アメリカ大統領選挙はますます白熱していますが、この選挙ではイラク問題がどう位置づけられているのか。
 
 日本側では識者もマスコミもイラクの平定と民主化の成功の気配を認めたがらない向きが多いことは、すでにこのブログでも何度も書いてきました。
 
 そんな流れのなかでこのイラクの治安回復を正面から認める評論が出たので、紹介します。
 
 産経新聞の9月23日朝刊に掲載された「正論」コラム、杏林大学の田久保忠衛教授の主張です。
 
 このコラムで田久保氏はイラクは将来、「ブッシュ大統領の歴史的偉業とみなされるかも知れない」と大胆な予測を述べています。
 
 さあ、アメリカのイラク介入を「悪」「失敗」「挫折」「内乱」「間違い」などと否定してきた側はどうするのか。
 
 もっともまだまだ結果はわからない、という議論も成り立つでしょうね。
 
 なおアメリカの金融危機が大統領選挙にどう影響しているか、
私が別の舞台で報告を書いたので、ご参照ください。以下のサイトです。
 
 
 
【正論】本番・米大統領選 杏林大学客員教授・田久保忠衛
2008年09月23日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面


 

 ■両陣営「ブッシュ否定」の意味

 次から次へと発生する火山の噴火を目のあたりにしているような興奮を覚えた。
 
 先ず米国のバラク・オバマ民主党大統領候補の出自から上院議員になるまでのドラマだ。
 
 4月から5月にかけてオバマ候補の恩人であるジェラマイア・ライト牧師が人種問題の禁忌に触れる発言を繰り返し、「米政府は黒人虐殺のためにエイズ菌を開発した」と述べたときには、これで民主党に勝ち目はないと思った。

 だが、オバマ候補は政治的困難を克服し、大統領候補指名受諾演説で満場をうならせた。
 
 1年前にこの結果を予想した専門家は多くなかろう。

 ジョン・マケイン共和党大統領候補がいかに数奇な人生を歩んできたかは紹介するまでもない。
 
 その彼が無名だったサラ・ペイリン・アラスカ州知事をいきなり副大統領候補に選んだ。
 
 44歳の女性で5人の子持ち、19歳の長男は陸軍の兵士としてイラクに出征した。
 
 5番目の子は胎内にいるときにダウン症とわかったが、あえて産んだ。
 
 イエローペーパー発祥の国柄のせいか、一部の新聞が「ペイリンはダウン症の赤子の母親か祖母か」という下品な記事を書いたが、ひるまない。

 ペイリン候補は妊娠中の17歳の長女と結婚する相手を含む全員を連れて壇上に上り、堂々たる受諾演説をぶった。
 
 これが支持率を大きく引き上げた。
 
 私は率直に言って感動し、同時にじめじめした活力のない日本の政界と政治家の誰彼を思い浮かべた。

 ≪1期・2期で評価分かれる≫

 オバマ、マケイン両候補はともに変革を強調した。
 
 「変革」の裏のキーワードは「ブッシュ否定」だ。
 
 しかし、両者ともブッシュの何を否定しようというのであろうか。
 
 ブッシュ政権の8年間は1期と2期では外交、防衛政策に顕著な差が認められる。

 9・11同時多発テロに見舞われた当時の米国の緊張感をもう一度正確に思い起こす必要がある。
 
 ブッシュ大統領をはじめチェイニー副大統領、ウォルフォウィッツ国防副長官、ファイス国防次官、ボルトン国務次官らがいっせいに強硬姿勢に転じた事実そのものを誤りであった、と時間がたったあとで指摘することは容易だ。

 2期目のブッシュ政権からはチェイニー副大統領を除いた役者たちは退陣し、代わってライス国務長官を頂点とする国務省色が濃くなった。
 
 北朝鮮、インド、リビアなどとの懸案を早く処理し、中国との間では事なかれ主義でいこうとの空気が濃厚になってきたのではないか。
 
 だが、その中でブッシュ大統領は指導力を発揮した。ベーカー元国務長官ら超党派の独立委員会「イラク研究グループ」が勧告した段階的撤退案を無視し、昨年1月イラクへの増派に踏み切った。

 結果は成功だった。
 
 イラクの治安は回復され、中東には民意が政治に反映される国、イラクが出現したではないか。
 
 去る9月1日に米軍はアンバル県の指揮権をイラク軍に移籍した。
 
 イラクの管理下にある18県の中で11番目の例だが、シーア派が圧倒的に多数を占めるイラク軍がスンニ派の人々の住むアンバル県の安全を担当する意義は小さくない。

 ブッシュ大統領は歴史的偉業をなしたと評価される時がくるかもしれぬ。
 
 ウォーターゲート事件で断罪されたニクソン元大統領の評価も棺を蓋(おお)うたあとで定まった。

 ≪「イラク」批判弱めるオバマ≫

 オバマ候補はイラク戦争そのものと、ブッシュ大統領の増派を激しく攻撃してきた。
 
 イラクの安定度が増すにつれて彼のブッシュ批判の声は弱まり、撤兵の時期と方法を説く、はなはだ締まりのない意見になっている。
 
 演説は貧弱な内容を覆い隠すかのようなパフォーマンス、独特な低音、前後左右への目配りを特徴としている。
 
 米国民はこの点を見逃し、一時のムードに流されるかどうか。

 マケイン候補はイラクに関するかぎり、概してブッシュ大統領と同じ見解と言っていい。
 
 「ブッシュ否定」の意味は、第2期の軟弱化したブッシュ政権の外交、防衛を第1期のそれに戻すと解してよかろう。
 
 両者が尊敬するのはセオドア・ルーズベルト、ロナルド・レーガン両元大統領である点も似ている。

 オバマかマケインか、いずれがホワイトハウス入りするにしても国際秩序は変わる。
 
 世界中に薄く、広く米軍を展開する愚をもう米国は繰り返さないと思う。
 
 秩序維持の責任は同盟国や友好国に分配される方向が示されるのは覚悟しておかねばならない。
 
 インド洋での給油活動にすら及び腰の日本が全く対応できない国際環境に入る。(たくぼ ただえ)