北朝鮮による日本人拉致事件の解決の場を国連にも求めようという意見が日本側には多々あります。

 

そのへんをうまくまとめた「救う会」の西岡力会長の論文がこのほど産経新聞に掲載されました。

 

 

 

【正論】東京基督教大学教授・西岡力 拉致解決は安保理を「主戦場」に
2013年03月25日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面

 国連人権理事会が21日に、拉致問題を含む北朝鮮の人権問題を調査する委員会を設ける決議を採択した。委員会設置へ向けて積極的に動いてきた日本の政府、民間関係者の努力を多としたい。

≪政治犯収容所発覚から20年≫

13日にジュネーブで開かれた非政府組織(NGO)の集会では、北朝鮮の政治犯収容所出身の脱北者が「自分は何回、この体験を話さなければならないのか」と嘆息しながら語ったともいう。

残虐極まりない政治犯収容所の実態が明らかになったのは1990年代半ばだ。咸鏡南道耀徳郡にある収容所(第15号管理所)に10年間入れられていた姜哲煥氏が92年に韓国に亡命し、95年に初めてその実態を告発した手記『北朝鮮脱出』を日韓で発表した。

同じ95年、韓国有力月刊誌、月刊朝鮮3月号が、元収容所警備兵で脱北した安明哲氏の手記を掲載した。時の同誌編集長だった趙甲済氏から、「収容所で行わ れている許しがたい人権蹂躙(じゅうりん)を日本でも広く知らせてほしい」と深刻な顔で訴えられて、その手記を、私が編集長をしていた月刊の現代コリア7 月号に全訳して載せ、ブックレットとしても出版した。

姜哲煥、安明哲の両氏の告発は事実であることが後に、多くの脱北者の証言や衛星画像などから証明された。その当時から20年近くもたってやっと、国連が調査をするというのだ。国際社会の対応が遅きに失した恨みは残る。

調査委設置の拉致問題への効用についても、先のNGO集会で証言した拉致被害者の家族会の増元照明事務局長は、こういう趣旨を述べている。「北朝鮮が調査 に協力するわけがないから被害者救出に直接関わる情報が調査の結果出てくることはない。ただ、国際社会が拉致問題に関心を持っているということが北朝鮮に 伝わることは若干でも役立つと思う」

訪朝した小泉純一郎首相に金正日総書記が拉致を認めて謝罪した2002年9月以前、産経新聞を除く 大半の日本マスコミが「拉致疑惑」などとして、日本人拉致を事実と認定していなかった時点なら、国連の調査結果は被害者救出運動に助けになっていただろ う。だが、当時、国連人権理事会の前身組織の傘下機関、強制的失踪作業部会は、被害者家族とわれわれが行った申請を事前審査で却下して正式議題にしなかっ た。

≪調査委の「側面支援」に期待≫

それでも、国連が委員会を発足させ調査に乗り出すことは国際的関心を高めて、北に一定の圧力をかけるという点で意味がある。ただし、それはあくまで側面での戦いであって、被害者全員救出を目指す「主戦場」ではない。

では、主戦場はどこか。

それは、北に強制力を加えられる所でなければならない。国連でいえば安全保障理事会だ。

北の3度目の核実験を受けた3月8日の安保理決議は、対北経済制裁の履行を加盟国に義務化し、制裁を、「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関す る行動」を定めた国連憲章7章に基づくと位置付けた。だが、残念ながら日本政府が求める「拉致を含む人道上の懸念」という文言は入らなかった。それがうた われないなら国連分担金の支払い停止を検討するというぐらいの圧力を、国連にかけるべきではないか。

≪北に対しては強制力が必要≫

安倍晋三政権はこの1月、「認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国のために全力を尽くす」との政府方針を決めた。それには、何といっても、強制力が必要だ。

わが国は、拉致と核・ミサイル開発を理由に単独でも厳しい制裁を科している。だが、在日朝鮮人と日本人の日朝往来がほぼ放置されている現状は大いに問題 だ。人の往来を原則として止め、米国と協力して金正恩政権が海外の銀行の秘密口座に隠す数十億ドルの資金を凍結して、外貨収入源を断つ努力をしなければな らない。

経験則に照らせば、核問題で米国が圧力をかけると、北は日本に裏交渉を仕掛けてくる。野田佳彦前政権時代にも、北はさまざまなルートで対日接近を図り、怪しげなブローカーや拉致棚上げをもくろむ親北人士が暗躍した。

それに比べ、安倍政権は首相と担当相、全閣僚が参加する対策本部とその事務局が一本のラインとなり、実質的交渉ができる体制が整っているようにみえる。

ここ数年、北の内部情報がかなり取れるようになってきた。北による核開発・拡散の阻止へ向け日米同盟と日韓友好関係を固め中国による北甘やかしを牽制(け んせい)しつつ、日本が絶対に譲れない拉致問題で独自に北朝鮮と接触できる環境も作ってほしい。北の体制崩壊と混乱に備え、被害者救出作戦の準備も進めな ければならない。

曽我ひとみさんは救出されるまでの24年間、月や星を見上げ、同じ夜空を家族や同胞も見ているだろう、いつ日本から救いの手が届くだろうかと思い続けていたという。今、この瞬間も、多くの拉致被害者が同じ思いで待っている。安倍政権の使命は、重い。(にしおか つとむ)