大詰めを迎えたアメリカ大統領選挙の一断面をコラム記事で書きました。

 

 

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【緯度経度】ワシントン・古森義久 オバマ氏のタブーとは

10月11日8時1分配信 産経新聞


 米国大統領選挙の共和党ジョン・マケイン候補を支援するペンシルベニア州での9日の集会で地元の代表がこんな発言をした。
 
 「バラク・フセイン・オバマが米国大統領になったときのことを考えてみよう!」

 当のマケイン陣営は即座に「われわれはこうした不適切な言辞は認めない」という声明を出した。
 
 フセインというのは民主党オバマ候補の正式なミドルネームである。
 
 だがそのフセインという名を口にすることは「不適切」だというのだ。
 
 フセインという名がいまの米国では好イメージではないイスラムを連想させるため、その指摘はオバマ候補への不当な個人攻撃とされる、という配慮からだろう。
 
 実際に民主党側や民主党支持の大手メディアは「フセイン」の名を口にした側を「人種差別」「汚いののしり」として袋叩きにする。

 オバマ氏のミドルネームは触れてはならない聖域、あるいは禁忌となっているのだ。
 
 だが客観的にみて、大統領候補の実名の一部を口にしてはならないというのは奇妙な話である。
 
 オバマ候補に関してはこうしたタブーの領域が少なくない。

 とくに大手メディアの自主規制的な聖域が多いようにみえる。

 オバマ氏のケニア人の祖父は敬虔(けいけん)なイスラム教徒でフセインという名前だった。
 
 父親もケニアではイスラム教徒とみなされていた。
 
 オバマ氏の母が再婚したインドネシア人の継父もイスラム信者だった。
 
 オバマ氏が6歳からの4年間を過ごしたジャカルタでもうちの2年は公立学校に通い、イスラム色のついた教育を受けたという記録もある。

 イスラム教自体は誇るに値する宗教だろう。
 
 だがオバマ氏自身は自らキリスト教徒だと強調し、オバマ陣営はイスラムとの間接のきずなさえも否定する。
 
 そしてなによりもニューヨーク・タイムズに代表される民主党傾斜の大手メディアが、イスラムの影がにじむオバマ氏の出自については不思議なほど報じないのだ。

 同じニューヨーク・タイムズがマケイン氏の米国外パナマの米軍基地での出生を長文記事で批判的に報じたのとは対照的だった。

 オバマ氏の生まれや育ちについては「オバマの国」という新刊書が詳しい。
 
 著者はハーバード大学で博士号を得た政治学者ジェローム・コーシ氏、保守派だが共和党員ではない。
 
 同書はオバマ氏のケニア、インドネシア、イスラム、そして左翼や黒人の過激派とのかかわりの記録を詳細に報告する。
 
 衝撃的な軌跡も多いのだが、大手メディアからはいずれも事実の検証の前に「個人攻撃」として排されてきたたぐいの情報である。

 オバマ氏と極左テロ組織「ウェザーマン」の指導者だったウィリアム・エアーズ、バーナディン・ドーン夫妻との長年のつながりも、大手メディアでは聖域にみえる。
 
 一応の報道はしても、ごく表面的なのだ。

 反体制の同組織は1970年代に国防総省や議会、銀行などを爆破し、死者まで出した。
 
 エアーズ夫妻は80年代まで地下に潜伏した。
 
 その間、捜査側の証拠取得に不備があり、夫妻は自由の身となった。
 
 だが一連の犯行は認め、2001年にはエアーズ氏は「まったく後悔しておらず、もっと爆破すればよかった」と述べた。

 同氏は社会復帰後にイリノイ大学の教授となり、95年からオバマ氏と共同で教育財団の運営にあたる一方、オバマ氏を州議員選で支援する。
 
 今回の大統領選でオバマ氏はエアーズ氏との関係を問われ、当初は「近所の住民だった」とだけ答えていた。
 
 だが大手メディアはこのへんの言動の是非や疑惑を追及することはない。
 
 その寛容な姿勢は共和党のサラ・ペイリン副大統領候補個人に対する攻撃的な大規模調査報道とはコントラストを描く。

 だから共和党側は「もしマケイン候補が妊娠中絶をする診療所を爆破した犯人と長年の親交があれば、大手メディアは大々的な調査報道を展開し、糾弾するだろうに」と憤るのである。