共和党全国大会の直前に書いた私の記事です。

 

【朝刊 国際】


【米国のかたちを問う 2012大統領選】(5)外交政策 哲学的な差異


 

 ■オバマ氏「アメリカの例外主義があるならば、イギリスやギリシャの例外主義もあるだろう」

 ■ロムニー氏「主導権を発揮することは 恥ではなく、必要であり、誇りに思う」

 

 「アメリカの例外主義」-。世界の中でも米国だけは特別の価値観や道義の下に他の諸国を導く責務があるという外交政策の基本理念である。米国だけは国際社会でも他国とは異なるという前提だから「例外」と呼ばれるわけだ。

 

 他国を「従」の立場におく響きのために対外的な公式政策用語として使われることはないが、米国内の外交論議ではよく登場する。2度の世界大戦での決定的 な役割に加え、戦後から現在にいたる国際秩序の構築をみても、米国が実際に例外的な役割を果たした事実は否定できないだろう。

 

 米国の歴代大統領もみな外交では程度や表現の違いこそあれ、基本は例外主義を信奉してきたというのが米国学界のコンセンサスでもある。だがオバマ大統領だけはそれに公然と背を向けたのだった。

                   ◇

 ◆決定的な失態なし

 

 「アメリカの例外主義があるならば、イギリスやギリシャの例外主義もあるだろう」

 

 オバマ氏は世界ではどの国も同等だという前提から外交を始めることを宣言した。諸外国からは歓迎はされても米国内では激しい論議を生んだ。この前提から のオバマ外交は多国間の平等な協議、謙虚で柔軟な姿勢、軍事力よりもソフトパワー、2国間同盟よりも国際安保-などを指針に出発した。いわゆるオバマ・ド クトリンである。

 

 一方、共和党の大統領候補、ロムニー前マサチューセッツ州知事は「アメリカ例外主義」の旗手ともされたロナルド・レーガン元大統領の「力による平和」への共鳴を表明し、21世紀を「アメリカの世紀」と評して、オバマ氏とは正反対に近い主張を語る。

 

 「米国が世界で主導権やパワーを発揮することは恥ではなく、必要であり、誇りに思う」

 

 副大統領候補のポール・ライアン下院議員にいたっては「例外主義」という言葉を明確に打ち出して、世界での米国の影響力の回復を唱える。

 

 民主党と共和党、現職と挑戦者の間では、「大きな政府」と「小さな政府」という内政の違いと同様に、外交政策でも深遠な哲学的な差異と呼べるほどの対立が鮮明なのである。

 

 しかし、過熱する選挙キャンペーンでは外交はまだ激論が噴出するにはいたっていない。不況の回復を中心とする経済の課題があまりに大きいことにもよるのだろう。オバマ政権が外交面でこの3年半、決定的な失態は犯さなかったことも、原因だといえよう。

 

 民主党系の「外交評議会」レスリー・ゲルブ会長はオバマ・ドクトリンには「不明確」と留保をつけながらも、オバマ外交には及第点以上をつける。

 

 「とくに困難で危険な課題を避けながらも着実に多くの実績をあげ、米国の声価を復活させた。結果として中道の外交を展開し、対テロ闘争では、(国際テロ組織アルカーイダの指導者)ビンラーディン容疑者の抹殺という大きな成果をあげた」

                   ◇

 ◆「消極的」非難の声

 

 しかし、共和党側では「オバマ消極外交」による米国の影響力や指導力の後退を非難する。ロムニー陣営の外交政策顧問ジョン・ボルトン氏が述べる。

 

 「シリアの民主化闘争で米国は『背後から導く』とけなされたように、消極性によりイランや北朝鮮の核兵器開発を抑えられない。アフガニスタン政策も欠陥だらけ、ミサイル防衛網の縮小や国防予算全体の大幅な削減を許して、世界の不安定と危険を増している」

 

 一方、ロムニー氏には国政レベルでの外交や安保の政策体験がない。日本との同盟関係重視を唱えながら日本の衰退について非礼な発言をしたのも経験不足に帰されている。

 

 そのロムニー氏が最も力をこめて非難するオバマ外交は中国政策だ。人権でも軍事でも経済でも軟弱に過ぎると主張し、公約として就任直後に中国を「為替 レート不正操作国」に指定し、制裁措置をとることを誓う。やはり中国の影は米国大統領選の外交論戦でも巨大なようなのである。

 

(ワシントン 古森義久)= おわり