日本の安全保障を考える際には、いくつものタブーがあります。
 
 核武装というのは、おそらくその最大のタブーでしょう。というより、だったでしょう。
 
 しかし日本の国家を守る、国民を守るという最高至上の目的のためには、あらゆる手段の論議がなされるべきです。
 
 私自身はそんな持論なのですが、最近の産経新聞に、この日本の核武装という主題を正面から取り上げた一連の記事がありました。
 
 その内容を紹介し、日本の安全保障論の一助としましょう。
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【私も言いたい】テーマ「日本の核武装」 「議論すべきだ」96% 
2010年12月17日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面

 「

日本の核武装

」について、14日までに2873人(男性2422人、女性451人)から回答がありました。

 

 「日本は核武装すべきか」については「賛成」が85%。「公の場で議論だけでも行うべきか」については96%が「そう思う」と答えました。また、「有事の際にアメリカは日本を守るか」との問いには、78%が「そう思わない」と回答しました。

 

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 (1)日本は核武装をすべきか

 

    85%←YES N O→15%

 

 (2)公の場で議論だけでも行うべきか

 

    22%←YES N O→78%

 

 (3)有事の際にアメリカは日本を守ると思うか

 

    96%←YES N O→4%

 

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 ○抑止力として

 

 東京都・男性会社員(53)「なぜ議論自体が許されないのか教えてほしい。もしも、ことが起こったらどうするのか。議論を封殺した人間は、引き起こした結末にかなうだけの責任をとってくれるのか」

 

 奈良・男性自営業(40)「核は相互抑止力であり、外交の大きな武器であることは世界の常識。日本の経済力、技術力で持っていないことの方が不自然だ。核にしても軍隊にしても、持たないことで平和が実現できると考えるのは、あまりにも幼稚な考え方だ」

 

 愛知・男性自営業(50)「ロシア、中国、北朝鮮と、わが国は核保有国に囲まれており、これらの国は少なくとも友好国ではない。領土、国民を守るためにも抑止力としての核を考えるべきだ」

 

 大阪・男性会社員(23)「非核三原則を撤回するだけでも抑止力になる。最低でも『持ち込ませず』は取り下げ、いつでも米軍の核兵器を日本国内に配備できるようにすべきだ」

 

 三重・女性会社員(52)「安全保障について真摯(しんし)に考えるときが来ている。真の独立国家となるために核武装は必要。アメリカに従属するのも、中国になめられるのもいやです」

 

 ●米が認めない

 

 大阪・男性会社員(40)「核武装はすべきではない。使えない兵器に金を投入するくらいなら、通常兵器や自衛隊員の確保に使うべきだ。『抑止力として』という意見もあるが、いざというときは持っていようがなかろうが同じだ」

 

 東京・男性会社員(42)「唯一の被爆国が自ら核兵器を持つと、現在非保有の国が保有をためらう理由が一つ消えてしまうことになる」

 

 茨城・男性公務員(37)「

日本の核武装

は、米が絶対に認めないし、経済制裁や近隣諸国の核武装を誘発することから、現時点で得策ではない。核武装の議論やいつでも核武装できる態勢は整えておくべきだ」

 

 滋賀・男性自営業(43)「核兵器の本当の怖さは、チェルノブイリ事故と、世界中の核実験場付近の住民と、広島・長崎の被爆者にしか分からない」

 

 大阪・女性自営業(45)「核保有はできることなら避けてほしい。しかし、周辺国が変わらない限り、保有論は延々とつきまとうだろう。まずは、各国に積極的に働きかけるべきだ。すべきことをすべてした上で、核保有を議論すべきだ」

 

                   ◇

 

 ≪

日本の核武装

論≫

 

  佐藤内閣時代の1960年代後半に、政府が秘密裏に「核保有」の可能性を検討していたことが明るみに出るなど、非公式に検討されたこともありますが、近年 は「議論を行うこと」すらタブー視されているのが現状です。核保有にはいくつの方法があり、第一段階として有事の際にアメリカから核兵器の提供を受ける 「核兵器シェアリング」(NATO諸国で実施)を主張する意見もあります。

 

                   ◇

 

 

 

【金曜討論】日本の核武装 田母神俊雄氏、大森義夫氏
2010年12月17日 産経新聞 東京朝刊 


 

 北朝鮮による延坪(ヨンピョン)島の砲撃事件や核開発、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件…日本の安全を脅かす事態が相次いでいるのに、わが国は何ら有効な対抗手段を打ち出せないでいる。歯がゆいばかりの閉塞(へいそく)状況の中で、改めて日本の核武装の是非を問う議論が起きている。「国際社会で発言力を得るために必要」と主張する元航空幕僚長の田母神俊雄氏と、「将来の選択肢としてはあるが、今はその時期でない」という元内閣情報調査室長の大森義夫氏に聞いた。(喜多由浩)



≪田母神俊雄氏≫

◆発言力得るために必要

○軍事的な均衡が必要

--今なぜ核武装が必要か

「国際政治を動かす発言力を確保するためだ。国同士の交渉は、軍事的な均衡があって初めて平和的な外交交渉が可能になる。均衡がなければ、結局、相手の言 い分をのまざるを得ない。おそらく今後、核兵器が使用されることはない。使えばお互いが破滅するからだ。つまり、核は使う(攻撃)ために持つのではなく、 抑止、防御のために必要なのだ。日本以外の国のリーダーの多くはチャンスがあれば、『核を持ちたい』『一流国の仲間入りをしたい』と考えているだろう」

