【朝刊 国際】


【緯度経度】ワシントン・古森義久 米分析、中国の尖閣戦略


 

 東シナ海や南シナ海で中国が威を振るう海洋戦略を世界でおそらく最も体系的に、最も詳細に研究する機関は米国の「中国海洋研究所」だろう。米海軍大学の 一部として2006年に特設されたシンクタンクである。東海岸ロードアイランド州の海軍由緒の都市ニューポートに所在する。

 

 中国海洋研究所ではアンドリュー・エリクソン、トシ・ヨシハラ、ジェームズ・ホルムス各氏ら中国の海軍、海事の分析で知られる専門家二十数人が研究教授 陣として機能する。だがなかでもこの分野の研究で著名なのは所長のピーター・ダットン教授である。ダットン氏は米海軍パイロットを経て法律を学び、さらに 中国の海洋戦略の研究へと進んだ人物で、中国の海での動向について頻繁な議会での証言や論文の発表で広く認知されている。

 

 そのダットン所長に最近の尖閣諸島に対する中国の戦略や日本の対応についての見解を聞いてみた。同所長は総括として中国が当面、軍事力の間接使用を含む多様な攻勢で日本側に領有権紛争の存在を認めさせることに全力をあげるだろうと述べるのだった。

 

 「日本側の国有化はそれ自体、さほど大きな措置ではないが、中国はその動きを利用して、これまでの政策を変え、中国の主権主張により尖閣には領有権紛争が存在することを日本側に認めさせる決意を誇示する方向へと進んだ」

 

 ダットン所長はさらに「中国政府は自国民が尖閣取得を強く望むようになったと認識し、そのために日本に譲歩をさせることへの圧力が高まったと感じてい る」と語った。そしてその手段としては「日本に対し軍事力を直接ではなく間接に使い、他の経済や政治、外交の手段と組み合わせて多様で総合的な威圧をかけ るという方法を当面はとっていく」という予測を明らかにした。

 

 中国がいま尖閣に対し直接に軍事力を使おうとしない理由としてダットン所長は日本や米国の反撃能力の強さ、中国の国際的な評判の失墜、実際の軍事面での 損失などをあげ、「中国は2008年ごろから海洋の領有権紛争の相手に対し軍事力を背景にして石油企業など国有企業による経済圧力、漁業監視や国境警備な どの準軍事、非軍事の公船の投入、経済制裁の実行、外交的非難など国力のあらゆる手段を使う総合的な圧力作戦をとるようになった」と解説した。

 

 同所長の分析によると、中国の海洋戦略は建国の1949年から70年ごろまでは無関心、それ以後の95年ごろまでは軍事力優先、その後の2008年ごろ までが微笑作戦、以降、現在までの期間は軍事力を背景に政治、経済、外交の多様な手段を動員する総合的アプローチという特徴で区分できる。だが現在でも中 国は紛争の相手に軍事力を至近距離で示し、威嚇することも常で、その軍事力の間接利用が予想外の軍事衝突を招く危険もあるという。

 

 ダットン所長は日本側の対応についても語った。

 

 「中国が直接の軍事攻撃を考えていない以上、海上保安庁の船艇で恒常的に警戒するという現在の方法が当面は最適だろう。事実上の尖閣付近の日本側領海で の常時駐留ということになる。尖閣諸島自体への自衛隊配備は中国への挑発になりすぎるため、いまは控えることが賢明だと思う」

 

 米国の態度についてダットン所長は「オバマ政権による日米安保条約の適用言明は尖閣が攻撃されれば、日本側を守るという米側の政策意図の表明であり、疑いの余地はない」とも語るのだった。

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