野田政権の登場です。

 

 しかしこの政権の登場がやがて民主党の自壊につながる、という興味深い評論がありました。

 

 産経新聞の政治部長のコラム記事です。

 

【朝刊 1面】
民主の自壊が始まった 政治部長・五嶋清

 

 菅直人首相よりはましな政権をつくってほしい。心からそう願う。今回の代表選に出馬した5候補の中で、もっとも安定感があるようにみえる野田佳彦財務相 が当選したことは歓迎すべきことだろう。前任者の菅首相、その前任者の鳩山由紀夫前首相の唐突な行動と突飛(とっぴ)な発言に振り回され続けた2年間だっ ただけに、民主党政権3人目の野田氏には落ち着いた大人の政治をぜひ実現してほしい。

 

 ただし、野田氏の政権運営は前途多難であることを予言しておこう。野田氏のつまずきの石になりそうなのは、第一に党運営である。とりわけ問題になるの は、野田氏の対抗馬だった海江田万里経済産業相を推した小沢一郎元代表のグループとの関係である。もっと簡単に言えば、小沢氏と手を結ぶのか、それとも小 沢氏を排除するのかという点である。

  

 野田氏は代表に選出された直後の演説で、「同志愛を感じた。ノーサイドにしましょう」と述べた。代表選期間中も「怨念を超えた政治」を掲げ、「絶対に挙 党態勢で仕事をしなければなりません」と訴えた。だが、ノーサイドも怨念を超えた政治も挙党態勢も、言うほど簡単ではない。

  

 小沢氏の方は、代表選後の海江田陣営の会合で、野田氏を支援する可能性を示しつつも、「これからの態勢次第だ」と警告した。あきらかに小沢グループに対する厚遇、あるいは小沢グループの政治的主張への配慮を求めていると思われる。

 

 たとえば、政策的には、政権公約(マニフェスト)の見直しについて小沢グループと野田氏の主張は異なる。増税をめぐる意見対立の解消も容易ではない。

 

 また、小沢氏は現在、政治資金規正法違反で強制起訴され民主党から党員資格停止処分を受けている。処分を解除すれば、野田氏に投票した多くの民主党議員の失望を招くだろうし、国民の支持も失いかねない。逆に解除しなければ小沢グループとの融和は難しい。

 

 今の民主党は、耳に心地良く高邁(こうまい)な理想に彩られた野田氏の巧みな演説がそのまま通用するような政党ではない。

 

野党との関係も難題である。ねじれ状況下の国会を円滑に運営するには野党に協力を呼びかけることは重要だ。野田氏は演説の中で、「思惑ではなく思いで、 下心ではなく真心で、論破でなく説得で」野党との協力関係を構築したいと言った。至極まっとうかつ真摯(しんし)な主張である。また、野田氏は東日本大震 災復興に向けて、「救国内閣」の樹立を提唱した。いわゆる自民党などとの大連立政権の樹立を目指す必要性を指摘したものだ。野田氏はその後にややトーンダ ウンしたものの今でも大連立を理想形と考えているようだ。

 

 だが、自民党内に強い異論があり、うまくいきそうにないし、野党の協力を得る前に民主党内の理解を得られそうにない。

 

 そもそも民主党自体が、小沢グループと反小沢グループによる大連立政党ではないか。野田氏が目指す大連立が震災復興という目的限定、期間限定の政権であるように、民主党という政党も政権交代を目的として主義・主張が異なる者が寄り集まった期間限定の大連立政党だ。

 

 野田氏はこの党内対立を超克する指針や日本の進む方向を打ち出せていない。羅針盤なき大連立はいつか崩れる。大連立民主党は自壊過程に入ったのではないか。(ごじま きよし)