リビア情勢の急展開が全世界の耳目を集めています。
国際社会の異端者リーダーだったカダフィ大佐もついに命運が尽きたようです。
ではこのカダフィ政権の崩壊が中東全体になにを意味するのか。
とくにアメリカにとってはリビアの新情勢はどんなインパクトを受けるのか、あるいはこれから与えていくことになるのか。
解説記事を書きました。
朝刊 国際
■米の中東戦略、再編へ 「カダフィ後」巨大な不安定要因
米国にとってリビアのカダフィ政権の崩壊は、中東での積年の反米の旗手の退場を意味する点で中東政策の前向きな再編成に画期的な門戸を開くこととなろ う。だがその一方、カダフィ大佐なき後のリビアの政治混乱は、中東の欧米寄り諸国の政情激変やオバマ政権の指導力発揮のためらいと絡み合って、地域全体の 不安定を増し、米国の立場を苦しくする危険も指摘される。
◆反米主義者の退場
1969年以来、42年間もリビアの権力を独占したカダフィ大佐の失脚は、米国にとって中東全域で最も長く最も目立った反米主義者の退場となる。
米国・リビア間では大きな衝突だけでも、81年のシドラ湾事件での両国軍の戦闘機同士の戦いのほか、86年のベルリンのディスコでのリビア工作員による 対米兵テロへの報復としての米軍のカダフィ大佐の宿舎爆撃や、88年のリビア工作員による米国パンナム航空旅客機爆破があげられる。
カダフィ大佐は国家元首に就任以来、一貫して反米の言動をとってきたが、2001年の米中枢同時テロ以降、国際テロへの反対を表明したほか、03年には 当時のブッシュ大統領の勧めに応じて核兵器と化学兵器の開発を停止した。この結果、06年にはリビアは米国とやっと外交関係を樹立した。
だがなおカダフィ大佐は米国への反抗スタンスを消さず、今回のリビアの反政権の決起に対しても米国の再三の反対を無視して冷酷な軍事弾圧に出た。米側で も「カダフィは全世界でも最も嫌悪すべき独裁者だ」(ブッシュ政権で中東政策を担当したポール・ウォルフォウィッツ氏)という酷評は変わっていなかった。
今回の中東情勢の激変ではエジプト、チュニジアなど親米欧路線国家の政権崩壊がほとんどだったが、なお反米姿勢を崩しきっていなかったカダフィ政権の崩 壊は、オバマ政権にとって中東情勢への取り組みを有利にする側面もある。カダフィ体制崩壊は、「アラブの春」が米国に支持される政権だけの破綻を意味しな いことを証したからだ。
◆パートナー探し困難
その一方、リビアはその反米の姿勢のために米国との絆は細く、米国にとってはカダフィ後のリビア情勢へのかかわりは難しい。米国の著名な中東専門家フア ド・アジャミ氏は、「カダフィ大佐は長年の独裁統治の間に、潜在的な野党勢力と市民社会とを抹殺してしまったために、米国は民主主義的なパートナーをみつ けにくい」と論評する。
今年冒頭からのリビアの反政権勢力の決起に対し、オバマ政権は物理的な支援をためらった。北大西洋条約機構(NATO)の反カダフィ勢力への軍事支援でも先頭に立つことを拒み、米国内では「背後にいて先導を装う偽善リーダーシップ」と皮肉られた。
反カダフィ勢力の公式な承認もこの7月なかばまで遅れた。こうした諸要因が米国に新生リビアへの着実なテコや影響力を持つことを阻むことも予測される。
リビアの新勢力も反カダフィでは明白でも、その実態はまだ不明な部分が多い。だから民主主義勢力の勝利として直線的な歓迎もためらわれる。カダフィ後のリビアが米国の中東政策への巨大な不安定要因として、のしかかりうるわけだ。
混乱や空白が対外的によりオープンで穏健な新政権の登場をも可能とする一方、エジプトなどで米国傾斜の政権を倒した新潮流がイスラム原理主義の影響を受 けやすいことを証したように、リビアでも過激な新勢力が権力を握ることも考えられるわけである。(ワシントン 古森義久)
コメント
コメント一覧 (8)
