アメリカ上院外交委員会の大使任命承認の公聴会を聞いてきました。アジア諸国への一連の大使候補の任命承認でしたが、冒頭は中国大使と日本大使の被任命者が並んで証言をしました。
この公聴会での光景に衝撃を受けました。次期日本大使があまりにも軽くみえたからです。7月23日午前9時半からの公聴会の場に3分ほど遅れて着きましたが、会場はそれほど広くない部屋のせいもあって、満員でした。報道陣席の後ろに立って一時間半、傍聴しました。その結果、ショックを受けたので、こうしてすぐ報告することにしました。
やや大げさにいえば、この日はアメリカ議会で中国が大きく浮かびあがり、日本が深く沈んだ日として将来、回顧されるかもしれないと感じました。日本大使に任命されたジョン・ルース氏の存在がそれほど希薄であり、軽い印象を与えたのです。
大統領が指名した大使候補は上院の承認を得なければなりません。そのための外交上院委員会の公聴会が第一の関門です。
この日は二つのパネルに分かれ、第一が中国と日本の大使任命者、第二のパネルがモンゴリア、パプアニューギニア、マーシャル群島、タジキスタンの四カ国への大使任命者でした。
まずこの順番が象徴的です。
第一パネルの筆頭は中国なのです。同盟国であり、アメリカのアジアでの「リンチピン」であるはずの日本はその後におかれています。議長役となったジム・ウェブ議員が「アジアの専門家たちはこの順番をアメリカ上院が判断する重要性の順番を反映するなどとは読んでほしくない」と弁解していました。しかしなぜ同盟パートナーである日本を最初にしないのか、説明はありませんでした。
中国大使に任命されたユタ州の前知事のジョン・ハンツマン氏と
並ばされたことはルース氏にとって不運だったようです。二人のコントラストや差異があまりに鮮明となってしまったからです。二人の冒頭の声明や議員側からの質問への応答でも、天と地ほどの違いを感じさせられました。ハンツマン氏は言葉のはしはしから中国を知り、米中関係を知り、アメリカの国政を知っているという感じがあふれてきます。ルース氏は残念ながら、その反対なのです。
まだ実務についていない人物を最初から批判することは不公正でしょう。しかし大使としての適性や重みを客観的に判断する基準は存在します。
まずざっとあげれば、その基準とは外交の経験、派遣される国についての知識、その国とのかかわり、アメリカでの国政での経験や実績、政権内での比重、大統領への距離など、でしょう。
共和党のハンツマン氏はユタ州の現職知事でした。若い時代にモルモン教の宣教師として台湾で数年、活動したために、中国語は非常に流暢です。その後は通商代表部の次席で中国を含むアジアとの貿易問題を手がけました。シンガポール駐在の大使も務めています。
一方、ルース氏はシリコンバレーのハイテク分野の法律事務所・コンサルタント企業で実績をあげてきたとはいえ、最大の特徴は民主党の政治家への大口献金の能力です。日本とも日米関係とも、かかわりはほとんどなし、外交の経験もなし、アメリカの国政や公務の経験もほとんどなし、オバマ大統領との距離も近いとはいっても、側近というような範疇にはまったく入りません。
歴代のアメリカの駐日大使が元副大統領、元大統領首席補佐官、著名な日本研究学者、元オーストラリア大使、元下院議長、
ベテラン職業外交官などだったことを思えば、この基準ではルーズ氏は最も貧弱だといえます。残念ながら。
そしてこの日の公聴会でのルース氏の発言も、この私の評価を裏付ける内容でした。その具体的な紹介はまた場を改めましょう。
な日米両国間の核兵器の問題について以下のサイトにレポートを書きました。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090721/168635/
ルース氏
ハンツマン氏
コメント
コメント一覧 (16)
ルース氏も恐らくスタッフや情報収集能力は高いですから、過去の実績で過小評価するのではなく、この日本大使がひとつのキャリアパスとなって、将来の知日政治家もしくは知日経済人として影響力を持てるようにしてあげる努力をした方が前向きだと思います。
日本側がアメリカの駐日大使を赴任後に育てるというような発想ですね。
親切にこしたことはないでしょう。
思わず笑いました。
それも二回です。
痛快なシナリオですね。
小沢一郎さんが喜ぶかな。
「彼は政治家ではない。見た目圧倒させるような人物ではないが、日本人はだんだんと彼の知性、誠実さ、そして信頼できる人物であることがわかってくるのではないか」と語っています。
lenyさん同様、?をいだきつつ見守りたいと思います。
http://sankei.jp.msn.com/world/america/090530/amr0905301800009-n1.htm
古森様には、休息というものがないのでしょうか(わらい
オバマ氏の対日感が如実に証明されていて苦笑を禁じえません。
