中国の国家ファンドの脅威についての報告を続けます。

 

 私の書『アメリカでさえ恐れる中国の脅威!』からの紹介です。

 

                          =======

『国家安全保障への影響』

 

 アメリカ側の中国国家ファンドの活動に関する懸念の真の対象は自国の安全保障への悪影響である。CICのような中国の国家ファンドの巨大な資金の操作によってアメリカの防衛や安全がいつのまにか弱体化されるようなことがあってはならないという心配だといえる。

 

 たとえばCICが軍事転用の可能な高度技術製品を製造する企業の株式を買い占める。CICがアメリカ側の特許や意匠など特別な知的所有権を中国側に移せるような形の対米投資をする。米側はこうした事態を最も警戒するわけだ。

 

報告は同調査委員会の公聴会でのカリフォルニア大学のピーター・ナバロ教授の証言を紹介している。

 

 「中国の国家ファンドは特定のアメリカ企業の資産を大量に購入することによって、その企業の生産関連の職や施設を海外に移すか否か、生産管理の慣行のあり方、研究と開発のあり方、技術移転のあり方などに関する決定に影響を及ぼすことが可能になる」

 

 「中国の国家ファンドはさらにアメリカ経済の港湾、電気通信、エネルギー、防衛、軍事汎用技術などの領域をコントロールすることも可能になる」

 

アメリカでは外国企業が国家安全保障にかかわるアメリカ企業を買収することへの強い警戒感は伝統的に存在する。外国企業の実際の資本取得を「アメリカの国家安全保障を損なうか否か」という基準から厳しく監視するための「外国投資・国家安全保障法(FINSA)」という法律もある。この法律に基づいて運営されるのがアメリカ政府の関連各省庁の代表で構成する「アメリカ外国投資委員会(CFIUS)」である。

 

CFIUSは外国機関がアメリカ企業に投資、あるいはアメリカ企業を取得する場合、米側企業の高度技術がアメリカの安全保障を損なう形で外国に流出しないことを確実にする。流出の危険があるとなれば、その投資や取得に禁止の命令を出す。CFIUSはその外国投資が安全保障にかかわるアメリカ産業の特定領域の「外国によるコントロール」を生むと判断した場合でも、その投資を停止する権限を持つ。とくに特定の外国資本が外国政府とつながりがある場合にはCFIUSは監督をとくに強める。

 

しかし報告はそれでもなおCICのような国家ファンドがアメリカの安全保障に悪影響を及ぼす危険性があることを以下のように指摘していた。

 

「CICが中国の他の国営機関と協力し、特定のアメリカ企業の株式一〇%以下を数ヶ月、あるいは数年の期間にわたって取得していく場合には、現行のCFIUSの監視や規制から逃れることができる可能性がある」

 

「CICなど中国の国家資本はアメリカの軍事面での安全保障を脅かそうとすれば、すぐにCFIUSなどの規定で監視の対象となるが、アメリカの経済や金融の安定にかかわる経済安全保障への影響力行使となると、現行の規制を逃がれやすい」

 

「とくにCICは米側のヘッジ・ファンドや一般投資ファンドへの投資を通じてアメリカの経済、金融の安定を乱すことが可能である。この方法での工作はアメリカの国家安全保障に悪影響を与えることになるが、いまの規制ではその阻止が難しい」

 

米側の現行の規制ではなお逃げ道がいくつもある、ということなのだ。中国の国家ファンドがアメリカの国家安全保障を害する危険はいつもある、ということだろう。

 

『中国の国家ファンドへの対抗策』

 

こうした現状を踏まえてアメリカ政府は中国などの国家ファンドへのもう一つの対策として国際通貨基金(IMF)や世界銀行という国際機関の枠組みによる規制を推進している。多国間の枠組みによる国家ファンド対策である。国家ファンドが国際金融システムのなかで責任を有し、建設的な役割を果たすことを目指す国際的対策だった。

 

この対策としてIMFは「国家ファンド国際作業グループ」を結成した。メンバーには中国やアブダビのような国家ファンドを持つ諸国とアメリカのような国家ファンドが流入してくる諸国の両方が加わっていた。その結果、二〇〇八年九月にチリの首都サンティアゴでの国際会議で合意をみたのが国家ファンドに関する「一般受容の原則と慣行(GAPP)」と題された指針だった。この合意指針は「サンティアゴ原則」とも呼ばれた。

