日本政府は最近、ベトナムとの関係を強化する政策を次々にとってきました。
ベトナムへのODAの額を急増させたことがその象徴でしょう。
ベトナムをはっきりと「戦略的パートナー」と呼びました。
ベトナムの首相や大統領を招き、国会で演説をしてもらったりもしています。
ベトナムから招く留学生の数も増えました。
この動きはきわめて実利的で、賢明な外交判断だといえます。
では相手側のベトナムはこの対日接近をどうみているのか。
ベトナムは本来、政府も国民も日本には好意的な姿勢を保ってきた国だといえます。
しかし日本側として、数々の友好政策をとれば、相手も同じように友好姿勢を発展させるだろう、と断定することには危険があります。
そんな基本を実感させられる機会がワシントンでありました。
あるセミナーでの体験です。
そのことについて書いた記事を以下に紹介します。
なおこのベトナム・日本関係でも大きな存在を広げる中国の対外行動について、金融面での新たな脅威について以下のサイトにレポートを書きました。
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/89/
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【外信コラム】ポトマック通信 ベトナムから見た日本
2008年11月07日 産経新聞 東京朝刊 国際面
ワシントンでの国際問題のセミナーは数え切れないほどあるが、ベトナムからの訪問者が主役という例は珍しいので出かけてみた。
10月下旬、「ワシントン東西センター」での「中国と米国とのはざまのベトナム」と題する集いだった。
意見を述べたのはベトナム外交学院の研究員グエン・ナム・ズン氏である。
ズン氏はベトナムが中国と米国との戦略関係をそれぞれどう保ち、どう動かすのかを実例をあげて明確に語っていった。
ズン氏はベトナムが中国と米国との戦略関係をそれぞれどう保ち、どう動かすのかを実例をあげて明確に語っていった。
30代にみえる同氏は流暢(りゅうちょう)な英語で、スライドを駆使しながら、米中両大国との間合いの取り方や、一国だけに接近した場合の一長一短を説明した。
報告後の質疑応答で米国人学者から「ベトナムにとって米中両国が超重要とはいえ、日本との関係も考慮すべきではないか」という質問が出た。
報告後の質疑応答で米国人学者から「ベトナムにとって米中両国が超重要とはいえ、日本との関係も考慮すべきではないか」という質問が出た。
するとズン氏はごくあっさりと「いや、日本はこの種の戦略構図に含める必要はないと思う」と答えた。
そこで私もつい手をあげ、日本は米中両国のような軍事的重みこそないが、経済や外交で対ベトナム関係に力を入れ、ベトナム側も日本の「戦略パートナー」として呼応しているという現状を語った。
そこで私もつい手をあげ、日本は米中両国のような軍事的重みこそないが、経済や外交で対ベトナム関係に力を入れ、ベトナム側も日本の「戦略パートナー」として呼応しているという現状を語った。
すると、ズン氏はやや気まずそうに「まったくの私個人の見解であり、政府の政策を代表していない」と、早口で述べた。
だがベトナム政府の本音も、そんなところかなと、つい感じさせられたのだった
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コメント
コメント一覧 (23)
ベトナムと台湾との比較、類似ですか。
ウウーンと考えさせられますね。
棄権した諸国:タイ、シンガポール、ブルネイ、フィリピン、カンボジア。
残念ながら、これらの国々はすでに日本と価値観を共有せず、中国と共有していると言うことです。
日本の友邦と考え、日に影に有形・無形の援助していた東南アジアの国々(台湾を含め)はすでに中国にひれ伏してしまったことを認識すべき。
野口東秀のコラムにあった「日本は経済は一流だが、政治・外交は三流どころか四流。」という中国高官の言葉をよく咀嚼する事が重要ですね。
東南アジア諸国は生き残るために太古の昔から日中米など大国の力の強弱を冷静に見極めているんでしょうね。ベトナムはあれだけ国土を蹂躙されたアメリカに対してもとっくの昔に国交を回復して、更に戦略を持って付き合おう、利用しようとしている。更に言えばフランスなど植民地時代の宗主国に対してすら結果的には近代化のために利用した形になったと思う。そうでなければ、植民地時代の建築物など、どこかの国のように片っ端から破壊していたに違いない。
