イラクでの米軍の対テロ勢力作戦が成功し、治安が回復され、国内の各県の治安保持の責務は次々にイラク国軍に引き渡されています。
イラクには米欧に顔を向けた新民主主義国家がいよいよ誕生しようとしています。ブッシュ大統領のサダム・フセイン 政権の攻撃に反対した側にとっては、なかなか認めたくない現実でしょう。
しかし内戦というような状態が終わり、新たな国づくりが着実に
進んでいることは民主党の大統領候補のバラク・オバマ氏までが認めています。
こうしたイラクの治安回復をもたらしたのは、明らかにブッシュ大統領が断行した米軍増派作戦であり、その作戦を指揮したデービッド・ペトレイアス将軍の手腕だといえましょう。
そのペトレイアス将軍がこのほどワシントンで演説をして、イラク平定作戦の内容を詳しく語るのを聞く機会を得ました。
目前にみるペトレイアス将軍は引き締まった体躯ながら、意外なほど小柄の人物でした。その外見、言動、態度などは、軍人というよりも学者とか研究者を思わせました。言語は明晰、ユーモアを交えながらの説得力十分の報告でした。
以下にその要旨をお伝えします。
米軍増派による新作戦でイラクの治安の大幅改善を果たした米軍デービッド・ペトレイアス司令官は10月上旬、ワシントン市内で「イラクでの米国の成功」と題して演説し、イラクの治安が大幅好転とされた今年5月よりもさらによくなり、新しい国づくりが進んで、新生イラクの指導者たちは自国を「中東の日本」にすることを目指している、と語りました。
ペトレイアス陸軍大将は昨年2月からこの9月末までイラク駐在の多国籍軍(米軍)司令官を務め、今月末までには中東全域を管轄する米中央軍司令官に栄転します。
ペトレイアス司令官はイラクではブッシュ大統領が断行した米軍増派による新作戦でアルカーイダに果敢な攻撃をかけて、大きな打撃を与え、全土の治安を大幅に回復した実績があります。
同司令官はこの演説でまずイラク情勢が今年5月に議会で証言したときよりもさらに好転したとして「昨年7月には一ヶ月約180件だったイラク全土でのテロ攻撃がこのところ30から20へと減り、さらに減少傾向にある」と述べました。
同司令官は増派による新作戦について、
①まず一定の人口を画定して安全を守り、米軍もそこにともに住む
②その人口の団結を図る一方、敵を徹底して攻撃し、追撃する
③敵を撃退した地域を確保し、同化が可能な住民と不可能な分子とを分離する
④住民に米側の価値観を示し、同時に住民の自治組織を強化する
―などという手順で平定を進めたことを説明しました。
ペトレイアス司令官はこうした平定作戦の成果として首都のバグダッドでは住民たちが平和を楽しみ、公園や動物園、ホテルなどの再開を宣言するようになったことを宣言しました。
同司令官はその理由として米軍がアルカーイダの部隊や指揮官を多数、選別的に、撃破し、転向させたことだけでなく、スンニ派が国際テロ組織に敵対するようになったことや、シーア派民兵が米軍やイラク政府に協力するようになったことを指摘しました。
同司令官はイラクの現在の安定が将来、中東やイスラム世界での模範になるとして「イラク指導層は自国がやがては『中東の日本』のようになることを願っている」と述べました。
同司令官は現在のイラク国の平定が民主主義国家の新生を目指すイラクの飛躍の基盤になるとして、世界有数の石油資源がそれを可能にすると強調しました。
しかし同司令官は現在の治安改善にはなおひ弱い部分もあり、
①アルカーイダの大規模反撃
②スンニ派の過激勢力の反撃
③イランに指示された支援勢力の戦力の拡大
――などによってイラク情勢の逆転もありうる、と述べ、警告をも発しました。
コメント
コメント一覧 (16)
ところが、ブッシュはチェイニー、ラムズフェルド、ウォルウォルフォビッツの主張を入れ、治安維持に必要な陸軍の要請を無視しました。
日本占領の成功のかげに、米ソ対立という国際情勢があったことと、我が国は武装解除こそされましたが、治安関係をふくむ政府機関がそのまま存続を認められ、その上に地上兵力もそれこそいまなら過疎で閑古鳥が鳴いている地域にまで駐屯しました。
ブッシュが誇らかに我々には日本を民主化したという実績があるといいましたが、我が国は明治時代からすでに民主主義への道を歩んでいました。はっきりいえば、アメリカがやった民主化なるものは、結果として自分で自分の手を縛ってしまった格好です。
戦前の日本には憲法も議会もあり普通選挙も存在していました。初等教育も充実していました。ただ、政治による軍部のコントロールができなかったにすぎません。
正直、モデルとしては相応しくないと思っています。
私はイラク開戦そのものは致し方なかったと考えています。
フセインはイスラム原理主義とは水と油で、イラクからイスラム色を一掃し石油収入をもってインフラを整備したまでは良かったのですが、その後はお定まりの独裁者・・・。
事ここに至っては軍事力を持って息の根を止めるしかなかったと思っています。バクダッド陥落後は時間がかかってしまいましたが・・・。
心配なのは石油の価格が下がってきてイラク政府の歳入が目減りし、地方への利益分配が上手くいかなくなるのではないかということです。そうなれば、地方が再武装しないとも限りません・・・。
OPECがまた減産に転じているので心配は杞憂かもしれませんが・・。
今が一番大事な時でしょう。オバマもいたずらに撤退する愚は犯さないでほしいです。
一般住民で平和を望まない人はいないですね。そこにテロや戦争が起こることは、それを望まない勢力が複雑に絡んでいるということです。
それは、①イスラム原理主義という宗教の最も悪い面を体現した勢力、