実に、今の日、米、中の関係を凝縮した場面ではなかったでしょうか。
これがアメリカの現実の世界なのでしょう。
日本が抱くアメリカへの期待も思いも、この場面から何一つ伝わってくるもの有りません。
米の対中感は、イデオロギーに関係なくニクソン訪中で戻ることのない関係に発展したと思っています。
そしていまや、米中共に抜き差しならぬ関係です、これは軍事的脅威ではなく、経済金融において特に顕著です。
日本も中国同様ドル超過保有国です、しかし中国の対外資産に占める外貨と、日本が保有する対外資産に占める外貨ドルは、其の比重が雲泥の差が有ります。
これは何を意味しているかといえば、日本は基軸通貨ドルが崩壊しても、対外資産で受ける損失は限定的ですが、中国の場合70%近くがドルによる保有です。
中国が一見SDRで基軸通貨ドルを強請っているように見えて、実は一番ドル崩壊を怖れているのは中国であり、アメリカなのです。
矛盾している様で、アメリカと中国はパートナーとして生きていくより道はない、と思うと今回の大使お披露目も納得できる面があります。
貴重なレポート感謝します。二人の写真の扱いが全てを物語っているように感じます。
ハンツマン氏は幾多の現場を経験してきた明るい性格のやり手、ルース氏は決して心の中を見せない左翼の顔、という印象です。
どちらと仲良くできそうかというと、多くの人はハンツマン氏を答えるのではないか?そんな印象でした。
同盟国の大使を遇するにはそれなりの礼儀は当然ですね。
「誠意」が外交舞台でどんな形をとるのか、楽しみです。
きちんと休息はとっているつもりです。
そのうえに激しい運動をしているので、多忙は多忙ですね。
アメリカの中国への姿勢は全面的な宥和でもありません。
今回の公聴会でも、議長のウェブ上院議員は中国の軍拡や人権弾圧を再三、指摘して、ハンツマン氏にぶつけていました。同氏も中国の人権弾圧については定期的な米中協議を新たに始めたいと述べていました。
アメリカの対中姿勢は多様、屈折ですが、オバマ政権全体としては確かにご指摘のような傾向が顕著ですね。
日本で活躍し、人気のあるアメリカ人にも、モルモン教の宣教師だったというケースは意外に多いですよ。
この種の「印象」って、結構、重要ですね。
さして米国にパイプがあるとも思えないし、米国と距離を置くべしと主張する(次期政権担当らしい)民主党と、さして知日(親日である必要はない)でもなく大統領ともそれほど近くない駐日大使とのペアでは、ますます日米離間が進みそうですね。
まぁ、中国としては願ったり適ったりでしょうが、日本の安全は大丈夫なのか心配です。
日本大使は、知識経験は劣るが
大統領に直結した太いパイプを持つ利点がある
その利点を日本は利用すればよい
経験と云うフィルターの存在は国際情勢の急変(多極化)に対応できない
可能性も有るわけだから
パイプを持つ事のほうが意味があるかも知れない
日米関係は礎石との発言は重要
以外に側近の耳打ちは影響力を持つのでは?
危機に対し耳打ちできるパイプは重要でしょう
次期駐日大使がジョン・ルース氏(弁護士)に決定したようですね。
過去駐日米大使館の主を務めた38人の中では、経歴から推量すれば第三十一代Robert Stephen Ingersoll(ロバート・スティーヴン・インガソル:実業家)がよく似ている、ということでしょうか。
ルース氏は法律家として、かたやインガソル氏は実業家として大成功した人物です。
駐日大使に指名されるまで、過去外交に関する実務経験は、双方ともに一切ありません。
ルース氏がオバマ氏を資金面で支えたのと同様に、インガソル氏もニクソン氏の大統領選挙において資金集め、選挙人集めに奔走した人物です。
ニクソン氏は、次回再選時においても自分を支援してもらいたいとの思惑から、論功行賞としてインガソル氏に駐日大使のポストを用意した、とされますね。
もとよりそれらがすべてではないでしょうし、実際、それぞれの専門で実績のある人物ですから、外務官僚や職業政治家とは違う発想力、判断力が期待できる!・・・・かもしれません。
まずはお手並み拝見、ですね。
事前の人物評価は情報としては頭に入れておく必要があるでしょうが、実際に任命されれば、その方と如何に日米関係をよくするかを考えることがより重要ですね。
政治や外交の経験がなく、日本についてもあまり詳しくないのであれば、それこそ日本に来られれば、日本の紹介や日米関係について、あらゆる方法でレクし、知識に入れてもらえるように努力すべきですね。まさしく、外務省の役割が大きいはずです。
また、オバマ大統領の信頼が厚く、直接電話で話できる間柄であれば、それは大変大きな財産です。大統領と話できるということは政府要人なら誰とも直接通じるのでしょうから、話が早いですね。
ですから、日本に来られれば、本当に親日家、知日家になってもらい、さらにそれによって今後のキャリアアップにつながるように手助けしてあげればいい関係が作れると思います。