北朝鮮の核開発阻止のための6カ国協議で米国首席代表を務めたクリストファー・ヒル氏のインタビューの内容の紹介を続けます。

 

 雑誌SAPIOの最新号に掲載された記事の転用です。

              

 

 今回はいよいよヒル氏は日本人拉致問題について語りました。

                                                   

 

 

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古森「六カ国協議からちょっと離れますが、あなたが北朝鮮と交渉中に当時のブッシュ政権は北朝鮮の『テロ支援国家』指定を外しました。日本では激しい反対が起きました」

 

ヒル「日本の反対はよくわかっていました。この指定解除の是非は政府の上層部によって決められ、議会もその状況を考察しています。この問題は法的な条件を基礎にして考えるべき案件だといえます」

 

古森「オバマ政権のゲーツ国防長官がこの八月に『北朝鮮はヒズボラやハマスに武器を密輸出している』と言明しました。両組織ともアメリカ当局からテロ組織だと判定されています。となると、北朝鮮のテロ支援も明確だと思うのですが」

 

ヒル「アメリカ政府の高官の特定のコメントに対し論評することはしたくありません」

 

古森「日本が自国民を北朝鮮に拉致された事件を深刻に懸念していることはご存知のとおりです。この日本人拉致事件が六カ国協議での北朝鮮の非核化への歩みを阻害する側面があるというような認識が米側その他にあったとはいえませんか」

 

ヒル「確かに多くの関係者がそういう認識を私にもらしました。しかし私はそれに反対です。なぜなら私たちが六カ国協議で達成しようとしたこと、さらに現在の交渉担当者たちが実現しようと努力していることは、北朝鮮が核武装の野望を捨て、北東アジアに善隣友好の新時代が始まるという新情勢です。この善隣の環境の中では日本国民は拉致された自国民の行方の確定を求めることが容易となるでしょう。自国民の消息を知る権利は日本国民には常にある、ということです。

北朝鮮側は日本側の質問にすでに答え、もうできることはないと感じているかもしれない。しかしこの拉致問題というのは非常に難しい課題なのです。ただ古森さん、この点だけは強調しておきたい。私は日本人拉致問題に関して批判されたことはわかっていたけれども、北朝鮮側にその問題を提起するのをためらったことはありません。北朝鮮にとっても、自国の過去の行動に対し適正な説明をしないままに隣国との正常な関係を持つことはできないからです。だから私は日本人拉致問題の提起に支障を感じたことはありません。一部の人たちがこの問題の提起を北朝鮮の核開発阻止を主眼とする六カ国協議の流れを複雑にするとして難色を示したことも私は知っています。しかし私はあくまで適切な議題だと思っていました。北東アジアの善隣友好の雰囲気づくりのためにも、その提起はよいことだと考えていたのです」

 

古森「同協議の交渉の過程で日本側が拉致問題をこれほど強くは主張しないでほしいと願ったことなど、なかったですか」

 

ヒル「いいえ。この点はとくによく聞いてください。六カ国協議の問題というのは日本が作り出した問題ではないのです。北朝鮮の核武装への野望が作り出した問題なのです。だから日本の拉致問題が核問題に影響を与えているかどうかという議論は過剰なくらいだと私は感じていました。真の問題、真の焦点はあくまで北朝鮮なのです」

(つづく)

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