中国の軍拡、とくに海軍力の増強についてはこれまでもたびたび報告してきました。

 

 その状況を改めてまとめた最新の記事です。

 

 

【中国 海洋覇権への道】(下)米海軍脅かす「接近阻止」


 

 「中国の海軍力増強は過去の長い年月、一貫して進み、日本周辺を含む西太平洋での米国海軍への重大な挑戦だといえる。中国はやがてはこの地域で制空権の確立から制海権の獲得を目指すのだろう」

 元米国防総省中国部長で現在はワシントンの大手研究機関「AEI」上級研究員のダン・ブルーメンソール氏が語る。

 

 確かに米国は中国海軍の増強に対して長年、警戒の目を向けてきた。

 

 国防総省は毎年、「中国の軍事力」という報告書を公表して、議会に送るが、ブッシュ前政権時代の2004年の報告ですでに、中国海軍が「沿岸海軍」から「遠洋海軍」へと飛躍を図る動きを指摘し、とくに潜水艦増強への懸念を表明していた。

 

 上下両院の議員たちが真剣な関心を向ける課題を研究する米国議会調査局も05年には、「中国の海軍近代化=米国の海軍力への意味」と題する長文の報告を作成した。

 

 同報告は中国海軍が対艦各種ミサイルを大幅に強化し、潜水艦戦力では「世界でも最も野心的な拡張」を進めていると指摘した。

 

 それから5年、議会も政府も中国海軍の増強を警戒の対象として頻繁に提起してきた。

 

 09年6月には米国議会の政策諮問機関、「米中経済安保調査委員会」が中国海軍の増強が米国に何を意味するかを主題に公聴会を開いた。

 

 この場でオバマ政権に近い民主党のジム・ウェブ上院議員(外交委員会東アジア太平洋問題小委員長)が発言した。

 

 「中国の軍事力増強にはここ20年も注意を向けてきたが、近年はとくに海軍力の強化がめざましい。最近、起きた中国海軍による米海軍調査船インペッカブルへの妨害事件はその積極果敢な動きを象徴している。こうした動きは中国が東アジア、太平洋地域で自国の戦略スペースを拡大しようとする意図を示し、この地域に戦略的プレゼンスを保つ米国への挑戦となる。米国は能力と自信を強める中国海軍に軍事的、外交的な対処を必要とする」

 

 インペッカブル事件とは09年3月に南シナ海で測量作業中の同船を中国の艦艇5隻が包囲して、異様に接近し、威嚇するという出来事だった。

 

 だがオバマ政権は国防総省の「中国の軍事力」報告で懸念を表明しながらも、中国側の海軍力増強を理由としての正面からの対中非難は避ける傾向にある。

 

 米海軍のギャリー・ラフヘッド作戦部長は5月13日のワシントンでの演説で、中国海軍の動向について「一国の経済が拡張するときには資源や商品の輸送のためにその国の海軍が拡大することは自然だ」と述べ、中国海軍とは対決よりも協力が重要だと語った。

 

 前述の米中経済安保調査委員会の委員で中国の軍事動向を専門に研究するラリー・ウォーツェル氏も同趣旨の見解を述べる。

 

 「中国海軍の増強は中国が全世界的に軍事や経済の利害を意識する大国の政策への進化だといえる。資源の輸入も製品の輸出も海上輸送であり、その防衛の能力を高めること自体はとくに他国に脅威を与えはしない」

 

 しかし米側が現実の懸念を抱くのは中国海軍の「反アクセス能力」の強化である。

 

 反アクセスとは米海軍の艦艇が台湾や日本の有事の際に西太平洋の特定海域に接近することを阻む「接近阻止」を意味する。

 

 ウォーツェル氏も中国海軍がこの接近阻止の強化手段として近年、艦上発射の巡航ミサイル、弾道ミサイル、空中発射の巡航ミサイル、潜水艦などを大幅に増強していることを指摘した。

 

 中国の兵器の実態に詳しい「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー主任研究員は中国側の「接近阻止」の新鋭兵器の実例としてソブレメンヌイ級駆逐艦搭載の超音速SS-N22サンバーン対艦ミサイルやキロ級潜水艦搭載のSS-N27シズラー対艦ミサイルをあげた。

 

 いずれも米海軍の空母などへの攻撃能力が高く、その移動を妨げうるというのだ。

 

 中国側の接近阻止の戦略意図についてはブルーメンソール氏は次のように語った。

 

 「米国がその防衛を責務とする台湾や韓国、さらには日本という相手の有事に米海軍の接近を難しくし、阻むという意図は結局は米国の東アジアでの安全保障上の役割を大幅に削ぐという戦略目標を意味する。米海軍はまだ中国海軍を圧する力を持っているが、その差は縮まっている。この傾向は日米同盟にも重大な脅威であり、日米両国は深刻な懸念を共有して、共同での対処を図るべきだ」

 

(ワシントン 古森義久)

 

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ソブレメンヌイ級駆逐艦