今回の北アフリカ諸国の革命は民衆が飢えているのに統治者の暮らしが贅沢だ許さんぞ的ないわゆるフランス革命的な側面が極めて大きい。
だがそれは裏をかえせば米のサブプライムローン崩壊やリーマン・ショックにはじまる金融危機で欧州が大ダメージを食らってしまい、
北アフリカにまわるはずの金が目減りしたことが大きい。
しかし私はこうも思う。
民を食わせられない統治者に価値はないとも。
日本でもそんな革命に似たことが起こったが、
そのあとはこの体たらくだ。
革命後の北アフリカ諸国を超がつくほど心配する。
欧州にたよらず自分たちで経済をまわす気概を見せない限り、
統治者を排したところで彼らの苦難は続くと思うからだ。
リビアと言う国は石油だけの単純で詰まらん国です。
そして、この国は三部族で構成された連合国家だったのに過ぎません。
先ず、国連決議で創設された国だと言うのが、いかがわしい。
民族の自決・自立によって樹立されたわけでも無い。
石油利権を握っていた王家は、キレナイカ地域の出自でした。
一方、経済の中心だったのはトリポリタニアです。
そして、カダフィ大佐は、経済的に遅れていたフェザーンの部族から革命を起こしました。
と言うわけで、カダフィ大佐は、イスラム社会主義とか謳いましたけど、地域別に差別・優遇する政策を取り続けてきたのは事実です。今回の反政府運動も、元々王家の拠点であり反抗的だったキレイナイカ地方から発生しました。結局、カダフィも単なる利権屋でして、圧制を強いる独裁主義者だけだったのだろうと思った次第です。
こうなりますと、後はアメリカの政治信条における大義たる民主主義に真っ向から刃向かう国として、リビアは不倶戴天の敵でありつづけたのだと思いました。
今後は、石油産出国として欧米先進国と穏健に付き合ってもらえることのみ、課題であろうと思います。
私見ですが、今回のケースは二重の意味でアメリカにとっての試金石となるのでは?
と考えます。
1、(他諸国と同様ですが)イスラムやチャイニーズに顕著な「部族血族氏族支配」を
乗り越え、所謂「民主主義を認める穏健イスラム国家への移行ロードマップ」をどう
構築するか。
2、アメリカが全面的に真正面から関与するのでは無く、フランス等の民主主義同盟国群
の相互連携によって「一国に負担の集中しない民主主義的復興協力の国際体制構築」
及び遂行。
まず一つ目の課題は「信仰の自由を相互に保証する唯一の体制が民主主義である」と言う
理解無くして(現地の人々の安心感が得られないでしょうから)実現は難しいかもと。
世界の民主化を目指す我々民主主義同盟国民がもう少しきちんと考えるべき課題だと
思っております。
二つ目の課題は、早速サルコジさんが活動を始められているようですが、是非とも有効な
協力分担スキームの確立を目指してほしいものです。
逆に最悪なのはイラクのように「支配部族が入れ替わっただけなのかも知れない」と言う
疑念をいつまでも持たなければならない状態を招く事だと思います。
「部族支配を乗り越えた民主化があって始めて安心して長期的援助が出来る」
北朝鮮や支那と言う『アジアの癌』を近隣に抱えた日本人としては、心からそう思います。
いろいろな見方があって自然だと思います。
きわめて的を射た、しかも超重要な2点ですね。
その回答はまだまだこれからでしょう。
この時点で答えについて断言するのは、責任に欠ける気もします。
たかが石油、されど石油。
でも国際社会の激動での石油が果たす役割は重視せざるをえない気がしますがーーー
でもあのあたりって他人の宗教の自由を認めたがらない人らが多いと思います。多国籍でやる場合は誰がどれだけの人員、物資、金を出すかで押し付けあいになるという欠陥があると思います。うまくいってもまずくいっても私の責任ってぐあいに1国が主導して介入し、他国は支援としたほうがいいでしょう。
>その回答はまだまだこれからでしょう。
確かに、拙速に過ぎました。
ご指摘ありがとうございます。