尖閣問題と日中関係についての一文です。

 

【朝刊 1面】


【あめりかノート】ワシントン駐在編集特別委員・古森義久


 

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(ロバート・サター氏)

 

■中国の無法を糾弾せよ

 

 尖閣問題での中国の対日威嚇に対し日本側の一部には、あたかも日本が悪いかのような倒錯した議論がある。日本政府が尖閣諸島の国有化という措置をとった ことに中国政府は暴力的な反日デモをあおり、大規模な暴動や略奪を許して、威圧してきた。その結果、日中関係が険悪となった。この流れに対し、国有化措置 が反日デモの原因だから、その措置を反省し、再考すべきだという自虐的な主張が日本側で聞かれるのだ。

 

 日本の措置は平和的かつ合法だった。中国の反発は暴力的かつ違法だった。この2つを同次元におき、前者を不当な原因であるかのように論じるのは、奇妙である。この点をいぶかっていたら、米国の中国研究の権威、ロバート・サター氏から的を射た論評を聞き、うなずかされた。

 

 「米国やその他の中国周辺諸国にとって今回の事件の最大の教訓は、中国側が日本の尖閣国有化という平和的で、さほど重大でもない措置に対し、それを侮辱 とみなし、無法で異常な行動を爆発させたという、中国の国家としての予測不可能性です。全国百二十余の都市での反日のデモや暴動の組織と扇動、そして貿易 面での報復措置など中国政府の行動はみな暴力的で違法だという基本を認識すべきです」

 

 サター氏といえば、1970年代から米国政府の国務省、中央情報局(CIA)、議会調査局、国家情報会議などの諸機関で中国研究を専門とし、対中政策の 形成にかかわってきた長老的なチャイナ・ウオッチャーである。2001年からはジョージタウン大学教授、昨年からはジョージワシントン大学の教授となっ た。政治的には民主党系であり、中国への対応も中道と評される。

 

 サター氏によれば、日本の尖閣国有化は明白に東京都の購入で起きうる中国にとってのより刺激的な変化を防ぐための抑制措置だった。中国政府も当然、知っていた。

 

 「中国当局は日本に対し法律や国際規範の枠内での、強固で効果のある抗議をぶつけられたのに、一気に違法で暴力的な行動に走ったことは関係諸国に中国の 予測不可能性と無法性とを衝撃的に印象づけ、中国のレッドライン(これ以上は許容できないという一線)の位置を全く不明にさせました」

 

 確かに中国の行動は無法である。広大な国土の多数の都市で同時に大規模な人間集団が日系の施設を襲い、略奪を働く。政府がその暴力を仕掛け、仕切る。サター氏は「21世紀の主要国が取る行動とは思えません」とも批判する。そして各国の反応について述べるのだった。

 

 「世界でも最重要な地域の中心となる世界第2の大国が公式には『平和的発展』を唱えながら、これほど無法な暴力行動に出たことは、南シナ海でのフィリピンへの軍事的威嚇と合わせて、各国の中国への信頼を喪失させ、中期、長期の対中姿勢にも重要な変化をもたらすでしょう」

 

 サター氏は中国の対日行動について「核心は違法だという点です」と繰り返した。確かに日本ビジネスの破壊や略奪は中国の国内法でも違法である。しかも日 本側の適法で非暴力の措置に暴力で応じる前例は05年にもあった。日本の国連安保理常任理事国入りへの動きに対する反日暴動だった。当時の小泉純一郎首相 の靖国参拝への反対は後からつけた「理由」だった。

  だから日本は今回の対立では、あくまでも中国のこの無法を糾弾すべきなのである。

 

(ワシントン駐在編集 特別委員)