オバマ大統領が強い警戒をあらわにするラジオの保守派論客たちについてコラム記事を書きました。

 

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【あめりかノート】ワシントン駐在編集特別委員・古森義久 保守派論客の心配事
2009年02月11日 産経新聞 東京朝刊 1面


 

 米国のバラク・オバマ大統領がいま当面の最大の敵として意識する人物は、ラジオの政治トークショー番組で全米第1の人気を誇るラッシュ・リムボウ氏かもしれない。

 「ラッシュ・リムボウに耳を傾けても、懸案は片づけられません!」

 オバマ大統領は超大型の景気対策法案への支持を訴えるために1月下旬、連邦議会下院の共和党議員たちと会談したとき、本当にこんな言葉を口にしたのだ。

 リムボウ氏はここ20年ほどラジオの政治トークショーでは全米最多の聴衆を確保してきた。
 
 最近の調査でも全米600局以上、月曜から金曜まで毎日3時間続きの放送に毎週平均1450万人が耳を傾ける。
 
 基調は徹底しての保守で、リベラリズムの「大きな政府」には激しく反対をぶつける。

 巨体の腹から響いてくる太い声で、左派の政治家や知識人をユーモアたっぷりながら辛辣(しんらつ)に批判する。
 
 過激なフェミニストを平然と「フェミナチ」と呼び、国家や政府に頼るリベラリズムをマルクス主義になぞらえて揶揄(やゆ)していく。
 
 コメントの合間に聴取者からの電話での発言を受けつけ、明るいやりとりで会話を進める。

 そんなリムボウ氏はクリントン政権時代に保守派が議会で大躍進した「1994年の保守革命」ではヒーローだった。
 
 保守派が大幅に後退した2008年の選挙後も政界入りこそしないものの、共和党保守派のリーダーに目された。

 だからオバマ大統領に浴びせる批判も遠慮がない。

 「オバマ氏が統治に成功すれば、米国は社会主義の国となる」

 「オバマ大統領は昨年の第4四半期のGDPマイナス3・8%を指して『30年代の大恐慌以来、最悪の経済状態』と恐怖をあおるが、1982年の第1四半期はマイナス6・4%だった。オバマ氏の言葉はデマなのだ」

 そのコメントは扇情的なレッテル張りから細かな事実のズレを突く非難まで多彩である。

 米国の新聞やテレビが民主党、リベラル傾斜が多いことへの反動なのか、ラジオは保守派が圧倒的に強い。
 
 トークラジオでは全米第2の人気者のショーン・ハナディ氏も激烈な反オバマである。
 
 全米約500局、毎日3時間、毎週平均1350万の聴取者を誇る。

 47歳のハナディ氏はリムボウ氏より明るく軽いタッチでトークを進める。

 「こちらは保守派の地下壕(ごう)からです。オバマ氏のリベラルの波に追われて地下に潜行しました」

 こんなハナディ氏も昨年の大統領選中は、オバマ氏から「ハナディは共和党陣営の宣伝工作員なのか」と再三、実名をあげて攻撃されていた。

 このところオバマ大統領への支持率68%という数字が示すように、保守派も共和党もすっかり後退した形だが、ラジオのこうした論客たちの語りを聞く限り、大統領選挙で共和党のジョン・マケイン候補に投じられた5600万の票の存在もなお想起させられる。

 だがラジオの保守派論客側のいまの心配はオバマ政権が連邦通信委員会の規則「公正ドクトリン」を使って、「政治的公正」の名の下にラジオでの保守の主張を抑えてくる可能性だという。
 
 この規制はレーガン政権によって破棄されたのだが、オバマ政権が復活させる気配もある。
 
 そうなると、言論の自由をめぐる新たな論争が燃え上がることとなるわけだ。
 
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