日本国民が大震災の被害者への礼を尽くして、種々の活動をキャンセルするなど「自粛」が一種の強迫観念となっている――

 

 こんな報道をしたのはニューヨーク・タイムズです。その記事の内容をつい3日前、私のブログで取り上げたところ、熱っぽい論議を招きました。自粛はもちろん程度の問題です。でもいまのままでは日本の経済までが停滞してしまうだろう。

そんな懸念が表明されるわけです。

 

 日本人だからこそ徹底してすべての活動を自粛するのだ。

 こんな主張もありました。これまた程度の問題です。

 でも自粛の現状はやや行き過ぎの観を呈してきました。

 だからこそ産経新聞までが一面で大きな記事を載せています。

 

 産経新聞と、ニューヨーク・タイムズと、日ごろの論調はかなり差がありますが、期せずして、いまの日本国民の「自粛」ムードに対してはいずれも、やや行く過ぎという判断をにじませています。というよりも産経のほうが慎重に、それとなく行き過ぎをなだめている、という感じです。

 

 しかしこの自粛の問題はこれからも大きな課題となるでしょう。

 日本の各メディアの間でも、この自粛の問題は私がニューヨーク・タイムズの記事を産経新聞に転載したのが初めてのようです。その後にこんどは産経独自の大きな報道を同じテーマについて展開したわけです。

  

 以下は産経新聞の4月2日の記事です。

 

 

【朝刊 1面】


萎縮しないで 花見や祭り自粛続々…西日本も 連帯意識表れ/経済停滞の声も


 

 

 

 東日本大震災後、国内に「自粛ムード」が蔓延(まんえん)している。祭りやイベントの中止が相次ぎ、めでたいはずの結婚式や入学式も延期が続出。それは 震源から離れた西日本も例外ではない。「被災地が苦しんでいるのに、自分だけが…」。日本人の「絆」の強さを示すと指摘される一方、「このままでは日本を 停滞させる」との声も上がる。

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 ◆戦後初の中止

 みこしを担ぐ威勢の良いかけ声とともに、東京の下町に初夏の訪れを告げる浅草神社の「三社(さんじゃ)祭」。毎年約150万人の人出でにぎわうが、今年は東日本大震災の影響で自粛が決まった。中止は戦後初めてだ。

 「東京を景気づけるためにも、やりたいのが正直なところだが…」。同神社禰宜(ねぎ)の矢野幸士さんはぽつりと語る。

 浅草は東北地方への玄関口だった上野駅に近いことから、被災地の出身者も多い。矢野さんは「祭りの準備そのものが『浮かれている』と、とらえられてしまう」と話した。

 中止を発表して以降、神社には賛否の声が寄せられたが、中止に賛成が6割ほど。反対意見の中には「自粛が経済の停滞を招く」との声もあった。

 約1万2千発が夜空を彩る「東京湾大華火祭」も開催を断念した。主催する中央区は「被害の深刻さが明らかになっていく中で、避難者の方々が厳しい生活を強いられていることに配慮した」と説明した。

 

 ◆被災者に配慮

 停電や余震の懸念が小さい西日本にも自粛ムードは広がっている。

 砂浜で日本酒を飲み干し、タイムや飲みっぷりを競う高知県香南市の「どろめ祭り」は昭和34年の開催以来、初めて中止。福岡市中央区の福岡城跡も城壁などのライトアップをやめた。「節電ムードからどうかと判断した。被災者の心境を考えるとやれない」(市緑化推進課)

 まもなく見頃を迎える桜の花見も影響を受ける。東京都の石原慎太郎知事は3月29日の会見で「一杯飲んで歓談する状況じゃない」と発言。花見の名所・上 野恩賜公園(東京台東区)は、園内の至るところに宴会の自粛を呼び掛ける看板が設置され、ごみ置き場や仮設トイレもなく、ひっそりとした花見シーズンを迎 えようとしている。

 

 ◆応援ムードで

 日本中に漂う自粛ムード。これに異論を唱える声も少しずつ出ている。

 静岡県の川勝平太知事は3月30日の会見で、「自粛ムードが必要以上に広がっている。むしろ応援ムードで行きたい」と、相次ぐイベント中止に苦言を呈した。大阪府の橋下徹知事も「大阪、関西は通常以上にしっかりやる」と過度な自粛は避ける考えを表明している。

