今回は話題をがらりとふだんから変えて、犬について私が書いた記事をいくつか紹介します。

 

みなワシントンで見た犬の話です。犬と人間の話といったほうが正確でしょうか。

 

最初の駐米日本大使一家の犬の話は本日の産経新聞のコラムに掲載されました。

 

他は過去の記事です。 

 

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            大使一家の愛犬物語    

 

藤崎一郎駐米大使一家の愛犬の物語がワシントン・ポスト紙で報じられた。

 藤崎氏の前回のワシントン勤務中の1996年、一家は生後数カ月の「スキッパー」というオス犬を盲導犬養成団体から1年間、預かった。

 

 米国では盲導犬候補を一定条件を備えた家族に一定期間、育ててもらうシステムがある。

 

 藤崎家では2人の娘さんたちが強く望んだ結果だった。

 スキッパーは藤崎家の家族にすっかりなついたが、一年後に引き取られ、盲導犬としての本格訓練を受け始めた。

 

 ところが訓練途中で盲導犬としてはやや欠点があるとされ、爆薬や麻薬を嗅(か)ぎ出す捜索犬へと転向する。

 

 バージニア州内の米国政府施設でその訓練を受けた後はイタリア警察に送られた。

 

 当時、イタリアで多発する爆破テロ防止への米側からの協力の一環だった。

 

 その結果、スキッパーはミラノの空港や街路での危険で激しい任務に就いた。

 その後、何年も過ぎた2005年、スイス駐在となった藤崎氏が順子夫人とともにミラノで再会したスキッパーは夫妻をよく覚えていた。

 

 2年後、ついに任務を解かれたスキッパーは夫妻がイタリア警察に頼んで引き取った。

 

 そして今年、藤崎氏が再びワシントン勤務となって、スキッパーも故郷に戻ったという経緯である。

 

 いまはすっかり高齢となったスキッパーと日本大使一家のこんなかかわりを米紙が写真付きで報道したのだった。(古森義久

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◆ 夕暮れの“共同作業”

 ワシントンでの特派員生活でこのところ忘れ得ぬシーンといえば、なぜか大統領や議会の動きではなく、ふとみかけた人間と犬との共同作業の光景である。

 二年ほど前のまだ寒い春の夕方、ホワイトハウスに近い官庁街だった。

 

 かなり混雑した歩道を車イスに腰かけた男性がしなやかな弧線を描くように、往来の人をかわしながら、驚くほどの速度で前進していく。

 

 その速く滑らかな動きについ吸いこまれるようにみつめると、電動の車イスの主は一匹の犬に先導されていた。

 車イスの熟年の男性は白いつえを持ち、明らかに目が不自由だった。

 

 白い小柄の盲導犬がガイドとなり、前方の障害物をすべて流れるようにかわし、速歩で進んでいた。

 

 男性はみるという作業は完全に犬に頼り、犬の合図で車イスの電動ボタンを操作していることが明白だった。

 

 男性はブリーフケースを車イスの脇においていたから、官庁街で仕事をしてきたのだろう。

 人と犬が一体のスピーディーな動きに魅せられ、思わずこちらも速足で後に従ってみた。

 

 あれほど速く進むと、なにかにぶつかる危険もあるとも思ったからだ。

 だが盲導犬も車イスの主もあざやかだった。

 

 無駄な動きなしに、通行人とぶつかりそうになれば、ぴたりと止まり、歩道に広告板などがあれば、スキーの回転のようによけていく。

 

 交差点ではまず犬が赤信号にきちんと止まり、青になると、男性に合図して、さっと横断歩道を渡っていく。

 

 体に不自由のない人間よりもずっとスムーズなさばきだった。

 私はこの光景に胸がいっぱいになり、米国社会の特質についてまでつい考えた。

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議会に盲導犬

1998年09月23日 産経新聞 東京朝刊 国際面


 

 連邦議会の公聴会室に入り、報道席に座ると、ぎょっとした。
 
 すぐわきの一般傍聴席の床に大きなイヌが横たわっていたからだった。

 体全体を横にして目を閉じ、静かに眠っているようなのだ。
 
 イヌの首や胴に巻かれた引き綱から盲導犬であることがすぐにわかった。

 引き綱を握ってイスに座るのは目の不自由なことが明白な青年だった。
 
 下院国際関係委員会の中東情勢に関する公聴会である。

 青年は議員と証人の質疑応答に熱心に耳を傾ける。
 
 青年のイスの下に横たわった白茶色の盲導犬は公聴会が円滑に進む間は声もあげず、音もたてず、マスターの傍聴に全面協力するように、目を閉じている。
 
 だが周囲で人が動いたり、ドアの開閉が音をたてたりすると、即座に目を開き、頭をあげて身構える。
 
 そして青年を見上げ、注意を払う。
 
 異常がないことを確認すると、また頭を床にもどし、目を閉じる。

 二時間以上の公聴会の間、そんな守護の動作を繰り返す盲導犬の忠誠ぶりに感動に近い思いさえ覚えた。

 公聴会後、青年に声をかけると、バージニア大学の学生マッツェン・バーンクインと名乗り、盲導犬はレーガンという名のラブラドルレトリーバーだと教えてくれた。

 「議会にはよくきます。盲導犬を連れての出入りは身体障害者法で保証されていて自由です」。
 
 青年は知りたい点を明るく答えるのだった。(古森義久
 

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