TPP反対の人たちの一部が唱える主張に「アメリカの陰謀」があります。

 

アメリカが日本を骨抜きにするため、国内を分裂させるため、収奪するために、仕組んだ術策が日本のTPP参加だというのです。

 

そんなことはない、と私もアメリカに駐在する日本人として誤解を指摘してきました。

 

日経ビジネスの田村耕太郎氏のコラムに同じ趣旨が書いてあるので、借用しました。アメリカは日本に対して陰謀を企てるほどヒマではない。日本にそれほどの関心は抱いていない。こんな趣旨が書かれています。そのとおりだと思いました。

「田村耕太郎の「経世済民見聞録」」

TPPが米国の陰謀だなんてあり得ない

米国内でも賛否分かれる超マイナー政策

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2011年11月8日(火)


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 日本に帰国している。最も驚いているのは環太平洋経済連携協定(TPP)に対する関心の高さだ。行きつけの定食屋の親父さんから一般の大学生まで「TPP」「TPP」と騒いでいる。テレビをつけると、主婦向けのワイドショーでもTPPを話題にしている。

 

 関心の高さに加えて、日本での議論の中身にさらに驚いた。反対派は「TPPはアメリカの謀略である」との意見である。申し訳ないが、謀略であるはずがな い。理由は簡単。アメリカにとって日本は、謀略を仕掛ける対象ではない。アメリカは力をなくしつつある。最重要地域になりつつあるアジアで、最大の盟友で ある日本の相対的重要性は増している。仮に謀略を仕掛けるなら、急成長するアジア太平洋の新興国市場に対してだろう。

 

 それに、与野党が足の引っ張り合いをしている今のアメリカに、謀略を仕掛けるエネルギーも能力もない。「アメリカ」と言っても、大統領、財務省、国務 省、連邦準備制度理事会(FRB)、商務省、通商代表、国家経済会議がそれぞれに自分の利害を主張している。一枚岩とは程遠い状況なのだ。

 

TPPの優先順位は低く、陰謀に値しない

 さらに言えば、アメリカにとってTPPは、謀略を仕掛けるに値しない政策なのだ。

 正直言って、アメリカ国民は、TPPなんて誰も知らない。賭けてもいい。ニューヨークからロサンゼルスまで、全米各地で100人に聞いてみても1人も知らないだろう。1000人に聞いても同様だろう。

 

 政策に精通しているはずの、アメリカ政府の中枢やシンクタンクの連中と話していてもTPPは話題に上らない。アメリカ国民は“貿易政策”に関心が低い。仮に貿易政策が話題に上っても、そのテーマはせいぜい米韓FTAくらいだ。

 

 日本がアメリカについて色々と思うほど、アメリカは日本について思ってはいない。簡単に言えば、アメリカは暇ではないのだ。アメリカ政府の最大の関心事 は、自国の経済問題。特に雇用だ。アメリカでは「経済や雇用に最も大切なのは資産効果だ」という認識がある。資産市場、つまり株と不動産の価格を上げるこ とがオバマ政権の喫緊の課題なのだ。従って現政権において、最も高い地位にあるのは財務省でありFRBだ。

 

 続いて、自身に飛び火しかねない欧州財政問題。日本も本来なら、“対岸の火事”では決してすまない欧州財政問題や、消費税増税を含む社会保障制度の一体改革にもっと焦点を当てるべきだ。

 

 この後に、イラン、イスラエル、リビア問題を中心とする中東問題が続く。そしてアフガン。その後が、サイバーアタック・台湾・通貨管理などを巡る対中政策だ。

 自由貿易など、次のまた次という感じだ。アメリカの輸出額は対GDP比で8%以下である。対GDPで輸出が200%を超えるシンガポールや50%を超え る韓国とは事情が異なる。アメリカの貿易政策の司令塔はアメリカ通商代表部(USTR)である。加えてNEC(国家経済会議)くらいが権限を持つ。現政権 において、USTRやNECの地位は低い。

 

自由貿易に懐疑的だったオバマ

 財政出動を嫌う共和党が下院で台頭したため、財政支出を伴わずとも雇用を増やせるかもしれない“貿易政策”に対する注目度が少しは高まった。しかし、そもそも民主党、いやオバマ政権は自由貿易に非常に懐疑的である。

 

 2008年の大統領選の前から、候補者オバマは自由貿易に懐疑的な発言を繰り返していた。実際、ブッシュ前大統領が締結していた米韓FTAを最近まで棚 上げしてきた 。最近になって自由貿易政策の重要を説き始め、米韓FTAを議会で通過させた。この点についてオバマ大統領は、その支持基盤である民主党からさえ批判を受 けている。