 

報告はアメリカ政府の代表のロバート・キミット財務副長官(当時)がこのGAPPを「グローバルな金融システムの開放性と透明性とを強化する礎石」として歓迎したことを強調しながらも、二十四項の「原則」から成るGAPPには拘束力はなく、あくまで各国が自国の法律や実情に沿って任意で守る指針である点への注意を喚起している。IMFが指針の履行の状況を調べることもないというのだ。

報告はそのうえでこの指針の具体的な内容を紹介していた。

 

「二十四のうちの『原則2』は国家ファンドの活動が政治的ではなく経済的、財政的な目的に発していることを明確に定義することをうたっている」

 

「原則6は国家ファンドがその資金の保持者と運営者の区分を明確にすることを求めている」

 

「原則9は国家ファンドの個別の純商業的投資に対し同ファンドの国家当局が後から政治的、戦略的な影響力の行使をしてはならないと規定している」

 

「原則19は国家ファンドの投資の目的は経済、財政の域外に及ぶ場合、その内容を具体的に明記して発表することを求めている」

 

「原則20は国家ファンドがその帰属する国家当局からの特別な情報や特別な支援を求めてならないと決めている」

 

しかし報告はこのGAPPには非拘束性のほかにも欠陥があることを指摘する。

 

「国家ファンドの実態に詳しいエドウィン・トルーマン元財務次官補がGAPPの弱点として透明性と責任性をあげている。原則のほとんどは国家ファンドの一般への情報開示についてはなにも求めていない、というのだ」

 

報告はさらに他の国際機関や特定の国家がそれぞれこの国家ファンドという現代のモンスターにどう対処するか、どう共存するか、を模索していることを伝える。その一例としてあげられるのは先進工業諸国から成る経済協力開発機構(OECD)の動きである。

 

OECDは国家ファンドを受け入れる側の諸国の対策について研究し、二〇〇八年四月にはその投資委員会が「国家ファンドとその受け入れ諸国の対策」という報告書をまとめた。この報告書は国家ファンドの活動に対して透明性、自由化、無差別、予測性、責任性などを求めていた。

 

ではアメリカ政府は中国などの外国の国家ファンドにどう対応しているのか。報告はその対応には重大な欠陥や深刻な問題があることを提起している。

 

そうしたアメリカ政府の姿勢を総括すると、次のようになる。

 

二〇〇八年前半には財務省は外国の国家ファンドに関する対策を協議する作業班を結成した。同時期に「大統領金融市場作業グループ」がヘンリー・ポールソン財務長官の主宰で国家ファンドの調査を開始した。

 

二〇〇八年九月にはアメリカと中国の両政府が二国間投資条約の交渉を始めた。この交渉では当然、中国の国家ファンドへの規制が主要課題として浮上した。

 

しかし現段階では国家ファンドに対するアメリカ側の対応策は全体としてきわめて限定されている。なぜならアメリカの銀行や税金に関する現行の法律はみな国家ファンドが登場する前に制定されており、国家ファンドに効果的に対処する法的基盤がきわめて薄弱だからである。

 

アメリカ議会の税制合同委員会が二〇〇八年六月に出した報告書は外国政府のアメリカでの商業活動に関する米側の現行税法が外国の国家ファンドにも適用されることの是非を論じていた。現行のアメリカ税法では外国政府による米国内でのパッシブ証券投資(資産運用投資)は商業的とみなされず、課税を免除されている。その延長として外国の国家投資機関がアメリカ国内への投資で得た利子は源泉徴収を免除される。

 

だが国家ファンドの活発な動きによって、いまやその種の課税免除をなくすようにする方法が検討されるようになった。とはいえアメリカ政府の外国の国家ファンドに対する規制にはまだまだ不備がある。これから新しいアプローチが求められるわけである。

 

報告はこうした米側の曖昧な規制の状態がCICにからんで中国の国有銀行のアメリカ国内での活動にも影響していることを記していた。

 

要旨は次のとおりである。

 