日本も国力が衰えたらアジア諸国からは見向きもされなくなりますよ。結果的に先の大戦で民族自立のために日本を利用して、いざ日本が敗戦したら手の平を返したように賠償金をふんだくったように。
このお題は面白いですね
軍事的意図を勘繰られる事無く経済進出ができる
中国の経済進出が拡大すれば
より優位な経済進出ができる
ベトナムでは日本企業排斥はなさそうですね
あと、ベトナムはホーチミン時代の「200万人餓死者の原因は日本軍の占領の為」と言うカードが時折顔をだします。大洪水と干ばつに交互に見舞われ食糧不足だった事実はありますが、政治的プロパガンダ以外のなにものでもないのに、日本やベトナムでは検証なしに、ホーチミンの言葉として信じられているようですね。
「200万人餓死」説は日本側からもその後、きちんとした反論があったという記憶があります。
小倉和夫氏(現国際交流基金の総裁で朝日新聞の社外委員)がベトナム駐在大使だったころは、そんなことをベトナム側から言われても、反論しなかったようです。
高山正之氏がこの問題を何度か詳しく取り上げています。
かつての南ベトナムではそんな話は一度も聞いたことがありませんでした。
だからやはり北側のプロパガンダだったという形跡が濃くなります。
いずれにせよ、いまのベトナム政府はそんなことを述べないようです。
お疲れ様です。
興味深いお話ですね。
その研究者は英語の運用能力から察するに、1975年のサイゴン失陥以降に米国に亡命した人々の子弟で、米国で育ち、高等教育も受け、米越復交後にベトナムに行って(戻って)研究者をしているのかもしれませんね。
そういう人間からすれば、まず米国、そして千年オーダーでの緊張関係を持つ中国がプライマリープレイヤーだと(純粋培養されて)考えてきたのでしょうから、日本のことに関心がないのは当然かもしれません。話の内容も米国の学者の考えそうなことですね。つまり、その彼はベトナム政府の考え方というより、米国のアジア関係学者の一般的なセンチメントや関心を反映していると見た方がよいかもしれません。
べトナム政府はもう少しプラグマティックだと小生は思いますので、日本を特に対中戦略上のカウンターバランスの一つとして考えているとは思います。その研究者さんが口ごもったのも、ベトナム政府の公式見解とは違うということを逆に示しているのかもしれません。
ただ、アメリカン・スクールのアジア人は着実に日本を軽視する方向にシフトしているので、政府中枢も含めたアジア諸国のJapan Passingは加速するかもしれません。オバマ-クリントン・ラインの米国外交政策も今後さらにそれを助長すると見るのは悲観的過ぎるでしょうか。
日本で参議院民主党の阻止により、インド洋での洋上給油活動がストップした頃ですが、在京のベトナム大使館の中堅幹部と話していたとき、挨拶もそこそこに、この活動中断により日本のアジア(の安全保障面)でのコミットメントが縮小することに危機感を持っている、と真顔で言ってきたのには正直驚きました。インド洋、南・東シナ海における日本のプレゼンスの縮小と中国の進出の増大は、中国との安全保障問題の帰趨が死活的であるベトナムにとって、現実的な脅威と写るのでしょう。その意味で彼らの日本への期待はいまだ大きいのだと思いますが、日本の方がそれに応えられないということになれば、日本はますます見捨てられることになるでしょう。外交にラストワードはないので、ベトナムの方から「もうあんたを頼りにしはしない。」などと言ってくることはありえないでしょうけれど、この動きはボディーブローのように効いてくると思います。
ベトナムを含む東南アジア諸国の中国への姿勢は複雑です。
たとえばベトナムですが、中国にひどい目にあった歴史が一千年などと、市民レベルでは歌にまでなっています。中国との1979年の本当の戦争も記憶が消えたわけではありません。
確かにご指摘のように、以前よりはベトナムの対中関係はよくなりました。
そして両国とも共産党の一党独裁です。
しかしなおベトナムの年来の嫌中は根深いものがあります。そこからの消去法だけでも、アメリカへの期待が生まれ、(かつてはソ連でしたが)、日本への友好姿勢も生まれてくるといえます。
