ベトナム戦争の新刊書の紹介をしたことで、当時の日本記者のベトナム報道のなかでも異色の軌跡を残した産経新聞・近藤紘一記者のことを自然と回想しました。

 

近藤紘一氏は産経新聞が生み出した最も才能ある記者の一人だといえます。今回の新刊書『サイゴンの火焔樹』で紹介した牧久記者と同じ時期に南ベトナムの首都サイゴンに駐在していた近藤氏は、牧記者よりも長い年月、戦争の報道にあたりました。現地ではベトナム女性と結婚し、ベトナムの社会に深く腰をすえ、その地の文化や風習にすっかり慣れ親しんでいました。

 

近藤記者はその一方、フランス語に堪能な利点もあって、南ベトナムの政治家や将軍たちとも親しい交流を保ち、政治、軍事の重要情報をしっかりとつかんでいました。その報道は産経新聞に出ることが当然、最も多かったのですが、その後にすぐれたノンフィクション作家ともなった近藤氏はベトナム体験を単行本でも何冊かまとめました。

 

近藤氏の作品でベトナム戦争、とくにサイゴン陥落前後を伝えた書が『サイゴンのいちばん長い日』(文春文庫)でした。

 

 

サイゴンのいちばん長い日 (文春文庫 (269‐3))

 

ベトナム戦争が終わって、日本にもどった近藤氏は次々と魅力あるノンフィクション作品を発表しました。そのなかで大宅壮一ノンフィクション賞を得たのが『サイゴンから来た妻と娘』(文春文庫)でした。

 

この書は近藤氏自身の結婚生活をベトナム社会やベトナム戦争を背景に人間らしい視点でおもしろく描いていました。この作品はテレビドラマともなりました。

 

しかし近藤氏は1986年に45歳の若さで病死しました。

 

サイゴンから来た妻と娘 (文春文庫 こ 8-1)