中国や日中関係についての私の講演内容の続きを紹介します。
ドイツでの講演です。
今回の分は日本側からみての中国経済の暗部の一端についてです。

          =======

 
 以上、5つの要因はもちろん、それぞれが重なり、からみあっています。

 しかし日中関係全体で両国の交流を近年、最もダイナミックにし、最も協調的にしてきたのは第五の経済面での交流だといえます。そこで次にこの日中の経済交流について報告します。

 日本にとっての経済面での中国は「世界の工場」とよく評されます。日本を含む世界各国が中国を生産の場として使うという意味です。

 中国自体の消費に応じる「世界の市場」としての位置づけも最近は大きくなってきました。

 この日中間の経済交流も日本の全貿易の20%以上が対中国というところまで広がったのですから、日本経済にとっての実益が膨大であることは当然でしょう。

 


 しかしその一方、日中経済交流にも深刻な影の部分があります。今年はじめ、中国から日本に輸入された餃子(ギョーザ 
dumpling)に付いた殺虫剤が原因で中毒症状を訴える日本国民が続出しました。その数は数百人に及びました。

 殺虫剤は包装の内部から検出され、しかも日本では使われていない毒性物質でした。しかし日本政府の抗議に対しても中国側は責任を認めていません。

 そのほかにもここ1、2年、中国から日本に輸入された野菜、海産品、穀物などからあいついで許容量以上の農薬その他の有害物質が検出されています。

 中国製のやせ薬に毒性物質がみつかり、そのために日本人女性の死者までが出たこともあります。

 


 実は中国産品のこうした危険性は現在の日本では国民的な懸念の対象となっています。

 中国製の加工食品の防腐剤や添加物から発見された発ガン性物質や重金属、肉マンジュウのヒキ肉に増量のため混入される段ボールの厚紙の切片、醤油の材料として利用される人間の頭髪など、ホラー・ストーリーのような実例が報告されています。

 日本の国会でも頻繁にその種の問題が提起されます。

 新聞や雑誌は「中国産食品の危険」に関する記事でいっぱいです。

 書店には「危険な中国食品の見分け方」というような本が多数、並んでいます。

 その結果、中国から日本への輸入全体の10%近くを占めていた食品類はこの1年ほどで半分以上も減ってしまいました。

 中国のこうした有害産品は米欧諸国をも悩ませています。

 

なぜ中国では有害産品が多いのか。

 単なる衛生水準という理由ももちろんあるでしょう。

 しかしさらに大きな理由としては「法治」の欠如があげられます。法律の厳密かつ公正な執行を「法の統治」
Rule of Law と呼ぶならば、その統治に構造的な欠陥があるようなのです。

 


 この欠陥は有害産品と並んで日本の企業人を悩ます中国の知的所有権侵害の問題をみると、さらに明白となります。

 知的所有権侵害とは、偽造品、模倣品の横行のことです。

 他社の製品の単なる偽物を作る。商品名を偽る。特許を無断で使う。商標を盗む。意匠を盗用する。そうしたケースです。

 中国が世界一の偽造品大国であることは日米両国の調査で立証されています。

 

 アメリカ議会の政策諮問機関である米中経済安保調査委員会の報告は、中国で流通する著作権を有する製品の90%以上は海賊版であり、全世界の偽造品の70%ほどが中国製だと断じています。

 偽造、模造は映画、音楽から医薬品、工業製品に及び、そこから得る中国側の利益は中国のGDP(国内総生産)の8%分に達するとされます。

 日米両国の輸出企業は自社製品の偽物が中国内で何百分の一もの低コストで製造されて、売られることを深刻に懸念しているのです。

 アメリカの映画業界は過去7年で合計10数億ドルの被害を受けたと言明しています。

 


 私が北京に駐在していたころは、日本のホンダ技研のオートバイの模造製品が
HONDAを真似たHONGDAという商標で大量に作られ、売られていました。



 日本の電動工具メーカーで世界市場のシェアを3割も占めていた「マキタ」社は中国で流通する自社製品の7割が偽造品でした。

 中国当局の調査により、このマキタ電動工具の偽造品のすべてが
浙江省(Zhejiang Province)の余姚(Yuyao)という中級都市で製造されていることが判明していました。

 この市の中に点在する数十の工場がマキタの電動ドリル、マキタの電動カッターというふうに分業でみな偽物を作っていたのです。



中国内部の偽造品は魚の養殖用のエサ、農業用の種子や殺虫剤にも及ぶので、中国国民自身が深刻な被害を受けます。

 養殖魚が育たない。作物や果物が育たない。偽のアルコール飲料では死者も出ます。

 なにしろ生タマゴの偽物が出回る社会なのです。

(つづく)