日本から中国へのODAはもう終わりを迎えました。
30年にわたり総計3兆円のわれわれ日本国民の税金やその他の公的資金からの貴重な支出でした。

その総括はどうだったのか。
この検討はまた別の機会に試みます。
しか世界一の外貨保有国の中国、他の諸国に巨額の援助与える大国の中国、軍事大国の中国に、わが日本が資金を提供し続けることは、もう意味がない、という点では、日本の政府も国民もほぼコンセンサスに達したようです。

ところが日本の官僚たちが仕切るアジア開発銀行という機関はまるで日本政府の対中援助終了に交替するかのように、巨額の資金を中国に提供し続けています。しかも軍事的効用の高い内陸部の鉄道、道路、空港などの建設への援助が圧倒的に多いのです。その資金の多くの部分は日本国民から出ています。

なぜこんなことが起きるのか。
その実態を産経新聞のコラムに書いたので、紹介しましょう。



【朝刊 国際】
記事情報開始【緯度経度】ワシントン・古森義久 対中援助、アジア開銀の怪

 

 アジアの開発途上国の貧困削減や経済発展を目的とする国際経済援助機関のアジア開発銀行(黒田東彦総裁、本部・マニラ)の運営方針をめぐり、最大の資金供給源である日米両国が正面から衝突する形となった。

 そもそもアジア開発銀行というのは日本の現在の基準からみると、なんとも奇妙な国際機関である。

 日本からの出資金が加盟国でも最大額であることを踏み台に日本の財務省高官たちが枢要ポストに継続的に天下りする。

 だが同じ財務省高官の日銀総裁への天下りにあれだけ反対する野党はなにもいわない。

 その財務省元高官の主導でアジア開銀は中国への援助を続け、内陸部の鉄道、道路、空港という大型インフラの建設に巨額の資金を供する。

 だがその種のインフラ建設援助は日本の外務省が軍事的寄与への懸念などからすでに終結しているのに、なにもいわない。

 世界最大の外貨を保有し、自らも多数の国に援助を与えている中国に日本国民の税金から巨額の経済援助を与えることは不適切だという結論を出した自民党も、この対中援助には無言である。

 かくて財務省元高官たちはアジア開銀を通じ、せっせと対中援助を供し続けるのだ。

 日本はアジア開銀の1966年の設立以来、米国と並んで総資本の16%を出すという枢要な役割を果たしてきた。

 現在の加盟国は67(うちアジア地域が48カ国)だが、総裁は現在の黒田氏が財務省財務官だったように、一貫して引退した日本の財務(旧大蔵)官僚の天下りポストとなり、他の理事とか局長にも財務官僚が数多く就任してきた。

 その結果、「アジア開銀は日本の財務省の物」(世銀の日本人専門職員)と皮肉られるほどの統治度となった。

 この財務官僚主導のアジア開銀が近年、中国への資金援助を急速に増してきた。

  同開銀は1986年に加盟した中国に対し2004年までに借款、贈与、技術援助を合わせて合計185億ドル、この期間の各国への援助全体の15%ほどを供してきた。

 その結果、中国はアジア開銀でも最大の援助受け入れ国となった。

 アジア開銀はさらに中国に2005年から07年まで約50億ドルを供与し、今年からの3年間にまた50億ドルの援助を決めている。  

 これらを合わせると、アジア開銀から中国へのこれまでの援助総額は日本円で2兆8000億円と、日本の30年にわたる対中ODA(政府開発援助)総額の3兆円に近くなる。

 2007年こそ中国への援助額はパキスタン、インドに次ぎ第3位となったが、それでも単年で13億ドルと、全体の13%ほどを占めた。

 アジア開銀のこうした中国傾斜の理由について同開銀の対中援助の実態に詳しいジャーナリストの青木直人氏は語る。

 「従来、財務省高官には米国とは距離をおき、中国と手を組むアジア通貨基金とか東アジア共同体という構想を支持する向きが多かったうえに、中国政府が自国の財務次官をアジア開銀の副総裁に送り込むなどして強力なロビー工作をかけたことが大きい」

 そして青木氏はアジア開銀の援助が日本政府がすでにODAの対象から外すことを決めた中西部のインフラ建設に集中し、しかもチベット人、ウイグル人、モンゴル人ら少数民族の中国側への経済手段での強制同化を推進するプロジェクトが多いとして非難した。

 アジア開銀のこうしたあり方に対し米国代表はこの4月、同開銀の長期援助計画「戦略2020」の承認を拒んだ。

 同開銀は本来の目的である貧困削減に重点を戻すべきで、中国のように市場で資金を十二分に調達できる諸国には援助すべきでない、という考えからの反対だという。

 日本側としてもこのアジア開発銀行のあり方をいまやオール日本で論じるべき時機だろう。

                                    ================= 
なおアジア開発銀行の中国密着の実情や、日本の対中援助の歴史に詳しいジャーナリストの青木直人氏の著書の一つが以下です。


中国に喰い潰される日本 チャイナリスクの現場から