北京五輪で中国がその力を誇示する種目のひとつに、女子柔道があります。
中国の女子柔道はなぜ強いのか。中国では柔道というのは、そもそも不在なのに。

そのへんの疑問について書きました。
その結果、期せずして、中国のお国柄が改めて、浮き彫りにされたようです。

なお北京五輪の全体の特徴については以下のサイトに書きました。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/81/

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【古森義久の北京奥運考】中国の柔道はミステリー
2008年08月12日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

 
 
 中国の柔道はミステリーのようだ。

 国際的には女子の強豪ぶりがつとに知られている。

 10日の52キロ級でも洗東妹選手が前回のアテネ大会に続いて堂々と連続優勝したように、国際大会ではいつも多数のメダルをごっそりと勝ち取っていく。

 ところが中国の社会では柔道は幻影のごとく、実在しない。

 一般の市民が通える柔道場はどこにもない。
 
 各種学校の体育の授業でも部活動でも柔道はない。

 一般国民は知らないスポーツなのだ。

 愛知大学から北京に留学中の残留孤児3世の加留部瑶さんは五輪前に中国の友人に柔道を話題にしたら「それ、なに?」と問われ、とまどったという。

 ■女子を鍛えろ!

 金メダル候補の洗選手が出るのだから、中国のテレビも実況放送するだろうと思ったら、どのチャンネルも柔道の試合は報じていないので驚いた。

 射撃や重量挙げはたっぷり中継しているのに、である。

 「やはり日本のスポーツだからかもしれませんよ」と、もらした中国人の知人がいたことは付記しておこう。

 しかし普通の市民はだれも練習しないのに世界的強豪が出てくる中国女子柔道のナゾは東海大学体育学部教授の光本健次七段の説明を聞いて、初めて解けた気がした。

 光本教授は中国の男子選手の強化のために今年春まで8カ月ほど中国柔道連盟の特別コーチを務めた指導者である。

 やはりいかにも中国らしく国家が各省を通じ、全国規模で素質ある少数の少女たちを集め、官営の特別施設に居住させて徹底した訓練を何年も重ねた成果なのだという。

 別の柔道関係者によると、中国は国威発揚のメダル獲得作戦では他国につわものの多すぎる男子は早くからあきらめ、女子に集中して強化を進めてきたという。

 「全中国チームの選手たちは北京市内の国家柔道センターに恒常的に住み、一日中、練習を続けていますが、あくまで女子優先で、約50人の女子選手に30人ほどの男子が専属の練習相手としてつけられています。これら男子は各省から選ばれてくるけれども、女子の練習台専門で試合などには出ません」

 光本教授のこの説明は女子優遇の実態を物語る。

 国家柔道センターも50畳の練習場が十数面も並ぶほど広大で、施設の主体となる1階は女子、従となる2階が男子用だという。

 女子各選手には個別にコーチと練習台の男子選手がつき、柔道そのものよりも筋力パワーの強化に重点がおかれるそうだ。

 なるほど相手を持ち上げ、ひねり、ねじ伏せ、という洗選手の戦闘的な試合ぶりはそんな訓練方法を連想させる。

 ■国家アマチュア

 だがこうして国家アマチュアとして鍛錬を受ける選手たちがどれほどの「鉄の女」なのかと思っていたら、洗選手は32歳の母親で1歳半の娘がいることがわかった。
 
 しかも五輪前には「金メダルを取るために新婚旅行も結婚式もせず、夫には本当に申し訳ない」と語っていた。

 そして勝利の直後には中国紙の記者に次のように述べたという。

 「いま一番したいことは1年も会っていない娘に会うことです。母親としてすまないことばかりで、これから必ず埋め合わせます」(編集特別委員)

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以上の文中 「洗」選手の名前の漢字は正確には、以下のようになります。
     

つまり洗という字のサンズイがニスイとなるわけです。