--昨今の中国の傍若無人な態度も軍事力の増強が背景にある

「20年前なら自衛隊は中国の海軍、空軍などまったく問題にしなかったが、現在、物理的な戦闘力は互角か、中国が勝っているかもしれない。それでもまだ日 本を侵略するまでの能力はないが、これも中国が空母を持つと変わる。中国が侵略能力を持つと、日本は今以上に脅かされるだろう。『それに備えよ』という声 が政治の世界で起きないのは理解不能だ」

--中国の台頭や北朝鮮の脅威に備えるのに、アメリカの核の傘だけで十分という声も根強いが

「多くの国民や政治家さえも誤解しているが、日米同盟はあくまで『抑止』のためのものであり、有事の際にアメリカの自動参戦を保証するものではない。例え ば、尖閣諸島で中国とイザコザが起きたときに、アメリカは本当に出てくれるだろうか? しかもかつてのように、アメリカの絶対的な抑止力はなくなってい る。今後、軍事力を削減し、海外の米軍を撤退する動きも加速するだろう。そんなとき、日本は自衛隊を増強し『自分の国は自分で守る』体制をつくることが必 要なのだ」

○世界はもっと“腹黒”

--日本には核の論議をすること自体が「悪だ」という雰囲気がいまだにある

「すでに核を保有している国は、発言力確保のためにこれ以上保有国を増やしたくないから、表面上、核廃絶や削減を打ち出したり、裏で反核運動に火をつけた りする。日本はこうした『情報戦』に負けているのだ。また、核は『持たない方が安全だ』という意見も聞くが、これも世界の常識と大きく違う。自分さえ悪い ことをしなければ、相手も悪いことをしない、なんてことはあり得ない。世界はもっと『腹黒』だ」

--核武装に必要な時間は

「国のリーダーの強い意志さえあれば、3~5年で可能ではないか。東アジア情勢が不安定な今こそ核武装を言い出すチャンスだし、アメリカも説得しやすい。核武装の意志を日本が示すだけでも抑止力は高まるだろう」



≪大森義夫氏≫

◆今はその時期ではない

●日本は孤立する

--「今は核を持つべき時期ではない」としているが

「私は『自主防衛力増強』論者であり、核武装を絶対に否定するつもりもない。将来の選択肢としてはあり得るし、現行憲法下でも自衛のための核武装は認めら れる、と考えている。ただし、今はその時期ではない。もし今、日本の首相が『核武装』を言い出せば、安保闘争以来の国論を二分する大騒動となり、今の政治 にこれを乗り切れるだけの『体力』がない、と思うからだ。反対運動を抑えられず、混乱を招くだけの結果になることは目に見えている。特に政治的な安定がな く、リスクも取らない現政権下では、核武装の議論をすべきではない」

「さらには、北東アジア地域におけるバランス・オブ・パワーを考えた場合、アメリカはもとより、(友好関係にある)韓国、豪州などの国も今は、日本の核武装に賛成するとは、とうてい思えない。核武装を言い出せば、欧米諸国はたちまち原発の燃料も売ってくれなくなるだろう。日本は孤立するだけだ」

--核兵器の管理体制や判断の前提となる情報の面でも不安が?

「法的な整備をはじめ、核を持った場合のノウハウもないし、使用するときのシミュレーションもまったくなされていない。アメリカの大統領は、常に核のボタ ンを押す覚悟をもっているが、日本の場合、首相の決断を支える人的ネットワークも情報もない。核兵器を持つ前に、まず『戦略を判断する』情報能力を持たね ばならない、ということだ。“目に見える情報”を中心とした極めて“穏当な情報活動”しか、してこなかった日本にはそれがまるでない」

「核開発もそう簡単ではないだろう。日本の技術力が高いといっても核兵器の研究者はいないし、核実験もやらねばならない。原発を造るだけでも地域対策は大変なのに、どうやって説得するのか」

●対米自立の割合増やせ

--では、アメリカの核の傘を信じていればいいか

「そうではない。日米同盟を妄信するのではなく、防衛力を強化し、少しずつでも、対米自立の割合を増やしていくべきだ。外交面でもアメリカ一辺倒ではなく、韓国などとの関係を一層強化していくことも必要になるだろう」

「ただ、軍事面での自立には段階がある。いきなり核兵器を持たなくても、通常兵器で破壊力のあるミサイルを備える方が国民のコンセンサスは得やすい。核に ついても、“自前”で持つのではなく、たとえば、核ミサイルが発射可能なアメリカの潜水艦に、海上自衛隊の高級士官を乗艦させてもらう、といった中間的な ステップから始めるべきではないか」



【プロフィル】田母神俊雄

たもがみ・としお 元航空幕僚長。昭和23年、福島県生まれ。62歳。防衛大学校卒。航空自衛隊に入隊し、統合幕僚学校長、航空総隊司令官を経て、平成 19年、航空幕僚長に就任。20年10月、民間の懸賞論文に応募した作品が、政府見解と対立する、とされ解任。新著に「田母神国軍」。



【プロフィル】大森義夫

おおもり・よしお 元内閣情報調査室長。昭和14年、東京都生まれ。70歳。東京大学法学部卒。38年、警察庁入庁。鳥取県警本部長、警視庁公安部長、警 察大学校長などを経て、平成5年、内閣情報調査室長に就任。9年まで5代の内閣で室長を務めた。主な著書に「日本のインテリジェンス機関」。