ただし日本に依存するほどナイーブではなく、中国への懸念を露骨に出すほど単純でもありません。
東南アジアの他の諸国も中国を恐れているけれども、価値観をともにするといえるかどうか。現状では、ノーというのが実態だと思います。
東南アジア諸国が日本が思うよりずっとしたたかであること、そのとおりだと思います。
一方、日本はどうもその相手側のしたたかさの度合いを過少にみる傾向があるわけですね。
ご指摘のベトナムの日本への安全保障面での期待、本来は中国を牽制する意味でも大きかったとのだと思います。でも日本はしないし、できないんですね。となると、あとは現実をみて、もう期待を減らしていく。経済面での援助への期待を大きくする。そんな流れに思えます。
しかしズン氏はアメリカ生まれとか、アメリカ育ちではありません。
経歴をみても、英語を聞いても、流暢とはいえ、ネーティブのひびきは皆無でした。それにアメリカ在住のベトナム人は基本的にみな反共ですから、
若者がアメリカで生まれ育ち、ベトナムに移住して政府機関で働くという例もまずないようです。
軍を持たない米国の保護国の日本が、「戦」略パートナーたり得る事は無いんじゃないでしょうか?
日本が果たしてベトナムをどう守れるのか、どう支援できるのか。
果たして日本に義理立てするために、ベトナムは自国の安全保障を危険にさらすでしょうか。
総て否だと思います。
所詮金だけの関係は金の切れ目は縁の切れ目の言葉の通り、それ以上には決してなれないと思います。
おそらく、日本列島に地政学的メリットを感じる国以外すべておなじ見方をしてると思いますが如何でしようか?
したたかです。
米国と戦った国は日本以上に甘くはありません。
しかし、
関係を持つということでは
中国よりも遥かにましです。
戦略的観点を持ち、ベトナムとは付き合えばいいんです。
繰り返しますが、中国よりましです。
戦略的パートナーというのは同盟と異なり、相手が第三国に攻撃されても、その防衛に責務を有するということはありませんね。
日本が自国の正常の軍隊を持たないことが外交上、戦略上のハンデとなっていることも、ご指摘のとおりだと思います。
ただしベトナムの場合、日本が自主独立の軍事力をたとえ持っていても、
いま以上に日本に依存してくるかどうか、日本側がベトナムの防衛のために自国の軍隊を派遣して、戦闘にまで参加するのかどうか。まったく別問題に思えます。
貿易でも、投資でも、安全保障がらみの協力でも、ベトナムが中国より日本にとって接近しておいてトクが多い相手であること、同感です。
こうした関係はもちろん国際情勢や日本自身の立場の変化により、変わっていくことは大前提ですが。
北京の街路を歩くときと、旧サイゴンを歩くときの、あの違い、実感されたことと思います。
ベトナム外交学院というのは公的な機関のようですが、あくまで一研究員が
その場で発表した意見が、国家の外交的な方針を示しているわけでもないで
すし、あまり過剰に受け止めなくてもよいのでは、と思います。
(もちろん我が国が戦略論的にスルーされる
- しかも質疑応答で明確に名前が出たにもかかわらず! -
のはなんだかなあ・・・ と思いますが)
彼の専門分野(それは戦略論的なものなのでしょうが)が経済的な具体性(人・モノ・物流・金)を持ったものか、それとも軍事的戦略を専門にして
いる方かもなのか、それによって我が国の扱い方が相当異なることは事実だ
と思いますし、古森さまの記事を読む限りではこのセミナーがそれほど具体
性をもったものとも思えませんので、であるならば矢張り米国や中国という
超大国のもつインパクトと我が国を比較できるものでもないかと思います。
お考えどおりだと思いますよ。
ズンさんは政府機関の一研究員です。
過剰にも、深刻にも、受け止めてはいません。
元の記事の産経紙面での扱いがそれを象徴しています。
ごく小さな囲み記事であり、ニュースとしても提示していません。
ただ世間で起きることはその次元のことばかりでしょうが、そのなかに話題とかトレンドとして取り上げる価値を持った項目もあるということでしょうね。
ただしこのセミナーは短い記事では書けませんでしたが、かなり内容がきちんとした意見発表だと感じました。
東南アジアではありませんが、駐日韓国大使が帰国して猟官運動をしているそうです。(朝鮮日報による)
個人的資質の問題なのか、日本の地盤沈下のためなのか、お国柄なのか?
