アメリカ政府が北朝鮮の「テロ支援国家」から指定解除したことに日本はどう対応すべきか。

 

 麻生太郎首相はすでに不快感を表明しています。しかし日本政府としてはその後に具体的にはどんな態度をとるのか。

 

 六カ国協議を中心に北朝鮮の核兵器開発問題が進展するとき、日本は財政貢献をすることを求められる見通しは確実です。

 

 その際に日本人拉致事件はどうなるのか。

 

 そのへんの日本にとっての選択肢などをアメリカ側の朝鮮情勢専門家に尋ねてみました。

 

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[ワシントン=古森義久]

 米国議会調査局の朝鮮問題専門官ラリー・ニクシュ氏は13日、産経新聞のインタビューに応じ、米国政府の今回の北朝鮮核問題への対応について、いまの合意では北朝鮮の核兵器開発計画への査察はまったく不十分だと指摘した。

 

 ニクシュ氏は米国政府が北朝鮮をテロ支援国家指定から解除することにも批判を表明し、日本としてはこんご米朝主体の合意に財政貢献をするかどうか基本的な選択を迫られる、と述べた。

 

 朝鮮半島情勢を長年にわたって専門に研究しているニクシュ氏との一問一答の要旨は以下のとおり。

 

 ―北朝鮮の核開発に関する今回の米朝間の合意をどうみるか。

 

 「査察の対象を北側の申告する核施設に限るという点にまず重大な欠陥がある。北がこれまで申告したのは寧辺にある施設だけだ。寧辺でさえ米側が探知した秘密の処理済み核燃料貯蔵庫は申告せず、査察官のアクセスを拒んでいる。寧辺以外の地域にあるウラン濃縮施設やその他の核物質貯蔵施設は未申告であり、査察の対象にはなりにくい。北朝鮮は最近は軍事目的のウラン濃縮をイランと共同でイラン国内で進めており、これまた今回の合意では査察の方法がない」

 

 ―ヒル国務次官補の今回の北朝鮮との交渉についてとくに懸念する点は。

 

 「北の核兵器開発計画を阻止することを最初から放棄しているような態度に加え、米朝軍事協議という北側の提案をワシントンに持ち返ったことが気になる。平壌での会談では北側は人民軍の中将が同席し、ヒル次官補に米国と北朝鮮が直接に二者間で軍事協議を始めることを強く提案したという。北側はこの協議では在韓米軍や在日米軍のあり方にまで要求をぶつけ、核問題での譲歩と交換条件にする構えをみせると予測される。日韓両国にとって深刻な懸念の対象となる」

 

 ―ブッシュ政権はなぜこんな欠陥の多い合意を進めるのか。

 

 「ブッシュ政権のいまの対北朝鮮政策は不安定で無定見、そして一貫性がない。こうしたブレの外交は2006年11月ごろから国務省主導で始まった。ブッシュ大統領自身は北朝鮮の核問題に関して『実績』となる合意を作りたいのだろうが、同時に北に対し軟弱だとみられたくないという願望が強い。だから北に一定の要求を突きつけ、それが得られないと、こんどはこちらがさっと譲歩する。それでもうまくいかず、また要求をする。こんな悪循環なのだ。この軌跡は本当に揺れが激しい」

 

 ―日本にはこんごどんな選択肢があるのか。

 

 「今回の米朝合意が履行されれば、六カ国協議を通じて日本は北朝鮮への重油提供の経費や軽水炉建設の経費の負担、食糧援助など物質的な寄与を求められる。だが日本が最も気にする北朝鮮による日本人拉致事件解決にはなんの前進もない。日本としては拉致事件解決の実質的な進展がない限り、その種の物質的な寄与は一切、できないと宣言する選択肢がある。今回の合意自体はとくに称賛もせず、拒否もせず、ただし、こんごの北朝鮮のための財政支出はまったくしないというわけだ。あるいは米国などの求めに応じて、支出をするのか。いまや日本は基本的な岐路に立たされたといえよう」

 

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