TPP反対論のなかには事実と異なる主張が多々あることが判明しています。

医療制度、労働者流入、食品安全基準など、新たな「協定」ひとつによって、あるいはその交渉に加わるだけでも、日本の従来の制度があっというまに崩されるかの主張はデマゴーグと呼んでも的外れではないでしょう。

 

それら反対論者が自己の主張の空疎を指摘されると、「いまは対象になっていなくても、これからなる可能性がある」なんて逃げ口上を述べるのは醜い限りです。

 

実際にないものをあると言い張る。これはまさに「おばけ」をみたと叫ぶのと同様です。「TPPおばけ」とでも呼ぶべきか。その「おばけ」を分析した一文を紹介します。

 

日本経済新聞10月21日朝刊掲載の「大機小機」というコラムの一文です。

 

                 ========

『大機小機』

「TPPおばけ」の正体

 

「(冒頭略)TPPへの参加の是非を考えるときには、規制改革の視点が必要である。医療部門を例にとると、TPPに反対する医療関係者は、混合診療がTPPで解禁され、株式会社の医療経営への参入が認められることで皆保険制度が崩れ、米国企業などが利益を得ることを警戒している。

 

 しかしこうした各国の医療制度の根幹に関わることが、いきなりTPP交渉のテーブルに上るとは考えにくい。TPPでまず問われるのは、一定の国内制度を前提としたうえで、最恵国待遇や内外無差別原則が確保されているかといった点である。市場開放という観点では、日本はいまでも外国人が医療行為や病院経営をすることは可能である。

 

 根拠なくTPPの影におびえる反対論者の姿を、民主党の前原誠司政調会長は『TPPおばけ』と評した。しかし反対論者がおびえるのは、TPPではなく医療部門の規制・制度の改革ではないか。改革が進んで既得権益の構造に風穴が開くことを恐れているのである。しかし改革なしには国民医療費のとどめなき増加を抑えることはできない。

 

 医療分野に限らず、規制・制度の改革は、国民負担の増加を抑制すると同時に、成長戦略の柱となるものである。需要不足経済といわれるが、医療・介護や保育・教育といった分野は高齢化社会でも潜在需要が大きい分野である。規制は制度の改革で供給サイドを刺激し、潜在需要を顕在化させることができれば、需要不足は解消に向かう。

 

 TPPへの参加の有無にかかわらず、規制・制度の改革を進めることが日本経済の再生につながるのである。農業分野も例外ではない。TPPへの参加が決まれば、次は農業部門の改革と農業強化のための財政資金投入が議論になる。しかし農業が再生し、輸出競争力が高まれば、TPPの恩恵を受けるのは他でもない日本の農家自身である。

 

 野田政権にとって真の正念場はTPP参加を決断した後である。規制・制度改革断行の本気度が問われるからである。

                         ========