 蓮舫節電啓発担当相は1日の記者会見で石原知事の発言に対し、「権力で自由な行動や社会活動を制限するのは最低限にとどめるべきだ」としたうえで、「経済に影響があるのかも冷静に考えるべきだ」との見解を示した。

 「被災地を思って慎むべきだ」「日本を停滞させる」。2つの意見を内包しながら、自粛ムードは今後も続くのか。

 立命館大の門田幸太郎教授(社会心理学)は「計画停電も実施され、電気を使用することで周囲に迷惑をかけているうしろめたさもあり、空前の自粛ムードに つながった。さらに日本人特有の『右へならえ』の心理も働き、拡大したといえる」とした上で、「ただそれが長期化すると、被災者が『自分たちが迷惑をかけ ている』と思うようになる」と指摘。「合理的判断に基づくもの以外、感情的な自粛はむしろ必要ないのではないか」と話している。

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 ■絆、復興に向けた力に イベント敬遠、CM再開困難

 「アルコールはちょっと。やっぱり自粛した方がいいんじゃないかしら」

 東京都調布市の保育園。卒園式にあわせ、保育士への謝恩会を計画する父母会の席で、園児の親からこんな意見が出た。

 震災から5日後。反対の声もなく、地元レストランで盛大に開く予定だったプランの大幅変更が行われた。「謝恩会」は「お別れ会」に名称変更。レストランでの飲食はキャンセルし、園内でひっそりジュースで乾杯をしたという。

 園児の父(43)は「4年間もお世話になったのに。これで良かったのか」と疑問を呈する。

 後ろめたさからか、祝賀イベントを敬遠する動きは絶えない。

 人生の晴れ舞台でもある大学入学式。私立大では、早稲田大が入学式を中止し、授業開始日を1カ月遅らせた。上智大、明治大、青山学院大、駒沢大なども入 学式を中止した。ある大学関係者は「新入生の親からも『式をやめた方がいいのではないか』との意見があった」と打ち明ける。

 

 ◆結婚式もキャンセル

 結婚式場「八芳園」(東京都港区)では震災後、挙式や披露宴の延期が60件以上あった。東北の親戚らが被災するなど、やむにやまれぬ理由もあったが、半 分以上は「こういう時期に祝い事は自粛したい」。年約2千件の結婚式が行われる庭園「椿山荘」(文京区)でも、同様に3月の式典30~40件がキャンセル や延期となったという。

 

 ◆放映イメージダウン

 経済活動にも自粛ムードが広がっている。

 震災後の数日間、民放キー局のCMは8割近くがACジャパン(旧公共広告機構)に置き換わった。CM総合研究所の関根建男代表は「自粛の規模は阪神大震 災より大きい。わが社を愛してくださいというアピールであるCMを、消費者が受け止める環境ではないと企業が考えた」と話す。

 徐々に企業CMは再開を始めているが、困難もある。大手医薬品メーカー「小林製薬」(大阪市)は震災6日後の3月17日から青森、岩手、宮城、福島の東 北4県を除いてCM放送を再開したが、直後から「CM放送を控えてほしい」などと、再開を快く思わない視聴者からのクレームが相次いだ。同社広報部は「不 愉快な思いをさせてしまったのであれば申し訳ない」と謝罪。ある食品メーカーでは「被災地に食べ物がないときに、食品のCMはできない。CM再開がイメー ジダウンにつながれば、本末転倒だ」と嘆いた。

 立正大の斉藤勇教授(社会心理学)は自粛ムードを「同じ日本人が苦しむ中、自分だけ楽しんでいいのかという“やましさ”の影響が大きい」と指摘。「こう した日本人としての連帯意識の強さは絆とも言い換えられ、決して悪いことではない。今後はそれを復興に向けた力に置き換えていく必要がある」と話してい る。

 大震災から時間が経過するにつれて、徐々にではあるが、前向きに一歩を踏み出す意識が期待されている。

 

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