アメリカの金融危機はそもそもなぜ起きたのか。

 なにが最大の原因だったのか。

 政府が市場をあまりにも自由に放任したからか。

 あるいは逆に政府が介入しすぎ、その介入の方法に欠陥があったからか。

 アメリカ国内での議論の断面を紹介しました。

 産経新聞の10月28日朝刊のコラムです。

 

  なお金融危機のアメリカ大統領選への影響などについては以下のサイトに詳しく書きました。

 http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/84/

 

 

【あめりかノート】ワシントン駐在編集特別委員・古森義久


 

 ■金融危機と「大きな政府」

 米国ではこのところの金融危機で「小さな政府」や「規制緩和」を標榜(ひょうぼう)してきた保守主義への風当たりが激しい。

 

 大企業が破綻(はたん)し、株価が暴落し、個人資産も激減する連鎖の恐怖が広がるなかで政府の介入や保護に頼る傾向が一般に強まった。

 

 一方、現在の危機を招いた原因としてはブッシュ政権主導の経済政策が「自由放任」や「規制撤廃」と特徴づけられ、もっぱら非難の的となってきた。

 

 とくに民主党バラク・オバマ大統領候補に象徴される「大きな政府」リベラル派からのその糾弾が強い。

 

 ブッシュ政権と結びつけられやすい共和党ジョン・マケイン候補がまともにその激風を浴びる。

 

 そうした糾弾は欧州の規制強化論にも勢いを得て、資本が自由に動く資本主義や、需要と供給の自由な動きで機能する市場経済の核心へも矛先を向ける観となってきた。

 

 「私たちはいまやみな中国人になったようだ」。

 

 ワシントン・ポスト紙の国際問題コラムニストのデービッド・イグネシアス氏が自嘲(じちょう)気味に書いていた。

 

 資本主義経済というのは名目だけで、自由な民間市場を信用せず、政府の管理に依存する統制経済の概念にいまの米国が傾く点は中国と同じだろう、というわけだ。

 

 ではいまの金融危機は本当に「小さな政府」の走り過ぎによる自由放任の産物なのだろうか。

 

 2年半前に予測した住宅市場のバブル崩壊が的中して著名になったエコノミストのピーター・シフ氏は、ごく最近の「資本主義を責めるな」という論文で「政府の介入と規制こそが今回の金融危機の主要因だ」という趣旨の見解を発表した。

 

 危機を発火させたサブプライムローン(低所得者向け高金利型住宅ローン)の焦げつきも、借り手側に、債務にともなうリスクを政府の介入で不自然に少なくみせたことが原因なのだという。

 

 シフ氏はその具体例としてローンの利子負担の税控除や不動産売買によるキャピタル・ゲインの課税免除をあげ、「この種の政策が投機的な住宅購入への不自然な需要を創出した」と指摘する。

 

 ファニーメイやフレディマックという政府系住宅金融会社についても同様に「政府の事実上の保証によりリスクが少ないという印象を住宅購入側に与えた」と政府の役割を強調する。

 

 市場原理が自然に機能すれば、無資格の購入者はふるいにかけられ、住宅価格の値上がりが個人所得の伸びをはるかに超えることを防いだだろうという。

 

 要するに政府がここまで大きな役割を演じなければ、破綻はなかっただろうというのだ。

 

 米国の金融史を専門とする経済評論家のジョン・ゴードン氏もファニーメイについて「資本主義が実行されるニューヨークではなく政治首都のワシントンに本部をおくこと自体がその政治性を明示している」と述べ、市場経済の枠を超えた性格を強調した。

 

 そのトップの地位もみなクリントン政権の高官たちが天下りした時期が最も長く、「大きな政府」の民主党歴代政権とむしろ緊密なつながりがあったことをも指摘した。

 

 確かにファニーメイの政治献金は上院のクリス・ドッド銀行委員長やオバマ議員など民主党側に集中していた事実も公開されている。

 

 こういう見解を知ると、政府が介入や保護をせず自由に放任したからいまの金融危機は起きた、という診断もぐらりと揺らいでみえる。

 

 「小さな政府」よりもむしろ「大きな政府」が危機の温床を育(はぐく)んだふうにも思えてくるのである。

 

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