最近の日本の出版界では珍しいノンフィクション大作の紹介です。

 

 『「安南王国」の夢』著者はすでにこれまで2冊の迫真のノンフィクションをあいついで世に出した牧久氏です。牧氏は日本経済新聞社の専務から副社長まで務めた人物ですが、もともとは敏腕記者で社会部で活躍した後、ベトナム戦争の最終時期に南ベトナムのサイゴン特派員を務めました。

 

牧氏がここ数年に刊行したのは『サイゴンの火焔樹』、そして『特務機関長 許斐氏利』という2冊の大著です。その2冊に続く今回の書を含めて3冊を貫くテーマはベトナムです。

 

『「安南王国」の夢』はベトナムの独立運動を助けた日本人群像を歴史をさかのぼり、立体的に描いています。なかでも大南公司という日本の貿易会社を興して活躍した松下光廣という人物にハイライトを当てています。松下氏が助けたのはベトナムの王族で、独立を図って、フランス当局に迫害され日本に亡命したクオン・デという人物です。

 

本書は明治時代から日本軍のインドシナ進駐、そしてベトナム戦争、さらには21世紀の現代ベトナムと、異なった時代を次々に追いながら、ベトナムと日本との交流を人間ドラマとして紹介していきます。本格的なノンフィクション作品といえます。

 

そしてその結びに牧氏の次のような文章があります。

 

「しかし(日本の東南アジアでの戦前の活動を)『侵略戦争』や『ファシズム』という言葉ですべてを一括りにすれば、表に一切、出ることもなく、自らも語らず、ベトナム人の独立の悲願を応援し続けた多くの日本人がいた事実は、闇の中に葬られ、歴史の真相は見失われるのではないか。今、ベトナムはかつての桎梏から解き放たれて完全独立を果たし、政治形態は違っても、人々の生活は向上の一途を辿っている。クオン・デや松下光廣と彼の同志たちの”魂の叫び”は実現したのである。彼らの思いや行動を書き直すことは、今後の日越友好の深化に大きな役割を果たす、と私は信じている」

 

「日本でも松下たちが信じた『アジア解放の大義』は、『帝国主義的侵略の一環』として”断罪”され、歴史の表舞台に立つことはない。松下の心の奥には、まだまだ語り足りないことがあったのだろう」

 

これらの総括を含めての私の本書の解釈は、著者の牧氏は「アジア解放の大義」を一応、否定してみせながらも、その反面、全書にわたって、いやいや、大義は実はあったのだ、という基本を圧倒的な事実の積み重ねで読者に語りかけている――という骨子です。