オバマ政権二期目の中国への政策がどうなるか。

 

その続きです。

 

私が雑誌「正論」の2013年新年号に書いた論文です。

 

論文のタイトルは「第二次オバマ政権の対中政策はこうなる」となっています。

 

 

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では、アメリカは新しいアジア・シフト戦略として、具体的にどのような措置を取ろうというのか。パネッタ、クリントン両長官の発表や発言を総合すると、その2011年10月の時点では以下のような意図が浮かびあがっていた。

▽日本と韓国という年来の同盟相手との防衛の絆を強め、深める。

▽オーストラリアの駐留規模を拡大し、合同演習を増す。

▽シンガポールに沿岸警備艦艇を配備し、太平洋からインド洋にかけての警備活動を強める。

▽フィリピンへの艦艇の寄港を増やし、地元テロ対策部隊の訓練にあたる。

▽中断してきたインドネシア軍の訓練を再開する。

▽インドやベトナムとの防衛交流を進める。

 クリントン国務長官は、アメリカのこうした動きを「新しい世界の現実への対応」とも形容した。その具体的な措置の連携相手である日本、韓国、オーストラリア、シンガポール、フィリピン、インドネシア、インド、ベトナムと、その各国を線で結べば、中国を大きく取り囲む円が描かれる。中国包囲網というのは大げさだろうが、その動きの主対象があくまで中国であることを示す地理的な構図がはっきりと浮かぶとはいえよう。要するに対中新政策なのである。

 この新政策をさらに細部にわたって明確にしたのが同じ時期の2011年11月のアメリカ国防総省による「空・海戦闘(エア・シー・バトル)と呼ばれるアジア重点の新戦略の発表だった。

この新戦略の内容は中国の軍拡の脅威にアメリカがついに正面からその抑止策を取ることを宣言したかのようだった。国防総省は同年11月9日、報道陣に対し、「空・海戦闘」戦略の構築と、そのための新たな「空・海戦闘局」の開設を公表した。

 この措置は、中国が明らかに米軍を対象に新しい兵器を配備し、撃って出る戦術を発展させていることへの抑止策として、中国の主要拠点を空と海から、さらにはサイバー攻撃や宇宙戦略によって反撃を加えられる能力を高めるという骨子だった。この新戦略により米中両国間の安全保障関係は新時代に入ったといえる。やや誇張するならば、米中新冷戦の幕開けという印象さえ生まれていた。

国防総省高官の説明によると、この「空・海戦闘」は「海洋戦略」「空軍力」「海軍力」「サイバー攻撃力」「宇宙開発」という5分野に及ぶ軍事戦略だという。さらに具体的な内容としては米軍側には以下のような目標が挙げられた。

▽中国の新型の対艦ミサイル破壊のための空海軍共同作戦
 ▽米軍用の人工衛星の機動性の向上
 ▽中国の「接近阻止」部隊への空海両軍共同のサイバー攻撃
 ▽有人無人の新鋭長距離爆撃機の開発  
 ▽潜水艦とステルス機の合同作戦
 ▽海空軍と海兵隊合同の中国領内の拠点攻撃
 ▽空軍による米海軍基地や艦艇の防御の強化

 こうした目標をみると、いかにも米軍が中国軍を相手に戦争を始めるかのようにも思えるが、実態はこうした目標を可能にする措置を取り始める、ということである。

 米軍がそうした軍事能力を保持して、中国側から威嚇や攻撃を受けた場合には断固、反撃するという態勢を築けば、そのことが中国側の冒険的な軍事行動を抑止することになる、という考え方である。まさに抑止の措置なのだ。

 それでもなおアメリカのこうした動きを、奇異に感じる向きもあるだろう。アメリカと中国は貿易や金融という面で密接な補完関係にある。対テロ闘争や大量破壊兵器拡散防止では、協調の態勢をも保っている。だが、それでも中国は明らかにアメリカを主目標としているとしか思えない一連の軍事措置を取り、総合的な軍事能力を高め続けている。アメリカ敵視とみるしかない動きである。このあたりが米中関係の複雑さのエッセンスだろう。

 

 オバマ政権は2009年1月の発足当初から中国に対してはきわめて協調的、ソフトな構えをとってきた。けなげなほどの融和の歩み寄りの姿勢だった。そのころのワシントンでの対中関係を評する言葉はまず「関与」そして「ステークホルダー(利害共有者)」だった。アメリカと中国が二国だけで世界の先導役を務めるという意味の「G2」という用語さえも政策目標として語る人たちが政権内外に存在した。中国の人権弾圧への非難さえも差し控えるようになった。

 この対中融和政策の大目標は中国がいまの国際的な秩序や体制にその既存のルールを守りながら加わるという展望だった。戦後の国際秩序はやはりアメリカ主導である。安全保障面ではアジアでも欧州でも米軍の前方配備や核抑止力により平和や安定が保たれ、繁栄が生まれた。政治面でもアメリカ主導の民主主義諸国が国連を使いながら、自由や人権という普遍的な価値観を拡大した。経済面でも自由市場経済を主体に世界貿易機関(WTO)の結成はアメリカが最大の推進役を担った。

 オバマ政権は中国が責任ある主要国としてこの国際的な秩序や社会にスムーズに加わることを求めたのである。だが結果は失敗だった。中国が既成の国際的な秩序や合意を無視して行動する事例があいついだ。その結果、アメリカ側では「G2は幻想だった」という失望までが表明されるようになった。

 オバマ政権をとくに目覚めさせ、警戒させたのは中国の軍事面での動きだった。中国がここ20年も「近代化」の名の下に大規模な軍拡を進めていることは周知の事実だが、オバマ政権が登場する前後からどうみてもアメリカを最大の標的としての軍事能力増強を図っているとしか思えない動きをとり続けるようになったのである。

 たとえば以下のような出来事があった。

▽中国は明らかにアメリカ側の人工衛星を標的として想定する衛星破壊ミサイルの実験を断行した。

▽中国軍は、台湾有事などで米軍部隊の接近を阻む「接近阻止」策を強調し、そのために米側の空母などを標的とする対艦弾道ミサイルを開発した。

▽中国軍は初の空母の配備に加え、新鋭のステルス戦闘機の開発に乗り出している。

▽中国軍は米軍の中枢へのサイバー攻撃を頻繁に実行するようになった。

▽中国は南シナ海や東シナ海で増強した軍事力を誇示して、周辺諸国を威嚇する行動を取るようになった。

以上の動きのなかには衛星破壊実験のようにオバマ政権の登場以前に起きたケースもある。だが流れとしては中国の宇宙でのそうした軍事能力の増強はその後も続いているのだ。

 オバマ政権は中国の顕著な軍拡にはもちろん気づき、懸念を抱いてはいたが、その懸念を軍事面での新しい戦略の構築につなげるところまではしないままできた。ところが政権担当も2年余りが過ぎて、中国が単に軍事増強だけでなく、アメリカを対象としての具体的な軍事手段をつぎつぎにとるにいたり、米側は基本姿勢の修正を迫られるようになった。

中国に対してソフトな姿勢を保つことに努めたオバマ政権も、ついに軍事的な対応策を示さざるを得なくなったのである。中国側の軍事増強志向をもう黙視してはいられないと判断したということだろう。

米国防総省は中国のこうした強硬な対米軍事姿勢に対し、ついに抑止としての積極的な攻撃能力を高める具体的な措置を取ることを明らかにするにいたったというわけである。

だから、こうした点だけみれば、米中関係の変容とか新時代という形容もそれほど誇張とはならないというわけだ。

(つづく)