ワシントンの夏の一つの情景です。
 
【外信コラム】ポトマック通信 多様な“道場破り”
2009年07月23日 産経新聞 東京朝刊 国際面


 

 私の通う「ジョージタウン大学・ワシントン柔道クラブ」は夏は顔ぶれがかなり変わる。
 
 学校が長い休みとなるため、学生の数が減る。
 
 かわりに短期の訪問者が増える。
 
 夏だけ首都で研修をする若者や、休みを利用して遠くの柔道クラブからくるベテランが顔をみせるのだ。
 
 こういう訪問者はみな柔道の経験者で、「道場破り」とまではいかなくても、かなり強い。

 先週も、巨漢の黒帯が2人、現れた。
 
 いずれも身長は190センチ近く、体重も100kgは軽く越えそうだ。
 
 一人はスキンヘッド、もう一人は毛むくじゃらの胸が威圧感を与える。
 
 いずれも30代後半にみえる。
 
 2人ともエジプト出身だと自己紹介した。

 いざ自由な乱取り練習となると、クラブ側の常連たちもいかにも強そうな2人に挑むには最初はためらった。
 
 だがやがて茶帯から黒帯と順にぶつかっていくと、2人ともすぐに息を荒げ、疲れをみせた。
 
 経験は十二分に積んではいるが、スタミナがないのが明白で、そのうち投げられ始めた。

 一息ついたところで毛むくじゃらが私のところにきて「いやあ、しばらく練習をしていないんで、ダメですね」と苦笑する。
 
 スキンヘッドもぐったり疲れていた。
 
 さらに話すと、前者は歯科医、後者は内科医で、2人ともすでに米国籍を取り、ワシントン近郊で開業しているという。
 
 柔道とはなんと多様な人間同士を集めてしまう共通項だろうと痛感させられたのだった。(古森義久)