何れにしても前代未聞の事実には変わりないでしょう。ベトナム以上に舐められた話ですが。
拉致された自国民を助けるのに軍を出さない。
大東亜戦争の件でクレームをつければ、謝罪して金を出す。
こんな国を誰が信頼できるのでしょうか?
目を覚まさせずに、金を引き出せるだけ出させて、利用価値がなくなれば捨てればよい、これが普通の外交感覚だと思います。
生命を全ての価値の一番上に置いた国の末路でしょうか。
>goodnt4u さん
>
>お考えどおりだと思いますよ。
>
>ズンさんは政府機関の一研究員です。
>過剰にも、深刻にも、受け止めてはいません。
>
>元の記事の産経紙面での扱いがそれを象徴しています。
>ごく小さな囲み記事であり、ニュースとしても提示していません。
>
>ただ世間で起きることはその次元のことばかりでしょうが、そのなかに話題とかトレンドとして取り上げる価値を持った項目もあるということでしょうね。
>
>ただしこのセミナーは短い記事では書けませんでしたが、かなり内容がきちんとした意見発表だと感じました。
私の記事の「過剰に受け止めている」という部分は古森さまに充てたもの
ではなくコメントしている方の中に、この件を憂国的に捉えすぎている方
がいると感じたので、また私もその方面で感じ過ぎる部分があるので自戒
半分に書いたものです。
申し訳ありません、言葉足らずでした。
なんかコメントの中で憂国が過ぎて侮蔑的な表現をなさっていると感じた
ものがあったので投稿しました。
ご趣旨がよくわかりました。
懇切な付記の説明をありがとうございmさいた。
ご指摘の諸点が「戦後の日本の問題」の本質なのかもしれませんね。
でもまあ「末路」とまでは言い切らないでほしいと思うのですが。
私のコメントの最後の部分、化けました。
ありがとうございました。
上記が本来の記述です。
ベトナムの名前は昔から表記に苦労していたようですが、いわゆる家族の名、つまり姓が少ないのが特徴です。グエンとか、チュオン、ホー、チャンとか、おそらく一般的には10ぐらいにほとんど集中しているようです。
その姓だけを呼ぶと、みなグエン氏になってしまうので、フルネームの一番下の部分を姓にように使うようにしたのだ、という話を聞きました。
以上が正しいのかどうか自信はありません。しかし現実にみなフルネームの一番下の名で呼び合っている現状に関しては自信があります。
南ベトナムの最後の大統領はズオン・バン・ミンだからミン大統領、その前任はグエン・バン・チュー氏だからチュー大統領、という呼称でした。
お尋ねの研究員と首相とはズンというだけで縁戚とはいえないでしょう。
対ベトナムODAの全体額のうち無償部分だけだととても少ないのは、日本のODAの特徴として有償部分が異様に多いという基本の反映です。