中国研究の泰斗、中嶋嶺雄氏が中国共産党の新指導者たちについて書いています。

 

 とても貴重な分析です。

 

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【正論】国際教養大学理事長・学長 中嶋嶺雄 統治の限界さらした中国共産党
2012年11月20日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面

 5年に1度の中国共産党大会が閉幕し、胡錦濤体制が終わり、習近平国家副主席を最高指導者(党総書記)とする新指導部がスタートした。今回の第18回党 大会は、開会予定日の公表の遅れから、クリントン米国務長官との会談キャンセル(9月上旬)をはじめとする習氏の2週間もの動静不明、薄煕来重慶市党委員 会書記の失脚とその妻の英国人殺害まで、多くの謎に包まれた、実に不明瞭かつ不透明な政治的儀式でもあった。

≪中国指導者選びの真相は?≫

党規約改正や最高指導部(政治局常務委員と政治局委員)の人事に関する報道はあっても、なぜ習近平氏が最高指導者になったのかという重大な点に関する本当のところは一切、分かっていない。

党大会人事では、従来の最高指導者、胡総書記(国家主席)、温家宝首相らの共青団(共産主義青年団)系、習氏らの太子党(高級幹部子弟)系、江沢民前国家 主席らの上海閥という三派の熾烈(しれつ)な党内闘争の報道は多くなされ、今回は江氏に支持された太子党が政治局常務委員の大勢を占め、5年後の次期大会 では政治局委員レベルで優位を占める共青団系が復権するといった予測も流れている。

政治局の党書記処という日常的に党務を預かる常務書 記に劉雲山党宣伝部長、中国社会に蔓延(まんえん)する汚職の取り締まりに重要な役割を担う中央規律検査委員会書記に王岐山副首相と、江氏に近い人物がそ れぞれ就いたことも、習体制の性格を表しているといえなくもない。不正蓄財を報じられた胡、温両氏に、摘発の矛先が向かうかもしれない。しかし、最高指導 層のこれらの人脈が将来とも、同じ派閥として維持されるかどうかは不確定であるし、共青団系であると同時に太子党である者もいて、峻別し難い指導者も少な くない。

≪解散劇に比べ何とも不透明≫

いずれにせよ、政局が緊迫し国民がテレビで見守る中で、野田佳彦首相が11月16日の衆院解散を突然言明した政治劇に比べれば、中国政治の何と不透明なことか。

その最大の理由は、極めて厳しい検閲と統制の下で開かれた共産党大会が、厚いベール越しでも見え隠れしたように、党内の激しい権力闘争に遭って収拾をつけ るのに難渋したことにあろう。対外政策を含む中国政治のカギは常に党内の権力闘争にあることを、今回も実証したのではないか。

それにし ても、2009年10月1日の建国60周年の軍事パレードが行われた翌日の2日付の党機関紙、人民日報は、引退した江前国家主席を、胡総書記の右側に並べ て大きく報道したが、今回も、党大会開会式のひな壇には、現指導層とともに、江氏をはじめ李鵬元首相や朱鎔基元首相、曽慶紅元国家副主席ら引退組の保守 派、上海閥長老が並んでいたのであった。

確かに、江氏の影響力が依然として強いことをうかがわせる光景であったが、こんなことでは、米国に続く超大国たらんとしている中国は、政治のガバナンスの在りようから根本的に問われざるを得ない。共産党政治もいよいよ終焉(しゅうえん)に近づいているのではないか。

ところで、過去10年間にわたり中国を指導してきた胡氏は今回、全ての党ポストを離れ、保持するとも予想された党中央軍事委員会主席のイスも習氏に譲って いる。そのことが称賛され、胡氏が唱えた「科学的発展観」は、指導思想として新しい党規約に位置づけられた。「科学的発展観」に基づく「小康社会」(急成 長を小休止する社会)の実現という胡氏の問題提起は、膨張拡大しつつある今日の中国社会に必要な指導理念として評価されるべきではあろう。

≪習氏の対日姿勢かなり強硬に≫

だが、一方で、その前提であるべき政治の民主化や情報の開示、それにチベット、ウイグルなど少数民族に対する政策や天安門事件再評価問題などについては、全人口の40%以上になんなんとしているネット社会への厳しい検閲とともに、何ら評価には値しない。

もっとも、その胡氏の指導理念を、習氏は党規約に奉りながら、それに忠実であろうとする気配が感じられない。党大会終了翌日の中央委員会報告や新指導部を 紹介する記者会見でも、「科学的発展観」には全く言及しなかった。これまでも規約は実行されることが少なかったとはいえ、である。これは党大会直後にして すでに、新たな権力闘争が始まっていることを物語っているのではないか。

習氏は前述の記者会見で、「わが民族は偉大だ」とし、中華民族 という言葉を何回も用い、「国の海洋権益を断固守る」と言明している。09年12月に訪日して天皇陛下と会見したときの態度にも示されたように、習氏の対 日姿勢はかなり強硬かつ戦略的ではなかろうか。それだけに、尖閣諸島の問題でも、わが国は中国の出方に対する外交戦略と分析能力を最大限に強化することが 求められよう。

この点では、この11月13日に、チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世が初めてわが国の国会内で講演できたことなどは、対中国外交戦略強化の一環として、高い評価に値すると私は思う。(なかじま みねお)