尖閣での中国漁船の体当たり事件も、北京から「対日関係を重視している」などという言葉がちょっと聞こえてくると、日本側では、この事件はもうこれで終わり、というような反応が出始めています。

 

では中国政府は日本との関係を重視するから、もう尖閣諸島の領有権は主張しない、とでもいうのでしょうか。

 

今回の事件を起した中国側の姿勢や政策、戦略はなにも変わっていないのです。表面だけの一時のなで声にだまされてはなりません。

 

そんな点も含めて、産経新聞の台湾駐在の山本勲記者がおもしろいコラムを書いています。

 

この時期の日本側への良薬のようなコラムだと感じました。

 

  

【朝刊 1面】


記事情報開始【東亜春秋】台北支局長・山本勲 水に落ちた犬は叩かれる


 

 中国漁船の船長を処分保留で釈放した菅直人政権に唖然(あぜん)とさせられたのは、中国と領土・領海問題を抱えるすべての国だろう。中国は直ちに事件の謝罪と賠償を要求してきた。「水に落ちた犬を叩(たた)く」のは中国共産党政権の常道で、これを好機に尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を世界に見せつけようとしているようだ。日本のダメージは計り知れないが、中国に「友愛」や「善意」などの美辞麗句が通用しないことだけは誰の目にもはっきりした。

 中国は今年に入り近海を内海化し、海洋覇権を握ろうとの動きをますます鮮明にし始めた。黄海-東シナ海-南シナ海から西太平洋、インド洋に及ぶ広大な海域で勢力拡大に邁進(まいしん)し始め、各地で沿岸国との摩擦、係争が激化している。

 

 7月末、クリントン米国務長官がベトナムで開いた東南アジア諸国連合(ASEAN)会議後の記者会見で、「南シナ海の航行の自由は米国の利益」と明言したのも、現状を放置すれば中国に航行を妨げられる懸念が強まったからだろう。この会議ではASEAN諸国が一斉に中国の動きを批判し、守勢の楊潔●(ようけつち)外相が激高する一幕もあった。

 

 南シナ海では、ベトナムと中国の南沙、西沙諸島領有をめぐる対立が一段と激化している。米国が8月初めに原子力空母、ジョージ・ワシントンをベトナム中部ダナン沖に派遣したのも、これと無縁ではあるまい。

 

 ところが南シナ海での米・ASEAN連携が手ごわいとみたか、その後は矛先を転じて台湾に領土・領海闘争での連携を呼びかけ始めた。

 

 軍のスポークスマン役を演じる羅援・中国軍事科学学会副秘書長(少将)が、「南シナ海や東シナ海、釣魚島問題で、両岸(中台)軍人は祖国の主権を守るべきだ」(台湾紙、聯合報8月14日付)と語り、米国を厳しく批判した。日米に対する中台共同戦線形成の働きかけだ。

 

 中国漁船による海上保安庁巡視船への体当たり事件は、こうした状況下で起きた。台湾で尖閣諸島の領有権を主張する団体、「中華保釣(尖閣防衛)協会」が周辺海域で対日抗議行動を繰り広げたのは、その1週間後のことだ。

 

 羅援少将は船長釈放後の中国評論社インタビューで「偶発事と見なす人もいるが、偶然の中に必然があり、いずれ爆発する事件だった」と意味深長な発言をしている。今春来の東アジア情勢を振り返れば、偶然にしては出来すぎた事件ではある。

 

 アーミテージ元米国務副長官は「中国は日本を試している」とみている。2012年の第18回中国共産党大会を控え、軍部や太子党(高級幹部子弟)ら強硬派が対日関係重視の胡錦濤指導部を揺さぶる材料にしている、との見方もある。

 

 となれば今後の東アジア情勢はさらに波乱含みだ。目的達成のためにはあらゆる手段をとるのが、中国共産党政権の結党以来の歩みだ。生半可な「善意」や「友愛」が通じる相手ではない。民主党政権はそのことを肝に銘じ、日本の外交・安全保障政策を根本から見直す必要がある。

 

 領土・領海の防衛体制を固め、集団的自衛権の行使を明言して日米同盟を再強化。中国の日台分断を阻止し、ASEAN諸国、インド、オーストラリアとの連携を強めるなど、やるべきことは山ほどある。強固な主権国家としての体制を整えたうえで、中国と平和共存のための話し合いに臨むべきだ。

●=簾の广を厂に、兼を虎に

 

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