バラク・フセイン・オバマ氏が1月20日、ついにアメリカの第44代の大統領に正式に就任しました。

 

その就任の式典に私も参加しました。零下7度のワシントンで早朝から議事堂の会場へと出かけていったわけです。

 

その体験を中心にオバマ大統領の誕生の意義などについて産経新聞に解説記事を書きました。

 

その記事を以下に紹介します。

 

なおオバマ大統領が直面する経済や金融の問題については別のサイトに報告を書きました。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/92/

 

 

記事情報開始歴史の象徴が直面する危機 ワシントン駐在編集特別委員・古森義久

 

 ■黒人大統領の重み

 バラク・オバマ米大統領の就任式は黒人の参加が圧倒的な多数を占め、初の黒人大統領登場の歴史的な重みを改めて印象づけた。

 

 選挙戦中はすっかり薄められていた人種がらみの要因がこの式典では力強く前面に出て、米国の民主主義の深まりや国政の変容を証する形となった。

 

 今回の就任式は確かに記録破りだった。

 

 米国で長年みた各種の集いでもこれほど参加者の規模が巨大で、これほど黒人の数が多い光景は目撃したことがなかった。

 

 しかも熱気がすごいのだ。

 

 20日午前11時半からの就任式をみるために当局の事前の指示に沿い、午前8時前に連邦議会議事堂前の会場に入ると、限定区域の座席はもう大方が埋まっていた。

 

 後方のモールと呼ばれる広い散策路に延びる自由区域にも、大観衆が集まっていた。

 

 零下7度の切るような寒気の中、未明からみなオバマ大統領の誕生を待ち受けたのだ。

 

 そうした熱心な参加者たちはどの方向をみても、アフリカ系米人とも呼ばれる黒人の老若男女が多数派を占めていた。

 

 議事堂のバルコニーからそう遠くない記者(古森)の席も、周囲はみな黒人だった。

 

ミシガン州からきたという中年の夫婦は、多数の親類や友人たちに興奮した口調で就任式会場にいることを告げる電話をかけ続ける合間に、身を乗り出して語った。

 

 「自分たちの生涯で黒人大統領をみる機会はないと思っていたのに夢が実現しました。その就任の光景を絶対にみたいと思い、なにがなんでもと、やってきました」

 

 すぐ後ろはニューヨーク州在住の黒人一家だといい、車イスの高齢女性を含む7人ほどが、これまた興奮した様子でオバマ夫妻を礼賛していた。

 

 式の終了後、パレードの沿道を3時間以上も歩いたが、観衆は黒人が明らかに半数以上を占めているようにみえた。

 

 しかもだれもが喜ばしげ、誇らしげなのである。

 

 ■民主主義の前進

 

 だがこの人種要因はオバマ陣営自身、選挙期間中はことさら薄めていた。

 

 当選後もとくに光を当てることは少なかった。大方の関心はオバマ氏の出自や理念の特殊性、政策の不透明性に引き寄せられていた。

 

 しかし、就任式での黒人パワーの爆発するような発露が、いやでもオバマ大統領の人種的特徴の歴史的意義を明示したと感じさせられた。

 

 米国社会で奴隷とされ、参政権を奪われて差別された被迫害の歴史を持つ黒人が、ついに国家元首に選ばれたという事実が証する民主主義や人種融和の前進の意義である。

 

 オバマ大統領自身は就任演説で「60年前には地域社会のレストランでサービスを受けられなかったかもしれない人間を父に持つ男が、いまや(大統領就任の)神聖な宣誓をする」ことの歴史的意義を強調した。

 

 この点について米国史研究家のジョン・ゴードン氏は、米国のオバマ氏以前の43人の大統領がみな人種的背景は植民地を抱えた欧州諸国だったことを指摘して、米国社会の開放や平等の立証という面で「今回の就任式は米国の歴史の分岐点」と評した。

 

 ■期待引き下げ

 

 しかしオバマ大統領が米国民全体の12%しか占めない黒人の地位向上の象徴だけに甘んじることができないのも自明である。

 

 金融や経済の危機と国際テロの脅威とに同時に対応せねばならない米国をどう導くのか。

 

 オバマ氏の大統領就任は未踏の荒れた大海への船出ともなる。

 

 だがその進路について新大統領は多数の「挑戦」や「危機」を列記して、もっぱら対応の難しさを強調することで一般の期待のレベルを引き下げようとするかにみえた。

 

 解決策については「責任の新時代」とか「平和の新時代」という標語での抽象的な構えをみせるにとどめ、具体策は示さない。

 

 就任演説は個々の政策よりも基本の姿勢の表明が主旨とはいえ、オバマ氏のこれまでの主要演説にくらべてずっと平板であり、聞く側を刺激し、鼓舞する内容のようには響かなかった。

 

 米国が内外で直面する現状はそれほどに厳しく、その米国を動かすオバマ大統領の立脚点も、もはや「変革」と「希望」を語ることだけではまったく対処できない真剣の実務の世界に入ったということであろう。(ワシントン駐在編集特別委員 古森義久)