ぜひとも多くの方に読んでいただきたいノンフィクション大作の紹介です。

 

 最近の日本の出版界では良質のノンフィクションが減っています。その理由は多々あるでしょうが、今回、あっと驚かされるほど奥行きが深く、なおおもしろい力作に出会いました。

 

 『特務機関長 許斐氏利』(ウェッジ刊)、著者は牧久氏です。副題は「風淅瀝(せきれき)として流水寒し」となっています。

 

    本書の紹介文のいくつかを下記にコピーします。

 

「北一輝のボディガードを務め、戦時下の上海・ハノイで百名の特務機関員を率いて地下活動に携わる。戦後は、銀座で一大歓楽郷「東京温泉」を開業、クレー射撃でオリンピックにも出場した、昭和の“怪物”がいま歴史の闇から浮上する」

 

「戦前は特務機関、戦後は実業人として、昭和を駆け抜けた男の軌跡」

 

「博多の暴れん坊――この破天荒な生涯」

 

 

 この書の主人公の許斐氏利氏といえば、知る人ぞ、知る、表の顔はまず日本の射撃のオリンピック代表、日本の射撃連盟の会長でもあった人物です。

 ビジネスマンとしては東京駅の八重洲口前にあった「東京温泉」の開設者です。

 しかし戦前、戦中の許斐氏は日本軍の特務機関のアジア各地での指揮者だったというのです。そのいくつもの顔を持った昭和の怪人物、あるいは快男児の一生を克明に、かつドラマ的に追ったのがこの書です。

 

 この書の取材は広範かつ深遠、文字どおり「地を這うような取材でのノンフィクション」といえましょう。近年ではこれほどの質の高い日本のノンフィクション作品にほとんどお目にかかれません。

 

 筆者は日本経済新聞のベトナム特派員や社会部長を務め、最後は副社長にまでなった牧久氏、私にとってはベトナム戦争の最終段階とその後の苛酷な共産主義革命をともに体験した旧友です。いまでは一兵卒のジャーナリストとなって、活躍しています。ただし友人の作品だからほめるわけでは決してありません。数ページを読んだだけで、引き込まれるおもしろさなのです。

 

 牧氏にはこのブログでも以前に紹介したように下記の書もあります。

 

サイゴンの火焔樹―もうひとつのベトナム戦争