北朝鮮の核武装を阻むための6カ国協議でアメリカの首席代表を務めたクリストファー・ヒル氏のインタビュー紹介の完結部分です。

            

 

 

 SAPIO誌最新号掲載の記事の転載です。

              

 

 

 今回分ではヒルは北朝鮮の交渉のずるさなどを反省をも交えながら、率直に語っています。

 

                       =======

 

 

 

古森「北朝鮮側と長い期間、交渉をして、彼らの交渉術というのもだいぶよくわかったと思いますが、どうですか」

 

ヒル「北朝鮮側はいつも食後の甘いデザートを食事自体よりも先に食べてしまえる道を探すことを試みますね(笑い)。私たちが北朝鮮側に何度も強調したように、彼らは六カ国協議の目的があくまで非核化に取り組むことだと理解する必要があります。非核化が達成されれば、その他の多くのことが可能になるのです」

 

古森「だが協議はなお中断したままです」

 

ヒル「北朝鮮自らが二年近く前に六カ国協議のプロセスから離脱したからです。協議に戻るか否かは北朝鮮次第です。協議の目的が朝鮮半島の非核化であることを理解し、その理解を実証するか否かです。協議の成功をどう定義づけるかは二〇〇五年九月の共同声明が明記しています。北朝鮮の一切の核兵器と核計画の放棄です。もし協議再開ならば、北朝鮮は非核化への誓約を明示せねばならない。誠実さを示すために北朝鮮が交渉の早い段階で具体的な措置をとることが重要です。協議が単に参加国の主張をまた述べあうという目的のためにのみ再開されても、意味がない。非核化実現が真に期待できることが最初から証されねばなりません」

 

古森「しかし最近では北朝鮮は核兵器放棄と引き換えに、アメリカからの外交承認や経済援助だけでなく、北東アジアの駐留米軍の削減や撤退をも含みうる安全保障の措置までも求めることを示唆していますね」

 

ヒル「もし北朝鮮が非核化実現を決めて、六カ国協議の場に戻ってくれば、非核化の後には多くのことが起きうるでしょう。それらの順番をどうするかは交渉次第ともいえます。だが北朝鮮が非核化を決めずに、自国に有利な実益だけを得ようとして同協議に戻ってくるならば、成功はしないでしょう」

 

古森「北東アジアの駐留米軍は?」

 

ヒル「北朝鮮は北東アジアでの米軍の駐留をなにかの条件にはすべきではない。この駐留米軍はアメリカと日本と韓国との相互合意に基づいているのです。そのプレゼンスは地域の安定をもたらしています。北朝鮮が議論すべき対象ではありません」

 

古森「六カ国協議再開の見通しはどうですか」

 

ヒル「非核化という主題の前進があることをやがて示さなければならないでしょう。とくに議長国の中国はこの協議に特別の正当性と名声を与えたことからも、北京でのこのプロセスがなんらかの成功をもたらしたことを確実にする必要があるでしょう。私は世界でも最大、最強の諸国が加わるこのプロセスがなおよい結果をもたらすことへの希望を捨てていません。その結果とはもちろん北朝鮮が核の野望を捨てることです。北朝鮮は世界の諸国がこの問題を放置し、忘れてしまうという選択肢はないことを理解する必要があります」

 

古森「北朝鮮の権力継承が非核化をめぐる動きに影響を及ぼしていると思いますか」

 

ヒル「二〇〇八年夏から始まった継承のプロセスは六カ国協議の前進を阻んだ要因の一つだったといえます。なぜなら北朝鮮が権力継承のためにそれまでよりも内向きになってしまったからです。だからこの継承がどうなるか観察する必要があります。しかし北朝鮮は自国の抱える諸問題が核兵器によっては解決できないことを理解すべきです」

 

古森「権力継承が北朝鮮の対外政策一般を硬化させるという見方もありますが」

 

ヒル「予測は難しいですね。北の首脳部がまだ最終決定を下さず、内部での議論が続く間は対外的課題への関心はそらされるでしょうね。確かにその間、上層部の外部世界への対応は硬化するかもしれない。だが権力継承自体が北朝鮮の六カ国協議への関与を妨げるとは私は思いません」

 

古森「北朝鮮問題について日本側になにかとくに伝えたいことはありますか」

 

ヒル「六カ国協議では私は日米両国が非常に緊密に協力しながら、きわめて難しい問題に対応できるのだということを改めて実感しました。思い出すと、日本側の(外務省の)斎木昭隆氏や佐々江賢一郎氏と過ごした時間は懐かしいですね。また会いたいものです」

 

古森「どうもありがとうございました」

  (終わり)