②アメリカの傲慢、キリスト教への反感を持つ勢力、
③武器を売りまくる死の商人の勢力、さらに
④民主国家の出現を恐れる周辺イスラム諸国の影響と見られます。
ですから、今後は、イラク国民に「真の民主化」は住民の人権を尊重する手段であることを本当に認識してもらうこと、アメリカは謙虚にイラクの民主化と平和を望むものであることを示すこと、そして、復興において平和の果実として、大規模プロジェクトや生活関連のインフラ整備に大量の資金を導入するように約束することだと思います。
さらに、イスラム世界の悪い面としてしては、宗教が過剰に政治に介入してくることですね。唯一つトルコ憲法では政教分離を定め、改訂を挙論することすら禁止しているとのことです。ケマルアタチュルク氏の先見性だと思います。
宗教は個人の心の問題であり、信教の自由は人権の基本です。国家がひとつの宗教に隷属してはいけませんし、他宗教を差別弾圧してはいけません。イランの非先進性はここに尽きると思います。
それと、世界に有り余る投機資金を世界のインフラ整備に回す仕組みを考えるべきです。単なるマネーゲームの崩壊が今回の金融危機の根本の一つでしょう。
もっと、人々の福祉の向上につながる実体分野に資金を流入させなければなりません。戦争が最も儲かる公共事業だとする感覚が今も生きているとすれば、本当に情けないことです。
アメリカによる日本の民主化は自分の手を縛ってしまった――というのは、すごくおもしろい視点ですね。
アメリカ側がイラクの民主化と日本の「民主化」とを同類であるかのように論じるのは間違いだと私も思います。あまりに異なる要因があまりにも多いですよね。
ただしイラクの人たちが将来の自国のあり方として、日本を「範」としてうたうというのは、また別の次元の話のように思えます。
書き込まれたコメントの全体を通じてきわめて的を射たご指摘ばかりだと思いました。
説得力のあるご意見ですね。
アメリカの有識者の間でも、同じことを考えている人が多数いると思います。
ブッシュ政権もイラク政策の究極の目的は安定した民主主義志向の主権国家がイラクにできることにあり、それがアメリカの対中東、対世界の政策にも合致し、国益を利すると判断しているといえます。
石油利権の獲得を目指したのではないことは、もう明白となっていますね。
アメリカを中心とした軍国主義国家が生き残るためにはどこかで戦争が起きてないと都合が悪い。そもそもイラク戦争なんてのは「大量破壊兵器を持っているぞ」という間違った大義名分をでっちあげたアメリカが暴走して起きた戦争なわけで、日本はその間違った戦争の敗戦処理をさせられてるわけ。
イラクに民主主義志向の主権国家を誕生させるなんて最初から考えてるわけない。そんなのただの後付。戦況が芳しくないから適当に理由つけて戦争を正当化させて引き上げるだけですよ。
戦争で国家を存続させるようなマインドを肯定しちゃだめだよ。
しかし、「では、恐怖で民衆を統べるHussein政権が続いて良いのか?」と言う点の答えはどうなのでしょう?「他の国のことだからその国の国民に任すべき」確かにそれで政権交代が出来るのであれば良いと思います。が、当時のIraqにはそのようなことは不可能でしょう。権力、特に警察・軍に加えて秘密警察も動員されている現状では…
軍事面での成果は上がりました。そのために命をかけ、時間を稼いだ米軍将兵とそのご家族には頭の下がる重いです。
さて、政治家の皆さんはその時間を有効に使えるのでしょうか…
古森さん、私の興味はそこに移っています。
<植民地化を民主化と呼ぶレトリック・・。
アメリカを中心とした軍国主義国家が生き残るためにはどこかで戦争が起きてないと都合が悪い。>
懐かしいですね。
かつての日本社会党のレトリック・・・日米安保破棄、自衛隊解体、非武装中立、ソ連の核兵器は平和のため、米帝国主義は日中共同の敵・・・
日本も米軍が駐留するのだから、もちろんアメリカの植民地なのですよね。
中国もイラクの石油開発の権利をすでに購入したこと、ご存知でしょうか。
賢い中国が戦争の激しく続いていく外国で石油開発を大々的に始めようとはしないでしょうね。
これからの興味の対象に関しては、そのとおりですね。
フセイン政権下のイラクと、いまのイラクと、日本にとってはどちらがよりよいのか、なんていう点も考慮すべきだと思います。
広範な領域での貴コメントは大方、うなずいております。
細かな点ですが、レーガンのリビア空爆は確か、ベルリンの米兵が集まるディスコ爆破の指令をカダフィが出したという「理由」だったという記憶があります。
下記はなんとも深遠なコメントですね。
<まともなことは、小生はほとんど存じません。>
あなたはやはりミステリー・マン(?)ですね。
<存じません>でも、機関銃のようにコメントが出てくるのですから、その内容をどう受け止めればよいのか、読む側の知的体操としての価値は絶大です。
>読む側の知的体操としての価値は絶大です。
どうやら私には、効能がないようです。
そうでしょうね。
そういう反応もわかります。
またNHKのような対応で気が引けますが。
もうちょっとの本音は「体操にもいろいろあってーー」というあたりですけれども。
パンナム機爆破事件のときは私はロンドンに駐在していたので、よく覚えています。
レーガンのリビア爆撃ですが、カダフィの寝ていたテントのすぐそばを攻撃し、その後、カダフィの言動ががらりと変わってしまったこともよく記憶しています。
やはり人間は自分がこの世から抹殺されそうだとなると、外部からでも想像もできない反応をみせることが多いようです。国際政治にもこの原始的な真実が適用するのかと当時、感嘆したものでした。