バラク・フセイン・オバマ氏のアメリカ大統領就任も秒読みとなりました。

 

 ワシントン市街も就任式の準備のために、異様な熱気に包まれています。

 

 アメリカ国民の多数派が信を託した初の黒人大統領の船出を祝う行事が多々、予定されています。

 

 その一方、オバマ新大統領がどんな政治信条や理念、イデオロギーに基づいて、新しい統治を進めるのか。なお光と影が交錯しています。

 

 そのへんの状況についての報告を続けます。

 雑誌『正論』2009年2月号に掲載された古森論文の紹介の最終部分です。

 

 なおオバマ新大統領が直面する経済、金融の諸課題についてのレポートを他のサイトに書きました。以下のサイトです。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/92/

 

 

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オバマ氏の国政レベルでのこれまでの政治体験は連邦議会の上院での三年余りの議員歴に尽きる。

 

この三年の活動の軌跡としてオバマ氏は「上院議員百人のうち最もリベラルの議員」と判定された。

 

安全保障面ではイラクからの米軍全面撤退を求め、戦費を削る法案に賛成した。

 

オバマ上院議員は軍事力増強につながる措置にはいつも反対し、核兵器の廃絶というようなことまで唱えたリベラルの軌跡を有する。

 

ミサイル防衛に対しても懐疑的な見解を述べることが多かった。

 

一般に軍事力増強には反対、というよりも軍事自体を軽視し、遠ざける傾向があった。

 

抑止や防衛よりも対話や協議を優先、というふうだともいえる。

 

だから軍事力に基づく相互防衛である同盟には熱心ではない。

 

なにか物騒な問題が起きれば、二国間の同盟による抑止力ではなく、多国間の協議や交渉でまず解決を試みよう、という態度である。

 

だからオバマ氏は日本に関しても外交論文では同盟関係には言及せず、中国などを含めての多国間協議の重要性を説いていた。

 

大統領候補となってからはイランや北朝鮮の核武装問題に対して、「私自身がアメリカ大統領としてそれぞれの相手国の首脳にいっさいの前提条件をつけずに個別に会談し、問題の解決を図る」と言明して論議を呼んだ。

 

なんの前提条件なしに「無法国家」の北朝鮮の金正日書記らと首脳会談をする、というのである。

 

これまたリベラル融和外交といえよう。

 

リベラルの国内政策は「大きな政府」である。

 

経済や社会の諸課題に対し政府ができるだけ多く介入し、規制する。

 

自由競争や自助努力よりも平等、富の再配分を重視し、高所得層への税金やキャピタル・ゲイン税、大企業への法人税を高くする。

 

オバマ氏も選挙中に一般国民には減税の措置をとると言明しながらも、年収二十五万㌦以上の高所得層への税金は大幅に税率をあげることを宣言した。

 

「小さな政府」や「自由競争」を支持する保守派からすれば、自由な競争を制限し、全員を平等にしようと抑えつけるのは社会主義だということになる。

 

自由な競争で先頭に立ち、平均より多くの報酬を得た人間も懲罰的な高税率の課税をされ、富を再配分されてしまうことになるからだ。

 

リベラル派は労働組合の支持に依存するため、アメリカ人労働者の雇用を守ることを優先させ、貿易にも制限をつける。

 

国内の労働者や産業界を守るために、外国製品の輸入を規制する保護貿易主義を推進する。

 

オバマ氏自身も上院議員時代には北米自由貿易協定や米韓自由貿易協定に反対していた。

 

上院では外国に生産施設を一定以上、移したアメリカ企業には特別の課税をするという法案にも共同提案者となっていた。

 

環境問題でもリベラル派は経済の開発や成長よりも環境保護を優先させる場合が多い。

 

だから原子力発電所の建設には反対、アメリカ大陸の沿岸での石油開発にも反対、ということになる。

 

オバマ氏は現実に上院議員時代、そういう趣旨の法案を支持してきたのだ。

 

だが選挙キャンペーンではそういう左傾過激リベラルの志向をみごとに薄め、隠し、中道や保守の方向に向いた路線を打ち出してみせた。

 

ここでもアメリカの大手メディアはオバマ上院議員のそうしたリベラル傾斜の政治軌跡をあまり明確には提示しないのである。

 

要するにオバマ上院議員は保護貿易主義へ明白に傾斜し、労働組合への配慮から外国投資まで抑制するという過激リベラル志向をいやというほど、みせてきたのだ。

 

だが今回の大統領選挙では、大手メディアはオバマ氏を過激リベラルの志向と重ねてみることはほとんどしなかった。

 

というよりオバマ氏の超リベラル志向にはほとんど正面からの光を当てなかったということだろう。

 

オバマ氏はこんご大統領として、自分本来のリベラル思想をどう打ち出していくのか。まだまだ未知の領域は多いようである。

 

(終わり)

 

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