Japanese descent to rise to national attention and earn a high profile in an American organized crime syndicate, Eto was known as a brilliant strategist with a steel heart, capable of instilling fear in the hearts of rival bosses. Based primarily on an account by female FBI agent, Elaine Smith, who amassed the most extensive profile on the enigmatic gambling don.

Directed by Kenichi Oguri
Original Story by Elaine Smith
Musical Score:Hazmat Modine http://www.hazmatmodine.com/

  フジテレビと東北新社が共同映画製作始動「TOKYO JOE」
 フジテレビと東北新社が共同で、ドキュメンタリー映画を製作することが決まった。タイトルは、「TOKYO JOE」。日系人マフィアを題材にしたもので、製作費は明らかにされていないが、両社折半となる予定。ドキュメンタリー製作後には、同じ題材で劇映画の製作も視野に入れている。
 「TOKYO JOE」は、東京ジョーと異名をとった日系人マフィア、故ケン・エトーさんの人生を描くもの。ケン・エトーさんは1919年、米カリフォルニアに生まれ、戦後、犯罪に手を染めはじめて、シカゴでマフィアの世界に入った。映画は、ケンさんと親交のあった元FBI捜査官のエレイン・スミスの話を主軸に、関わりの深かった関係者や家族などのインタビューを通して、米国のマフィア社会の裏側を描いていく。監督は、深作欣二監督の助監督を長年つとめ、これまで知的発達障害者のヒューマンドキュメンタリー「able」などを手がけてきた小栗謙一。昨年の12月から米国で撮影に入っており、完成は来年の4月。公開は配給元が現時点では未定だが、来年の秋が予定されている。今回の企画は、奥山和由プロデューサーから、フジテレビの亀山千広プロデューサーに持ち込まれたもの。奥山氏は、「8年前から企画していた。非常に興味深い人物なので、話をもっていったところ、快く映画化を受け入れてもらった」と語り、松竹時代から奥山氏の製作手腕を高く評価していた亀山氏も、「ドキュメンタリーに、関心がある。この題材で、劇映画の映画化も考えている」と語った。
 今年上半期、「LIMIT OF LOVE 海猿」(71億円)や「THE 有頂天ホテル」(60億8千万円)の大ヒット作品を生み出したフジテレビは、現在公開中のアニメ「ブレイブ ストーリー」の製作に関与するなど、今まで以上に製作のバリエーションを広げようと様々なチャレンジを進めている。今回のドキュメンタリーも、そうした幅広い製作志向の一環と見られる。
(8/10)