[ワシントン=古森義久]

ワシントンの大手研究機関「AEI」はこのほど、西太平洋からインド洋にかけての広大な地域の将来についての報告を発表し、この地域の安定が21世紀の米国にとって最大の外交政策目標だと強調したうえで、いまその安定が中国の大規模な軍拡により脅かされていると警告した。同報告は米国が対策として同地域での軍事プレゼンスを強め、日本など民主主義諸国との連携を深めることを提言した。

 

 「インド洋・太平洋の共通地域の安全保障」と題された同報告はAEIのマイケル・オースリン研究員が主体となり、米軍のアジア専門家多数の見解を参考にしてまとめられた。同報告はインド洋と西太平洋に面した広大な地域の安全保障が米国とその同盟国である民主主義諸国にとって21世紀のこんご25年にわたる最大の挑戦であり、その安定が米国の最大の外交政策目標だと規定している。

 

 しかし同報告はこの地域の安定を支えてきた米国とその同盟諸国の軍事優位が中国の近年の大規模な軍事力増強により失われつつあり、「中国の軍拡は中国の地政上の影響力拡大の道具となり、中国の役割や意向をその内容にかかわらず地域諸国に受け入れさせる効果を発揮するようになる」と指摘した。

 

 同報告は中国の軍拡について「中国が自国への脅威がない状況下で軍事力を大規模に増強することは太平洋・インド洋地域の安全保障を自国にとって有利な方向へ再形成しようと求めていることの例証だ」と断じている。

 

同報告は中国軍の大規模軍拡の具体的な実態として①中国海軍は近年の世界でも最も顕著な軍拡を進め、2020年までに合計72隻の近代的攻撃型潜水艦を保有する②中国海軍はロシアから対艦攻撃巡航ミサイルをすでに買い、こんご10年間には空母最大6隻を配備する意図を持つ③この結果、中国海軍の戦略がすでに「遠洋防衛」へと変わり、中国海軍は東アジアでは最大の規模となった―ことなどを指摘した。

 

中国空軍について同報告は中国が①ロシア製SU27などの中国版の生産を急ぎ、次期の第五世代の戦闘機開発にはJ13,J14などのステルス戦闘機をも含める②空中給油によりはるか遠隔地まで一気に飛行できる能力を高め、在日米空軍の戦闘機や爆撃機への攻撃能力を高めた―ことなどをあげた。

 

同報告はさらに中国のミサイルに関して①中・長距離のミサイルは日本列島全域をはじめ東アジアのすべての米軍とその同盟諸国軍の基地を射程におさめるようになった②米軍を対象とする対艦弾道中距離ミサイルのDF21D

が開発され、米海軍艦艇への脅威を高めた―ことなどを強調した。

同報告は米国が中国のこうした動きに対する「21世紀の対策」として①東アジアの前方基地での軍事駐留を強め、同盟諸国の軍との提携を強化する②日本とインドとオーストラリアを三点で結ぶ三角形安保構想を進める③東アジアに米海軍の第二の空母を常時駐留させる―ことなどを実行するよう勧告した。

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