アメリカ金融当局は中国の国有銀行である中国工商銀行と中国建設銀行がアメリカ国内に支店を開くことを認めるか否かをなかなか決められず、その決定は予定よりもずっと遅れてしまった。その理由はCICをどう扱うかを決められないためでもあった。

        (中国工商銀行)

CICは中国の国有銀行持株会社である中央匯金投資有限責任公司のコントロール権限を与えられたため、国有銀行の運営の責任もあるとみなされた。その結果、アメリカの連邦準備制度委員会は中国の国有銀行のアメリカ国内での活動の認可を考える際に、CICをその国有銀行を動かす持株会社として扱うかどうかを決めなければならなくなった。

              (中国建設銀行)

連邦準備制度委員会はけっきょく二〇〇八年八月に中国工商銀行のアメリカ国内支店開店の申請に許可を出した。ただし「CICは中国工商銀行のニューヨーク支店を通じて自己傘下の他の企業に資金を投入してはならない」という警告がついていた。同時に連邦準備制度委員会は中国工商銀行ニューヨーク支店に対しCIAのコントロール下にある企業との取引は同支店の融資全体の二〇%以下に留めなければならないという制約をも通告していた。同委員会はCICを中国政府に完全に所有され、国有銀行を動かす存在とみなしたわけだ。

以上のようにアメリカ側の各機関はいまや試行錯誤も含めながら、全力で中国の国家ファンドへの対抗策を築こうとしているのである。

 

『総括』

 

第二章の「結論」部分はこの中国国家ファンドの実態とそれをめぐる種々の問題を以下のように総括していた。

 

(1)中国政府は国際経済での中国の役割の拡大、とくに保有外貨の膨張により、その資金を各国への金融、投資の活動を通じて自国の戦略や安全保障上の目的を推進するようになった。中国共産党の最高指導部が国家ファンドを動かすようになった。

 

(2)国家ファンドの代表的な機関は二〇〇七年九月に中国政府が発足させた中国投資有限責任公司(CIC)である。CICは中国共産党と一体の国家最高権力機構の国務院に直結する。しかもその全体のシステムが一党独裁の秘密のベールに包まれ、一般の投資ファンドが当然とする透明性や情報開示とはまったく無縁だといえる。

 

(3)中国のもう一つの陰の国家ファンドとして国家外貨管理局(SAFE)の存在がある。国家外貨管理局というのは、文字どおり中国の外貨を管理する国家機関そのものである。このSAFEがCICを動かす場合が多い。同時にSAFEがこんどは独自にCICと競合し、競争する形で巨額の対外投資を実行することもある、SAFEの特徴はその自由にできる資金の額が異様に巨大なことだ。中国が国家として保有する外貨二兆㌦以上を投資に回せるという。

  

『ではなにをすべきか』

 

報告はこの第二章で取り上げた諸問題について、アメリカとしてはではどう対応すべきかを具体的な勧告としてまとめている。米中経済安保調査委員会としての議会や政府への政策の勧告である。

 

その勧告の要旨は以下のようだった。

 

(1)当委員会としてはアメリカ議会がアメリカ国内でのすべての外国の国家ファンドと外国の国家にコントロールされた投資関連企業の投資に関する拘束力を持つ情報開示要求規制を作成することを勧告する。その種の情報開示義務は法律、あるいは条例の形をとり、株式の公開、非公開を問わないすべての企業、ヘッジ・ファンド、民間証券ファンド、投資パートナーシップなどに適用される。

 

(2)当委員会としては中国の国家ファンドと国営企業の透明性欠如と政治的特徴によって生じるユニークな国家安全保障と経済上のチャレンジを確定し、対策を講じるために、アメリカ議会が大統領に財務省、証券取引委員会(SEC)、その他の適切な省庁の代表から成る特別の省間作業班を創設するよう求めることを勧告する。

 

(3)当委員会としてはアメリカ議会に対し、中国の国家ファンドが中国の他の国営企業や投資機関と協力してアメリカ側の「外国投資・国家安全保障法」に基づく審査や調査を妨害することを防ぐために、同法の履行と適用を監視することを勧告する。

 

以上のような勧告はアメリカの行政府、立法府の両方が中国の国家ファンドのアメリカ国内での活動を多角的に厳しく監視し、取り締まることを求めているわけである。

(以上、第二章終わり)

 

                =======