アメリカの労働組合についての報告を続けます。
雑誌『SAPIO』6月25日号からの私自身の記事の転載です。


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しかしアメリカでは近年、労働組合がそのパワーを大幅に減らしてきた。

(写真は1984年の大統領選で労働組合の支持を最も強く得たウォルター・モンデール氏。しかし選挙結果は歴史的な「地すべり」の大敗北だった。勝者は共和党保守のロナルド・レーガン氏)



 労働者のうち労組に所属しない人たちの数が明確に増えてきたのは1983年ごろだとされる。

 
 アメリカ政府が発表した統計によると、1983年には全米の労働者数が8829万人そのうち約23%が労組に所属し、その数が2024万程度だった。

 ところが1990年には労働者総数1億487万人、うち労組所属は1872万人、全体の18%にあたる。

 1995年には労働者総数は約1億1003万人、そのうち労組所属は約1760万人で全体の16%へと下がった。

 2003年には全体が1億2235万人だが、労組所属は1700万人で14%、2005年には総数は1億2588万人、労組所属は1525万人で全体の13%へと落ちた。

 2007年には、労組所属は約1500万人となり、その比率は全体の12%ほどになるだろうという統計が出た。



 要するにアメリカの労働人口はゆるやかながらも、着実に増加しているのに、労働組合に加わる労働者の比率は確実に下がっているのである。

 その結果、労組所属の労働者たちの絶対数も減っているのだ。アメリカ社会での労働組合の後退という着実な現象がここ20年以上、続いているのである。

 

 では労組の後退の理由はなにか。

 
 まず第一には労働者の意識の変化であろう。その背後にはアメリカ経済の構造の変化もある。

 働く人間は労働者であると同時に、国民であり、市民である。管理者でも経営者でもありうる。アメリカの経済全体が繁栄するうちに企業の株を保有する人たちの数も増大した。
 

 労組のメンバーであっても勤める企業の株を少数でも持てば、株主となる。労働者として経営陣と対決するインセンティブも少なくなる。

 第二には、労働組合自体の魅力の減少もあるだろう。政治党派性が強すぎるという側面もあるからだ。

 労組は必ず民主党を支援し、共和党には挑戦的な態度をみせる。その結果、一般組合員が納める会費が労働者の待遇改善によりも選挙の献金に多く使われるようにもなる。


 時の共和党政権にいつも対決していれば、政治報復として活動をからめ手から抑えられることもある。

 また政治党派性のゆえに、大手労組の内部に分裂も起きた。労組幹部によるスキャンダルも、ある時期、どっとセキを切ったように報じられた。

(つづく)